夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第12話 久しぶり

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快速蜘蛛スピーダーを無力化したのと同じように、豚男ピッグマンも毒蔦で無力化し、ストレージリングに収納する。
と、ズシリとリングの重さが増したように感じた。
豚男ピッグマンは相当重い様だ。

動くのに支障をきたすほどでは無いけど、放置するメリットもないし、魔石を分離して入れ替えようとリスト表示を確認する。

「ん?」

リストを確認していて思わず声が出た。
リストには、[豚男(生)]の表示が増えていたんだか、今までと違う[生]の表示に疑問を抱いたからだ。

それに、追跡狼チェルフ快速蜘蛛スピーダーとは違い、魔石の項目がない…何度か確認したが、なぜだか表示が見当たらない。

(ナビさん、豚男ピッグマンから魔石を分離出来ないんだが、どしたらいいんだ?)

『回答提示。豚男ピッグマン魔物モンスターではないため、魔石は存在しません。
生体活動を止めるためには、内臓の分離を行う必要があります。
確実な部位は、心臓若しくは脳になるため、それらの分離を推奨します。』

…うん?内…え?

(ナビさん、内臓って豚男ピッグマンの?)

『回答提示。そうです。該当生物の詳細を見ようと念じてください、分離可能な部位が表示されます。魔石の分離と同様に各生体部位についても分離可能です。』

ナビさんに言われ、豚男ピッグマンの詳細を見ようと念じてみると、心臓、肺、胃、肝臓…見知った各臓器の名前と様々な骨や筋肉の名前が、ずらずらっと表示される。
一応追跡狼チェルフ達も確認してみると、同じように大量の表示がされる。何とはなく見ていると、心臓や肝臓、他にもいくつかの主要な臓器が見当たらないことに気が付いた。

(ナビさん、魔物モンスターには心臓とかの表示がないみたいなんだが、なんでだ?)

『回答提示。魔物モンスター化は、生体魔素転換路エーテルリアクターが暴走し、体内の主要臓器を取り込み魔石化する事で起きるため、その際取り込まれた臓器は魔石と同化しているためです。』

ふむ…魔石が臓器の代わりって言ってた気がするし、それを分離したら確かに死ぬのも理解出来た。
…しかし、問題は生き物、今なら豚男ピッグマンをどう処理するかなんだよな…
いつまでもストレージリングの中に入れておくわけにもいかないし、どこかのタイミングで内臓を分離して殺すしかないのか?

(ナビさん、豚男ピッグマンを無力化するのに、内臓の分離以外で何か方法はないのかな?)

『回答提示。頭や四肢の分離等、物理的に動けなくすることでも対応可能です。』

うん、確実にもっとグロい事になるね…
どうするかな…

セオリー通りなら、人の多い街に行けば冒険者とかが集まる組合ギルド的なものがあるはずだから、そこで解体を依頼をすればいいと思っていたんだが、生きてる状態で引き受けてくれるんだろうか?

流石に生きたままじゃ解体には出せない気がするんだよな…

そもそも、豚頭だとしても、獣人にカテゴライズされる種族だろ?…今更かもしれないが、倫理的にどうなんだ?

(ナビさん、確認させて。豚男ピッグマンは獣人らしいけど、獣人も人の一種だよな?人だとしたら殺人で捕まったりしないのか?)

『回答提示。豚男ピッグマンは獣人種で間違いありません。国家によって多少の金額の差異はありますが、各国で討伐指定をされている種族であり、生体活動を止めてもマスターが処罰されることはありません。』

(そんなのありなのか?)

『回答提示。地球とは違いじじ…』

「ん?ナビさん?」

「ハロー、僕だよ!」

「うわ!…え?ナフタ!?え?どこから…」

急にナビさんの音声が途絶えたため、反射的に空に視線を移すと、耳元で声がして驚いた。
急に話しかけられて、その場で飛び上がってしまったが、声のした方を見ると見知った顔、髪を名乗る少年ナフタが笑顔で立っていた。

「はっはっは、ここは僕の管理する星だからね。それより、ボン君が無駄なことをNB- 7653228、今はナビだっけ?に聞いてるから僕がわざわざ顕現してあげたのさ。」

うん、意味が分からない。
ナフタが急に現れたのは良しとしても、無駄なこと?

「僕が無駄って言ったのは、地球的な倫理観のことさ。」

相変わらず、ナフタは人の思考を勝手に読んでくる…まぁいいか。

「基本的な倫理観は変わらないんじゃないのか?文明があれば法律的なものもあるだろうし、人を殺して許されることはないと思うんだが?」

「それが既に地球的いや、現代日本的なんだよ。この星の文明レベルは、まだそんなにおかしなものにはなっていないし、そもそも成り立ちが違うんだから、君の常識がそのまま通用する訳ないでしょう?」

…よく分からないが、何故か呆れられた…とりあえず理由を聞いた方が良さそうだな。

「例えばだけど、君の住んでた日本って国の法律を覚えているかい?」

全て暗記しているかと言われれば、答えは否だが、ある程度は知っているつもりだ。

「別に全部覚えている必要はないけど、その中で他の人間を殺した場合はどう定義されているか分かる?」

普通なら捕まって刑務所行きか死刑じゃないのか?

「そう、何かしらの罰があるけど、内容に決まりはないよね?それじゃ、500年前だとどうだろう?」

500年前だと…戦国時代か?
国同士の戦も多かっただろうけど、それ以外での殺人はアウトだろうし、やっぱり捕まるんじゃないのか?

「ブッブー!正解はほとんど捕まらないでしたー。」

ふーん…科学技術が発展してないから捜査も今ほどの技術がないだろうし、当然と言えば当然か?
でも、捕まる奴も居たはずだよな?

「技術的なこともあるけど、現代日本の様な警察官なんていないし、侍なんかに捕まると簡単に殺されるから、逃げる方も必死だったんだよね。
そもそもがそこら中で殺し合いが起きていたんだから、死がもっと身近なことだったんだ…ま、それはいいや。
次は1000年前、当時の日本の法を答えられるかな?」

1000年前?…何時代だ?
そんな前のこと知らんし…

「ぷふ、思考読まれるのに慣れ過ぎて、喋らなくなってる。」

ナフタが吹き出すが、そんな事よりも、何が言いたいんだか真意が読めない…

「くくく…まったく、君は適応するのが早いよねー。本当に変わってるよ。」

ナフタに変わっていると言われたが、そんな自覚はないしナフタには言われたくない。

「俺のことはいいから、話を戻してほしいんだが?」

「ふふ、そうだねー…そうそう、法なんて曖昧なものは、その時の支配階級の人間が勝手に決めているものなんだよ、って話だったね。
それじゃ、さっきの続きだよ。この星の文明は、1000年くらい昔の地球文明に近いものがあるのは前に話したよね?」

こちらに来る前、ナフタが画面に現れた時にそんなことを言っていた気がするが…
あれ?そんな話をしていたんだったか?

「この星は地球に近い環境で、特異物質の魔素が自然に発生する様に改造した星なんだけど、僕の目論見だと魔素を利用した色んな技術が発展する予定だったんだよね。
だけど、地球には居ない魔物モンスター魔獣ビーストが魔素の影響で出てきちゃったから、思った様な発展をしていかないわけさ。」

ナフタは、どこからか出した丸椅子に腰を下ろすと、そのまま話を続ける。

「まぁ、魔物モンスター魔獣ビーストなんかが人種の共通の敵みたいな認識になってるから、地球とは違って人種同士の争いは少ないんだよ。」

手に持ったティーカップを口に運び、ナフタは一息つく。
どこから出したのかは指摘するだけ無駄だ。

「今は、王を自称する人間が土地を奪い合う地球と似た時代なんだけど、大半の国は協力し合っているし、地球に比べたら人種同士は仲良く暮らしていると言っていいかな。
それでもほとんどの国は君主政をとっているし、争い自体がないわけじゃないんだけどね。」

ナフタがこの星の事を教えてくれる、独演会みたいなものが始まった。
なんか元の話から脱線してる気がするけどね…


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作者です。
神様再登場、多分寂しがりやなんだと思います。
感想その他、お時間あれば是非。
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