夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第2章

第9話 予想外のこと

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ドン!ドン!ドン!ドン!

2体の陸草鰐グラスゲーターは、競い合うように互いの体をぶつけ合いながら、大口を開けて真っ直ぐこちらに走ってくる。
まだ距離があるはずなのに、見上げるくらい大きな体をしているのが分かってしまう程の巨体をしているが、毒液の檻ベノムケージに触れてくれれば、他の魔物モンスターと同じように細切れだ…
今までの戦いでも、有効な手段だったため、思った以上には緊張感も恐怖心も感じていなかった。

GAORA!
GYAAAAA!

突然、片方の陸草鰐グラスゲーターが、もう片方の腕に噛み付いて引き倒してしまい、噛み付かれた方はバランスを崩して転がってしまう。

「なんだ?仲間割れ?…あ…くそ!まずい!」

同時にやって来てくれれば良かったのに、これじゃ…

ドスドスドス!!

こちらを見て、走って来ている魔物モンスターが、一瞬笑ったように見えた。
大口を開け、大量のヨダレを撒き散らしながら、起伏のない草原を走ってきた陸草鰐グラスゲーターは、その勢いのまま地面に転がった。

ドスドスドスドグシャ!!
GYAAAAA!!!

毒液の檻ベノムケージを2重にしていたため、最初の方に足を、次の方に両腕と下半身の大部分を細切れにされてしまい、走ってきた勢いそのままに、地面を削るように転がることになった。

GURAGYAAAAA!!!

叫びながら地面を転がる陸草鰐グラスゲーターは、おそらく凄まじい痛みに襲われているだろう。
のたうち回るように、無茶苦茶な動きで暴れ回る。

「あぶ!ちょ!ナビさん!?」

『行動提案。毒蔦縛ポイズンアイビーを使用し、陸草鰐グラスゲーターの行動阻害後に、ストレージリングに収納して下さい。』

GYAAAAA!!GURAAAAAA!!!

毒蔦縛ポイズンアイビー!どうでや!ちょ!うお!ダメじゃねーか!!」

ナビさんに言われるままに魔法を唱えるが、蔦が数本出て来て陸草鰐グラスゲーターに絡みついても、暴れる魔物モンスターは意に介した様子もなく、体にまとわりつく毒蔦をブチブチと簡単に引き千切りながら暴れ続ける。

「ちょ!ナビ!こんなのどうしろってんだ!」

ただでさえ大きく危険な魔物モンスターが、その巨体を出鱈目に暴れさせ、暴れるたびに千切れた毒蔦や血を辺りに飛び散らせている。
危なくて、近寄ることすら出来なくなってしまった。

『行動提案。毒蔦縛ポイズンアイビーの複数同時展開を提案。単独では、拘束力が足りません。』

「先に言えよ!うわ!この!!毒蔦縛ポイズンアイビー毒蔦縛ポイズンアイビー毒蔦縛ポイズンアイビー毒蔦縛ポイズンアイビー!!」

ナビさんに単独使用じゃダメだと言われ、飛んでくる毒蔦と血を避けながら、毒蔦縛ポイズンアイビーを連続で使用する。

ザワザワザワザワザザザザザザ…!
GYAAAAA……

連続して魔法を唱えていくと、相手に巻き付く毒蔦の数が少しづつ増えていき、やがて陸草鰐グラスゲーターの巨体を覆い隠すまでに成長してくれた。

「はぁはぁ…あぶ…」

GURAAAAAAA!!

「ひっ!」
「わ!」

1体の陸草鰐グラスゲーターを無力化することができ、安堵感から一息ついていると、凄まじい咆哮が聞こえて来て、情けないことだが悲鳴を上げてしま…

は?

「いたた…」

俺以外の声がしたと思い、後ろを振り返ると、優子マメが尻餅をついたように座っているのが見えた。

「な、おま!」

GAGYAAAAAA!!

優子マメが降りて来ていたことに驚き、声を上げようとしたのだが、陸草鰐グラスゲーターの再びの咆哮により、それどころではなくなってしまう…
残った陸草鰐グラスゲーターは、毒液の檻ベノムケージを警戒しているのか、咆哮は上げるが近寄っては来ない…

「くそ…優子マメ!降りて来たなら仕事して貰うからな!そこの簀巻きになってる陸草鰐グラスゲーターをストレージリングに収納しておけ!俺は残りをどうにかしてくる!」

「え?わ、え?」

「いいから言われた通りにしろ!その後は木の側を離れるんじゃないぞ!いいな!!」

優子マメに指示を出し、俺は陸草鰐グラスゲーターの視線を取るように、大きく手を振って走り出す。

「おら、こっちだ!かかってこいよ!」

GURAAA!!

毒液の檻ベノムケージを挟んで、俺と魔物モンスターほぼ平行に走っていく。
陸草鰐グラスゲーターも、こちらの進む方向にゆっくりとだが進んできた…
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