夫婦で異世界放浪記

片桐 零

文字の大きさ
40 / 100
第1章

第36話 ハボック男爵の屋敷

しおりを挟む
村の中と違い、芝生の様な硬い下生えに覆われた敷地内に入ると、石積みの壁に囲われていることもあり、なんだか緊張感が増した気がする。

前を歩くバスさんに着いて、屋敷の前に到着する。
バスさんは、無言で玄関の大扉を開くと、中に入る様に促す。
中には、さっき会ったロンって人の他にも何人もの人が並んでいた。

「いらっしゃいませ。当家の家宰、ハーグと申します。」

丁寧な挨拶をしてくれたハーグさんに続き、左右に並んでいた女の人たちがお辞儀をする。

「さ、こちらへどうぞ。」

ハーグさんに案内されて、屋敷の中を進んでいくと、立派な扉の部屋へと通される。
部屋の中は、大きな木の机と木の椅子、床に敷かれた大型動物の毛皮、それくらいしか物のない殺風景な部屋だった。

「こちらでお待ち下さい。間も無く主人あるじが参ります。」

そう言ってハーグさんは部屋を出て行ってしまい、殺風景な部屋に取り残されてしまった。

(ナビさん、この辺の土地で、礼儀作法的なものがあるなら、俺がそこの椅子に座って待っていてもいいものなの?)

『回答提示。今回、マスターは招かれた側になるため、椅子に座ることに問題はありません。』

ナビさんに確認を取り、座っていいのを確認してから椅子に座る。
貴族相手に、下手な事して怒らせたら厄介だからな…

椅子に座ってしばらく待っていると、さっき玄関で見た女の人が、飲み物を持ってきてくれた。
飲み物の中身は、この村に来て初めて飲む柑橘系の果実水だったよ。

出された飲み物のほとんどを飲みきってしまうくらい、部屋で待っていると。

ガチャっと扉を開けて、見覚えのある相手が入ってきた。
豚男ピッグマンが現れた時、村の入り口で演説していた男の人だ。

「待たせたな、ボン。」

入ってきた男は、俺の向かいに座る。
おそらく彼がテンセリットさんだろう。

「ボン様。我が主人あるじ、テンセリット・ハボック男爵で御座います。この度は村のために尽力いただきました事、主人あるじに代わりまして、感謝申し上げます。
今回、お通ししたこの部屋、足下の毛皮は、先代が森で狩った…」

ハーグさんが俺を呼んだ理由を説明してくれた。
長々と御礼の言葉を述べながら、ハボック家の素晴らしさ讃える様な事を、話の間に巧妙に挟んでくる。
まるで興味のない話が、延々と続く…

「…で御座いますれば…」

「ハーグ。その位でいいだろう?」

「は。これは失礼致しました。」

ハーグさんの低音ボイスを、もう少し聞いていたら眠ってしまっていたと思う。
そろそろ限界だったから、止めてくれて助かった…

「そろそろ本題に入ろうか。此度の豚男ピッグマン討伐の件、褒美をまだ渡してなかったからな。ハーグ。」

「用意して御座います。」

ハーグさんは、机の上にズシリと音を立てて布袋を置いた。
随分入ってそう…それより、今どこから出した?

「これは…」

「討伐報酬だと思ってくれれば良い、さ、遠慮せずに受け取るが良い。」

これは何か裏があるのか?
受け取って良いものかも分からない…

(ナビさん、これは受け取って大丈夫なのか?何か裏があったりしないのか?)

『情報提示。心理状態は不明。』

…人の考えはナビさんでも分からないんだった…

「どうした?遠慮することはないぞ?」

「いや…そうではなく…」

「足りんか?ハーグ。」

「は。ではこちらを。」

机の上に布袋が追加される。
そうではない…

「ちょ…あの…」

「まだ足りんか?」

「では、これとこれ…」

更に布袋がどんどん追加され、机の上に積み上がっていく。
これはなんなんだ?

「ま、待ってください!なんですかこれは!?」

正直、訳がわからない。
全部金なのか?これ、なんなんだ?
何が目的…

「単刀直入に言おう。儂のものになれ。」

…え?

主人あるじ様、それは少し説明が足りないかと。
ボン様、この周囲は、魔物モンスターによる被害も度々ごさいます。
主人あるじ様は、豚男ピッグマンを単独で倒せる実力を持つ貴方様を、当家で囲い込み、その力を村のために使って頂きたいと考えております。
このお金は、その支度金も含まれております。」

「それは、俺を雇う…と?」

「うむ、ハーグの言った通りだ、必要なものがあればこちらで用意する。儂に仕え、村のために働くが良い。」

…そっちの人なのかと思って少し焦ったが、そっちの方が断りやすくて良かったかも知れない…

(ナビさん。どう思う?)

『回答提示。契約は強制されるものではありません。』

そりゃそうなんだが…

「因みにそれをこ…」

「ボン様…」

ハーグさんが、懐からキラリと光る物を少しだけ覗かせる。

これは脅されているのだろうか…?


ーーーー
その頃のヤドリギ亭…
ーーーー

「マメさん、今朝話した事なんだけど…」

ロールは、ボンたちの泊まっている部屋にやってくると、そう切り出した。

「えっと…ごめんなさい。」

「え?どういう…」

「ぼんに聞いたら、教えたらダメだって言われちゃったから…」

申し訳なさそうに、優子マメはロールに謝罪した。

「そう…残念だけど仕方ないわね…新しい調味料の事を、簡単に教えてくれるはずがないものね…」

ロールは、少し気を落としたのか、ベッドに腰掛けて溜息を吐く。

しばらくの間沈黙が続き、その沈黙を破ったのはロールだった。

「マメさん、遠くから来たんでしょう?マメさん達が住んでいたところの料理も気になるけど、良かったら私が作るところを見てみない?」

ロールは、良い事を思いついたとばかりに、優子マメの手を取り立ち上がる。

「そうよ、部屋の中に篭っているより、何かしていた方が楽しいしね。
ね?どうかしら?」

「マメ何か作るのか?」

「肉!最近肉食べて無い!肉焼いてー!」

「そうね、豚男ピッグマンの肉も手に入ったし、焼いて食べましょう。」

優子マメ達は、調理場に向かう。

そして…

「マメさん!これ凄い!食べた事ない味だけど、本当に美味しいわ!」

何かあったらしい…


ーーーー
作者です。
感想その他、お時間あれば是非。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...