俺は毛沢東!?

王太白

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 それで、丸一日グッスリ眠ったような気がして、目覚めてみれば、宮殿のような光景が眼前に広がっていたのである。健作が目を覚ますと、体が重い。
(あれ? 俺はもともと太っていたけど、一晩寝ただけで、さらに太るものなのか?)
 周囲は中国風の宮殿のように、朱塗りの柱や窓が並び、周囲のボロボロの服を着た人々は土足であった。
「おお、毛沢東主席がお目覚めになられたぞ」
 一人の中年男が叫ぶと、とたんに周囲の老若男女から、ワァッと歓声が上がる。健作は周囲をキョロキョロ見回すと、何と、みゆ婆がボロボロの服を着ていたのには驚いた。言うまでも無く、冒頭の老女は、みゆ婆である。そこから冒頭のような場面になった。
「主席が中南海で突然倒れられたと聞いたときには、我らは心底、心配いたしましたよ。中国の紅い太陽である主席にもしものことがあったら、我らの暮らしはどうなることやら」
 周囲の人々は、口々に健作を尊敬の目で見て言っているのが伝わってきた。
「……皆の者、俺の身を案じて中南海まで駆けつけてくれたのは、素直にありがたいが、あいにく、俺はまだ体がだるいのだ。奥で休みたいので、皆は今日のところは仕事に戻れ」
 健作に命じられた通り、人々は「わかりました」とうやうやしく一礼すると、宮殿の外へ出ていった。みゆ婆も「情報収集のために街を散策してくる」と言い残して出て行ったので、健作はしばらく暇を持て余していた。夕方になって、みゆ婆が戻ると、健作は窓と扉を閉じて、今後のことをみゆ婆に相談した。
「なあ、俺は謎の白い光の中で、『潤之の政道を正せ』とか言われて、毛沢東の体に入っちゃったんだけど、潤之って毛沢東のコードネームか何かか?」
「やれやれ……健作は本当に『三国志』以外の歴史を勉強しとらんのぉ。潤之は毛沢東のあざな字じゃ。劉備の字の玄徳みたいなものじゃ。で、中南海はもともと清王朝の皇帝の離宮で、後に毛沢東が住んだ。ウチが周囲の風景から察するに、ここは中華人民共和国建国直後の五十年代前半の北京みたいじゃのう。五十年代後半の大躍進政策による飢餓の時代には、街路樹の柿の葉っぱが住民に食われておったそうだが、柿の葉っぱはきれいに残っておるしな。それに、その後の文化大革命みたいに、政治運動が起きそうな様子もない」
「なあ、もう少し、俺にわかるように説明してくれよ。俺は近代の世界史なんて、全然わからないんだからよ」
「健作が、いかに受験勉強をいい加減にやっていたかの証拠じゃな。大躍進政策とは、鉄製品を土法炉どほうろで溶かしてクズ鉄にしてしまったり、山の木を伐りまくってハゲ山にしてしまったり、ダムをコンクリートではなく土で作ろうとしたりと、工業や農業の資源を大量に無駄にしてしまい、それが原因で飢饉が始まって、餓死者二千万人を出した愚策のことじゃ。そのため、人々は食える物は何でも争って食った。苦くて食えたもんではない柿の葉っぱも、当時は争って食べたんじゃ」
 みゆ婆の話を聞いているうちに、健作はようやく話が見えてきた。
「そうか。毛沢東ってのは、とんでもない悪政をしいてきたんだな。なら、俺がこの時代に飛ばされてきたのも、毛沢東が行うはずだった悪政を正すためなんだろうな」
「おそらくな。でも、毛沢東は大の女好きで、星の数ほどの女と寝たそうだし、毎日のようにご馳走を食べていたそうじゃ。とりあえず、今夜はたらふく食って、女を抱いて童貞を捨てろ。女はウチが選んでやるからのぅ」
 みゆ婆は、カカカと高笑いする。
「そうなると、健作みたいな世間知らずでは、権謀術数の渦巻く宮中の生活を乗り切れまい。はめられて殺されるなど、宮中では日常茶飯事だしのぅ。ウチがつきっきりで面倒みてやるから、まずは上等な衣服に着替えさせろ。でも、健作は今のすそのほつれた服のほうが、質素な政治家という感じがして良いぞ。毛沢東に会ったダライ・ラマ十四世も、そこを見て、『毛沢東は素朴な人物。毛沢東がチベット人を虐殺したなんて信じられない』と言ったそうだからのぅ」
 こうして、みゆ婆は新品の服に着替え、健作の夕食に付き合った。夕食には、油で揚げた肉や野菜がふんだんに出され、健作は舌鼓を打った。
「美味い。美味い。どの料理も、油ものってるし、唐辛子などの調味料がきいている。浪人生だった頃は、『働かざる者食うべからず』とか言われて、勉強しないのを理由に腹いっぱい食えなかったもんな」
「……勉強しなかったのもあるだろうが、親は何よりも、運動もしない健作が太らないようにしようという配慮があったんじゃと思うぞ」
 健作が夕食を食べ終えて、ベッドで一休みしている間、みゆ婆は「今夜の文化工作隊の隊員のうち、主席の相手をできるのは誰じゃ?」と言いながら出て行った。出て行って、小一時間も経っただろうか。みゆ婆は着飾った美人を一人連れて、健作の部屋に戻ってきた。その美人は、昼間に見た貧しそうな人々とは違い、高そうな化粧品をつけているのがうかがえる。
「さあ、今宵のとぎ伽をしてくれる女じゃ。主席はもともと色情狂だったが、今は仕事のストレスでテクニックが使えないので、まずはきちんと射精させることからやれと言いふくめてある。童貞を捨てるために存分に楽しむが良い」
「いや、みゆ婆……さっき、文化工作隊とか言わなかった? 文化工作隊ってことは、夜伽とかする団体じゃないだろう?」
「何を言うか? 毛沢東の文化工作隊と言えば、北朝鮮の喜び組のような、れっきとした夜伽よとぎのための団体じゃ。本当に歴史を知らんのぉ」
 その夜、健作は初めて女を知ったのである。一通り、セックスが終わった後、改めて女に名を尋ねた。
玉葉ギョクヨウと申します。紅い太陽である主席に抱かれて幸せです」
「玉葉か。いやつ。これからたっぷり可愛がってやるぞ」
 それからベッドの中で雑談すると、健作は玉葉の腕の中で心地よい眠りに就いた。
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