夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第1章

第35話 浮いている?

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突然やってきた老人は、人のことを見て妙だと言いやがった。
確かに、村の人は大きめの布を巻きつけたような格好をしていて、その中にいると布地のズボンとシャツの地味めな格好でも、かなり浮いてる気はしている気はしていたが…
知らない爺さんに、いきなり言われると腹が立つ。

「なんだこいつ…」

「お、おいボン!バス様に何を言っているんだ!?」

ノノーキルが慌てた感じで、俺に向かって注意してくる。心の声が漏れていたらしい…
しかしバス?誰なんだ偉いのか?

「はっはっは。外からの者が知らんでも無理はないであるな。
我はバス。この村の領主、テンセリット・ハボック男爵に仕える者である。」

この村の住人でもないのに、知るわけのない人物だった…
テンセリットってのは聞いたことがある気がするけど…覚えてない。

「それで、そのバスさんがお…私に何の用ですか?」

ノノーキルの慌てようと、視界に入るキャナタさんの表情から、バスって人がこの村では結構偉い人なんだと察した。
今更かもしれないが、口調を変えておく。

「殊勝な態度、結構である。
主人あるじが、村の為に働いたお前を労いたいとの仰せでな、こうして我が見舞いに参ったのである。
しかし…大怪我をしていると聞いていたが、そうは見えないであるな。」

「…軽い打撲程度でしたので…」

今更痛がる演技も出来ないから、仕方なくそう答える。
領主からの呼び出しとか、どうやって断ろうか…断れるのか?

「で、あるか。ならば問題ないであるな。主人あるじは、お前に褒美をと仰ったであるから、歩けるようなら我についてくるである。」

そう言うと、バスという爺さんは、店から出て行こうとする。
え?こっちの都合は無視?

「ちょ、待って…少し待ってもらえませんか!」

「ん?どうしたであるか?」

優子マメ、ちょっとこっち!」

「ん?なにー?」

バスさんに待ってもらい、優子マメを呼んで店の奥へと移動する。

「今の状況分かってる?」

「んー…ぼん大人気?」

「いや違くて…俺はこの後、この村の領主の所に行かないといけないの。
男爵って言ってたから貴族だし、どんな奴かも分からないから、俺1人で行って来る。だから、優子マメ達はここで大人しく待ってて欲しいんだ。」

ここに居れば、キャナタさんとロールさんが見てくれる。
下手に動くより安全な筈だ…

「はい!オレ行きたい!」

「ぼんさんとしろまが行くなら、私も行きたい!」

優子マメが答えるより早く、ぬいぐるみ達が行きたいと手を挙げる。
入り口からは、優子マメの体が壁になって見えていないだろうが、心臓に悪いからやめて欲しい…

「…お前らは一番ダメだろ…」

「「えー、なんでー?なんでー?」」

「なんでじゃないよ…貴族相手にするんだぞ?下手なこと言って、投獄とかってなったらどうするんだ?
とにかく、俺は断る方が面倒なことになりそうだから行くけど、優子マメ達はここで待っていて欲しい。
その方が絶対安全だからね。」

「そう…なら待ってるよ。気をつけてね?」

「そろそろ良いであるか?」

待ちきれないのか、バスさんが急かしてくる。
人の都合も考えて…いや、考えないからこそ貴族なんだろうな。

「ボン、さっきの話は俺の方でなんとかするから、早く行った方がいい。マメの事も俺たち…」

ノノーキルがそう言って近づいてくるが、誰が信用するかって話だ。

「キャナタさん、優子マメのこと、宜しくお願いします。」

「おい、ボン…」

「あんたは、村の方をどうにかしろよ。」

なんでショックを受けているのか意味がわからないが、ノノーキルは今のところ信用が無いからな。
出来ないとは思うけど、口止めに成功したら見直してやってもいい…

「分かった。マメのことは俺とロールに任せて、ボンは行ってこい。」

キャナタさんにそう言われて、俺は少しだけ安心できた、入り口で待っているバスさんの所に向かい、優子マメ達に見送られ店を出る。

「では、着いてくるである。」

何故だか偉そうな爺さんに先導されながら、村の中を歩いていくと、何人もの村人が笑顔で爺さんに挨拶していた。

家人がこれだけ慕われるなら、案外まともな領主なのかもしれないが、気を緩めないようにしないと…

(ナビさん、この村の領主、テンセリットだっけ?どんな人物か分かる?)

『情報提示。テンセリット・ハボックの情報を開示します。フロット・ハボックとマリアンヌ・ハボックの息子として3246gで誕生、生後3秒で鳴き声をあげ、17秒で目を開け、19秒で腕を上げ…」

(待ってナビさん。頭痛いからやめて…)

大量の情報を提示されて頭痛がした。
今までこんな事はなかったのに、聞き方が悪かったんだろうか…
生まれてからの情報とか、まるっきり要らない…

「どうしたであるか?」

「う、あいえ、大丈夫です。」

バスさんに見られてしまった。
聞き方には注意しないと…

(ナビさん、テンセリットさんの現在の家族構成は?)

『情報提示。母マリアンヌ、妻マリーディア、妻との間にロット、ケイト、レア、キーフ、メリオットの5人の子供がいます。』

これなら頭痛はしない…
情報量の差なんだろうか?

バスさんの後ろを歩きながら、テンセリットの情報をナビさんに少しづつ聞き出していく。
歳は?好きなものは?嫌いなものは?バスさん以外の使用人は?それ以外に…

「…い…おい!聞いているであるか!?」

「はい!え?」

「着いたのである。何をぼんやりしているであるか?」

ナビさんかとの会話に夢中になりすぎたようで、バスさんに不審に思われてしまったか?
領主の家?館?は、村に入った時に思った通り、村の中で一番大きな建物だった。
高い壁に囲われた村の中で、更に石積みの壁でその建物は囲われている。

「そうであるか。王都の腕の良い石工職人を呼んで造らせたものである。王都の建物と比較しても、遜色のない素晴らしさであるからな。それは驚いても仕方ないである。」

満足そうに頷くバスさん、勘違いしてくれているならそれでいいのだが、相当自慢気に語っている建物は、この村の雰囲気にはそぐわないと思うんだよね…
木造の建物の中に石造り、人の服装を妙とか言う前にじゃないか?

「バス様、おかえりなさいませ。」

バスさんが大声で笑っていると、門の向こうから声がした。
現れたのは、バスさんよりも一回り小さく、若そうに見える男だった。

「ロン、戻ったである。この者はボン、主人あるじの客人である。屋敷に戻り、急ぎ準備をさせるである。」

「そうでございますか。では、すぐに知らせてまいります。」

ロンと呼ばれた男は、一瞬で見えなくなってしまう。
気が付いたら目の前から消えてしまった様に見えた。

「え?消え…」

「ん?驚いたであるか?ロンは混血ハーフなのである。人を襲う様な事はないであるから、安心するである。」

ハーフって、こっちでもあるんだと少し驚いたが、見た目には他の人と変わらない…
後でナビさんに詳しく聞いてみるか…

「まだボーッとしているであるか。門を閉めるから入るである。」

バスさんに言われて、渋々ながら館の敷地内へと足を踏み入れる。

あー気が重い…


ーーーー
作者です。
村人の服装は、田舎なこともあり、ダルマティカに似たものが主流。そこにズボンとシャツなら浮きますね…
感想その他、お時間あれば是非。
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