夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第22話 とりあえず色々足りない…

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(ナビさん、地球の塩は、この世界で売っても大丈夫なのかな?)

『回答提示。売ること自体は問題ありません。』

言い方に含みがある気がするけど、売るのは問題ないと…

(ちなみに、こちらの世界の塩はどんなものなの?)

『情報提示。岩塩が主流ですが、海塩も流通しています。』

(それじゃ価格は?売る時の適正価格を教えて欲しい。)

『情報不足。場所、時期、立場により価格は変動しますので、情報が多岐に渡ってしまいます。塩の種類、売却場所、時期を提示下さい。』

そんなに細かく指定しないとダメなのは初めてだな…

(この村、ハボック村で、今、地球から持ち込んだ塩を、俺が宿の主人に売る、これならどうかな?)

『回答提示。塩100gで銀貨2枚が適正価格です。』

…あれ?宿代が飯付きで2人で銀貨4枚…
え?200gで同じ金額になるんだが…
1kg250円で売ってた普通の塩だぞ?

(ナビさん、なんか高いように思えるんだけど、なんでだ?)

『回答提示。現在アルバート王国の領土内では、魔物モンスターの異常発生が各地で頻発しています。
そのため、物流や各集落間の交流が滞り、塩、胡椒等の、特定地域でのみ生産している専売品を中心に、多くの品が品薄状態となっているため、生産地以外での商品価格が異常なほど高騰しています。』

なんか、聞きたくないワードが聞こえた気がする…
魔物モンスターの異常発生なんて、もう嫌な予感しかしないんだけど…

「どうした?渋い顔して黙りやがって…?」

ナビさんに情報を聞いていると、ノノーキルに声をかけられた。
ナビさんと喋っていると、どうしても沈黙か独り言になってしまうから、人前でナビさんと話すのはやはり注意しないとだな…

「いえ、少し考え事を…」

「それで、ボン君、どうかな?少しだけでも構わないんだが…」

宿屋の主人、キャナタさんが不安そうに聞いてくる。

「ぼん、出してあげなよ。いっぱい持ってきてたでしょ?」

優子マメ!迂闊なことを言うんじゃないよ!

「え?なに?沢山あるってのは本当かい!?ど、どれくらいあるんだい!?塩以外にもあるのかい!?」

ほらー…キャナタさんが目の色変えちゃったじゃないか…
クソ…ノノーキルもなんか考え込んでるし、なんなんだ…

「塩と、あるなら他の香辛料も是非!この通り、頼むよ!!」

「わか…分かりましたよ…」

「本当かい!いやー本当に助かるよ!」

多分本当に困っていたんだろうけど、圧がすごい…勢いに負けて、売ることを承諾してしまった…

しかし、品薄だからとは言っても、塩の相場は100gで銀貨2枚…
俺の持ってる塩は、1kgの袋に入った物しかないから、銀貨20枚、大銀貨だと2枚か…

貨幣価値がまだ分からないけど、俺たちが久しぶりの客だと言っていたし、宿泊費からしても、そんなにお金に余裕があるとは思えない…

(ナビさん、ストレージリングの中身を、グラム単位で出すことはできるのかな?)

『回答提示。必要グラム数を頭に思い浮かべれば、その分量のみを取り出す事が可能です。』

ストレージリングは、本当にどこまでも便利な道具だ…
袋のままじゃ、多分見たことのないビニールに驚かれるだろうし、人前に出すときは移し替えるつもりだったけど、必要な分だけ出せるなら、無駄に出さなくていいから便利だ。

「それでは…どのくらい必要ですか…?」

「ちょい待ち、ボンは商売人って感じじゃねぇ、相場も知らない素人相手に、勢いだけで買い叩くつもりか?」

黙っていたノノーキルが、突然口を挟んでくる。
このおっさんは、一体なにがしたいんだ…?

「ノノーキル、お前は俺をなんだと思ってるんだ?流石に相場の値段で購入させて貰うさ。」

「ほほー…なら1カップいくらか、今の価格を言って見な?」

「高くなってるのは分かってるよ。1カップ銀貨1枚くらいだろ?」

「今は最低でも銀貨2枚だな。次の定期便だともう少し高いかもしれん。
その次だと最低でも倍、もしかするともっと高くなるかもな。」

「おいおい…そんなに上がってんのかよ?」

「そんなに上がってんだよ。ま、うちの店で扱うなら、それに追加で手数料を付ける事になるがな。」

1カップなんて単位は聞いたことがないが、ナビさんに聞いていた相場からすると、100gが1カップなんだろうか?

(ナビさん、1カップは何グラム?)

『回答提示。98gです。』

ほぼ予想通り…2gは誤差だな…だとしたら相場と同じ値段を言うノノーキルはなんなんだ?
2人で俺をはめて、安く買い叩くつもりだったんじゃないのか?

「それで、キャナタはどの位買うつもりだ?」

「1ラカップくらいは欲しかったが、1カップ銀2だろ?
…とりあえず次の定期便までって考えると、5カップは欲しいかな…それだけあれば営業も続けられるし、手持ちを考えるとそれくらいかな…」

「よし、ならそれで決まりだ。キャナタは計量器と金、ボンは塩を用意してやってくれ。」

いつのまにかノノーキルが仕切っているが…
何がしたいんだ?このおっさんは…

「ボン、塩の残りはどれだけある?」

キャナタさんが、ロールさんと一緒にカウンターの奥に消えると、小声でノノーキルが話しかけて来た。

「さっきキャナタにはああ言ったが…塩に限れば次の定期便で1カップ5銀貨を超える、と俺は見ている…」

物価の上昇は、かなり深刻なんだと、ノノーキルの表情で察する…
100gの塩で、1泊2食付きの宿泊費より高くなるとか、俺も異常だと思う…

「塩については、キャナタに売った倍額の4銀貨を払う。他も相場より高く買わせて貰うから、出来るだけでいい、俺にもものを売ってくれ…」

(ナビさん…こう言ってるけど、真意は?)

『情報提示。心理状態は不明。しかし、悪意はないと判断します。』

…まぁ、ノノーキルからは儲けようって感じがしないんだよな…

「…少し考えさせてください…とりあえず、キャナタさんに売るものを取ってこないと…」

「そ、そうだよな…でも、頼むから考えておいてくれ…」

ノノーキルの提案は、一度保留にしておいて、俺は2階の部屋へと荷物を取りに行くふりをする。
優子マメを連れて部屋に戻ると、嫌な臭いはもう消えていた。

「うーん…」

部屋に入って直ぐ、俺はマットレスの縁に座り頭を抱えた。

ここでノノーキルに色々なものを売るのは金策としてはアリかもしれないけど、確実に何かのフラグを立てる気がする…

それに、地球から持って来たものは、殆どが再購入が非常に難しい物ばかりだ…

でも、ここで出し渋ってしまうと、多分いつまでも使わないでしまう気もする…

「うーん…」

「ぼん?大丈夫?」

大丈夫では無い…頭が痛い…
優子マメが迂闊なことを言った所為でもあるんだが、それだけってわけでもない…

「とりあえず、キャナタさんの分、塩を持って行ってくるよ…優子マメはしろま達と先に寝ててもいいから、ここに居て。」

「うん…分かった。」

優子マメには部屋に残ってもらい、一人で部屋を出て階下へと向かう。

部屋を出て直ぐ、木で出来たボウルをストレージリングから取り出し、そこに塩を550g出しておいた。
足りないよりは多い方がいいだろう…

既にキャナタさんは戻ってきていて、ノノーキルと何か話しているようだ…

「お待たせしました…」



ーーーー
作者です。
この世界で何かを計量する時の単位は、大商人サウロ=ゲール=カップによって定義されたc(カップ)という単位が広く使われています。
彼の商会が塩の量り売りに使っていた、「統一計量器」が、1カップの基準になり、その大きさは大体100gの塩が入るものになります。

グラムとポンド、オンスの違いくらいに思ってください。
感想その他、お時間あれば是非。
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