夫婦で異世界放浪記

片桐 零

文字の大きさ
20 / 100
第1章

第16話 ちょっと変わった移動手段

しおりを挟む
ユラユラと心地よくネットが揺れる。
太陽の光は木の葉に遮られ、昼間でもほんのりと暗くて涼しいこの場所は、昼寝には最適な場所だと思う…
しかも今は、果実の甘い香りを風が運んでくるオプション付き…
うたた寝くらいで起きるつもりだったのだが、思った以上に心地よくて、がっつり寝てしまったのは仕方がない。

それでも、寝ていたのは長くて2時間程度だろう。

体調を崩しているわけでも、寝不足なわけでもないのに、昼間にそれ以上の時間寝続けるなんて、昔からできなかったから多分そのくらいだろう。

しかし…まだ寝ぼけているのだろうか…?
目は覚めた筈なのに、小刻みに体が揺らされるような不思議な感覚が続いている…



いや、これは本当に揺れている?

何かが起きたのだと感じ、意識が一気に覚醒する。
視線を周りに向けてみるが、特に変わった様子は…

いや、周りの景色が後ろに向かって流れている?
これは…移動しているのか?

(ナビさん。現状を教えて欲しい。)

『回答提示。マスターが眠っている間に、休眠状態だった旅する魔樹トラベルトレントが目覚めました。
その後、マスター達を乗せたまま移動を開始、現在に至ります。』

…また何か起きた…
巻き込まれはテンプレのものだけにして欲しい…そしたら全力で回避できるのに…

(ナビさん、旅する魔樹トラベルトレントだっけ?そんなものに俺は乗った覚えはないぞ?)

『情報提示。マスター達のいた木が、旅する魔樹トラベルトレントだったようです。』

…は?
え?まじか?
てかトレントって魔物モンスターじゃないのか?
そんなものに乗っていて危険はないのだろうか?
そもそも、ナビさんでも感知できなかったのはなんでだ?

(ナビさん、今の状態は危険じゃないのか?それと、今まで分からなかったのに何か理由があるのか?)

『回答提示。現時点で旅する魔樹トラベルトレントからの敵意や害意のような波長は感じられません。そのため危険は無いと思われます。
感知が今までできなかった原因は、旅する魔樹トラベルトレントが休眠状態にあったため、通常の樹木と変わらない波長になっていたためです。』

ただの木だと思っていたものが、魔物モンスターだったってことか?
そんなことある…いや、地球じゃ無いんだしそこに疑問を持っても仕方ないか…

それに、前にもキノコをくれた熊の接近は警告されなかったし、ナビさんの感知機能は敵意のあるものにしか働かないのかもしれない…
ま、ナビさんがいなければ、今日まで五体満足で要られたと思えないし、感謝はしても文句を言うつもりは一切ない。

とりあえず、今すぐ危険がないのなら、焦らないで冷静に対処した方が良いだろうな。

何気なく下を見ると、旅する魔樹トラベルトレントは、その巨体を自らの根で持ち上げ、その根を器用に動かして進んでいるらしいのが見て取れた。
昔観た映画に、こんなふうに動く怪獣がいた気がするが、あれは木じゃなくて薔薇から作られたんだったか?

(ナビさん、この木、旅する魔樹トラベルトレントの進行方向は?)

『情報提示。目的地に設定していた、集落の方向に進んでいます。』

優子マメが寝込んでいたため、一時的に非表示にしてもらっていた透明な矢印を、ナビさんは再表示してくれた。

それを見ると、本当に目的の方向に進んでいるようだ。

移動速度は、自分達が歩くよりもだいぶ早く感じるが、速度の割に振動は少なく、ほとんど音もしない。
目的地に向かって進んでくれるなら、歩くより断然快適なのは間違いないのだが…

(ナビさん、このまま進んだ場合なんだけど、集落に住む人から攻撃される可能性はある?)

『回答提示。可能性はあります。』

だよね…
魔物モンスターや、まだ会ったことはないけど魔獣ビーストなんて物騒なのが彷徨いる世界で、いきなりこんなでかい木が近づいてきて、それが旅する魔樹トラベルトレントって魔物モンスターだと分かったら、集落を守るために攻撃してくるよな…

どうしたものかと、無意識に唸りながら考えていると、優子マメが起きてテントから出てきた。

「ぼん?なんか少し揺れてるみたいだけど…え?何が起きてるの?」

揺れを感じて目を覚ましたのか、優子マメもテントから出てきた。
そして周りを見渡して、木が移動していることに気がついたようだ。

「この木、旅する魔樹トラベルトレントって魔物モンスターだったみたいでな…今は目を覚ましたみたいで、勝手に動いているみたいなんだよ。」

「え?魔物モンスターって、大丈夫なの?」

「多分…敵意はないみたいだから、襲われたりはしないと思うよ。」

ナビさんに確認したから間違いないと思う。

「そう、ぼんが言うなら大丈夫だね。」

俺に対する信頼なのか、優子マメはそう言って安心した様子で微笑んでいた。

「ま、なんだ…揺れて落ちるかも知れないから、あまり端に行かないようにしてくれよな。」

「ん。大丈夫だよ。」

なぜだか分からないが、優子マメの笑顔を見ていると、急に気恥ずかしい気分になってしまい、顔が熱くなり慌てて顔を逸らしてしまった。
多分、体が若返ったことで、精神的にも同じくらいの若さに戻っているのかもしれない…

気を紛らわすために、少しナビさんに問いかけることにした。

(ナビさん。今の速度で進むと、集落にはどのくらいで着くのかな?)

『回答提示。現在の速度を維持して進むと、約4時間で集落の周辺まで到着します。』

寝ていた時間を2時間だと仮定しても、合計6時間…
元いた場所からだと、1日歩いてギリギリ到着するかどうかくらい距離があったはずなので、およそ半分の時間しか掛からないことになる…
やっぱり結構早いみたいだ。

(ナビさん、因みにだけど、集落の警備範囲っていうのかな、魔物モンスターが近付いたのが分かる境界みたいなものはあるの?
あるなら、その有効範囲と、範囲手前までに、この旅する魔樹トラベルトレントを止めることができるかを教えて欲しい。)

『回答提示。集落の周囲1kmの複数地点に、魔物モンスターが嫌う波長を出す嫌魔石がいくつか配置されているため、その距離から先に旅する魔樹トラベルトレントが進むことはありません。
また、植物系の魔物モンスターには、高度な思考能力がないため、マスターの命令を理解する可能性は低いと判断します。』

集落には、やはり何かしらの魔物避けは施されているらしい。
良かったのは、集落に警告を伝えるタイプのものではなく、嫌う波長を出すものだったことかな。
警告するタイプだと、こっちまで警戒されてしまうからね。

それにしても、かなり大型だと思う旅する魔樹トラベルトレントにも、結界系も道具が有効なのは凄い。
そのお陰で、有効範囲の手前で止まってくれるしな。

残念なのは、旅する魔樹トラベルトレントを制御するのが無理そうなことかな…
制御できるなら、車みたいに移動手段として使えると思ったんだけど、そんなに都合よくはいかないらしい。

…とりあえず、目的地の方に向かってくれているみたいだし、集落からも離れた位置で止まってくれるようだから、ありがたく乗せて行ってもらうとしよう。


ーーーー
作者です。
もうすぐ村に到着です。
やっと他の人が出てきますね…
感想その他、お時間あれば是非。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...