夫婦で異世界放浪記

片桐 零

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第2章

第30話 最悪のものが出てきた

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物陰から顔を出したシーホは、俺を見て声を上げた。

「に…ちょ、なんで脱いでるんですか!?」

「なんでと言われても、雨で濡れたからなんだが…」

こんな時は、状況がどうであれ問答無用で男側が悪くなるのは、世界が変わっても変わらないんだなと、地球との共通点に少し物思いにふけりそうになる。

理不尽だと思うけど、そういう基本概念的なものは変わらないらしい。

「それで?なんでシーホがここにいるんだ?」

「そんなことはいいですから!す、すぐに服を着てくだ、下さい!!」

既に下は履き替えてあったし、これからシャツを着ようとしていたところだから、そんなに見られて困るような格好はしていないと思う。

「そんなことって…ほら、もう着たから大丈夫だぞ?」

着かけていたシャツに袖を通して、濡れた服をストレージリングに収納してから声をかける。

手で顔を隠していシーホが、俺の声で指の隙間からこちらを見ているのが分かった。

下を脱いでいた訳じゃないし、男の上半身だけの裸なんて、そこまで慌てることじゃないと思うんだけどね。

なんだろう…変なところで初心な感じがある子だと思った。

「…もう…ビックリするじゃないですか!」

なぜ俺が怒られるのか分からないが、シーホに怒られてしまった。

やっぱり理不尽だと思っていると、でっかちゃんが、背中に大きなソーセージのようなものを器用に乗せて歩いてきた。

「ぼんさーん。向こうに肉あったよー。」

こういう時、まったく空気を読まない相手は強いね。
それに、話題を変えるのにも楽だから助かるしね。

かなり大きなソーセージ?を受け取り、手に持ってみるとずっしり重い。
感触的には乾燥してるから、ソーセージじゃなくてサラミみたいだけど…なんの肉か分からないし、そもそも食べて大丈夫なのか分からん…

(ナビさん。これはなんだ?)

『情報提示。豚蛙ピロックの腸詰で…』

ナビさんの言葉が終わるよりも早く、反射的に俺の体は動いて、手に持っていたそれを馬車の幌に向かって投げてしまう。

「うぎゃ!!でっかちゃん!なんてもの持ってくるんだよ!」

「え?肉だよー?」

「ちょま!うげ…おえ…それがえるにぐだ…」

まさかの蛙肉…豚とついていても、蛙に変わりはない…

全力で体が拒否反応を示している…持っていた方の手は硬直したように動かなくなってしまうし、全身に鳥肌が立って吐き気が収まらなくなる…

なんてものを持ってくるんだ…

「そうなの?サラミみたいなのに…」

もう一本持ってきていた形容しがたい不純物を床に下ろすと、でっかちゃんは残念そうに呟いていた。

無理なものは無理なんだ…こっちに来て奴らの鳴き声すら聞いてなかったから、いないものと油断していた…

中世てか、ヨーロッパじゃ蛙肉はわりかしポピュラーな食材だってのに、クソ…

優子マメ…ごめんけどそれ捨てて!見てるだけで気持ち悪くなってくる…」

俺は蛙が嫌いだ…生物で唯一と言っていい程に嫌いだ。

にいさん…意外なものがダメなんですね…」

蛇も蜥蜴も蜘蛛も、芋虫も百足も嫌いな人の多いGだって素手で触れるけど、あれだけは見るのも無理だ…
考えただけで吐き気がする…

「無理…想像しただけで吐きそうだ…気色悪い…」

シーホは、俺の慌てようを見て意外だと言ったが、意外もなにも、あんなものが大丈夫な方が俺からしたら信じられない…
クソ…思い出したらまた気持ち悪くなって来た…

「ごめんな…でっかちゃん…あれは無理だ…」

「ん。別にいいよー。でも、向こうにさっきのいっぱいあったよ?」

まじかよ…食料って、もしかして全部蛙肉…か?
だとしたら絶望しかないんだが…

「ぼーん。ちょっと来てー。」

形容しがたい何かを外に捨てに行ってくれた優子マメが、外から俺を呼んだ。

まだ気持ち悪いのは治らないが、何かあったなら行かないと…

フラフラしながら外に向かうと、そこには形容しがたい何かを、大事そうに持って立っている狼の人ウルフェン達がいた。

「なんでそんなもん持ってんだよ…」

「強き者よ。これを…貰い受けたい…」
「貰い受けたい…」

狼の人ウルフェン達は、まるで大好物を目の前にした犬のように尻尾を千切れんばかりに左右に振り、口からはダラダラとヨダレを垂らしている。

「ぼん?あげてもいいんじゃない?」

「…好きにしてくれ…いるなら残りも全部やるから、頼むから俺に見えないところで処理してくれ…」

優子マメに言われるまでもなく、あんなものが欲しいなら全部持って行ってくれて構わない…
ただし、俺の前に二度と出さないならばだ…

「感謝する。」
「これは、我らにとって…」

「いらんいらん!説明なんてやめてくれ!そんなもののことを聞きたくない!」

食うのか何なのか知らんが、想像しただけでまた吐きそうになるから、どうするのかなんて聞きたくもない…

「ならば…黙ろう。」
「うむ。」

狼の人ウルフェン達には悪いが、あんなものを有難がるなんて、正気の沙汰とは思えない…

ほんの少しだけ、彼らに対する好感度が下がりました…
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