2 / 16
1
しおりを挟む
話は一日前にさかのぼる。そろそろ夏にさしかかろうかという、暑さの厳しくなってきた頃、眼鏡をかけた太った浪人生、火野健作は、大学受験の予備校にも行かずに自宅の畳に寝転がり、自堕落な日々を過ごしていた。両親も最初の頃は「勉強しろよ」と口すっぱくして言っていたが、効果が無いので、最近は諦めてしまい、「勝手に来年も浪人して恥をかけ」と投げやりに言い捨てるだけになっていた。
そんな健作の元に足しげく通っては、雑談相手になっているのが、隣の小さな一軒家に住んでいる美幸婆ちゃん、通称「みゆ婆」である。みゆ婆は健作より頭一つ分ぐらい小さいが、笑うときは「カカカ」と豪快に笑い、逆に怒るときは般若のような形相で怒り狂う二重人格で、近所の子供たちからは、いろんな話を同時に聞いてもらえる聖徳太子のような存在として人気があった。
みゆ婆は健作のおしゃべりに付き合い、健作が興味ある『三国志』の登場人物の話をすると、「ああ、わかる。わかるぞぅ。ウチも昔、『三国志』にハマッておったからのぅ」などと相づちを打ってくれるので、健作も両親が仕事で留守の間は、みゆ婆に話を聞いてもらって気分転換していた。
あるときは、健作が「俺、志望大学に受かる気がしない。死んで、あの世に行きたい」などと言い出すので、みゆ婆が「バカ者がぁ! この世で幸せになれんやつが、あの世で幸せになんぞなれるかッ!」と大音声で一喝したこともあった。
そんなある日、健作がいつものように、みゆ婆とスイカを食べながら『三国志』の話をしていると、ふいに開け放していた窓の外が、ピカッとまぶしく光った。
「うわああああっ! 何だ、この光は?」
「ウチにもわからん。七十年も生きてきて、こんな光を見るのは初めてじゃ」
白く輝く光はどんどん大きくなり、健作の部屋を飲み込んでしまった。あまりの急な出来事についていけず、健作は気を失う寸前、見知らぬ何者かの声が聞こえた。
「よく聞け。そなたは過去に行き、潤之の誤った政道を正さねばならぬ。わらわは潤之がいかに多くの罪も無い人民を殺してきたか、つぶさに見てきた。それもこれも、潤之の如き大悪人が天下をとったからこそじゃ。潤之は、天下をとるまでは英雄だったが、その後は大悪人の本性をむきだしにしおった。かつて曹操は、乱世なら英雄、平和な時代なら大悪人と言われたが、潤之はまさにそれじゃ。そこで、そなたには潤之が天下をとった直後にタイムリープしてもらう。見事に潤之の政道を改めてみせよ」
声はそこで途切れた。声の質から察するに、凛とした女性のようだ。
(おいおい、潤之って誰だよ? だいたい、俺みたいな一介の浪人生が、天下をとった潤之とやらの政治を、どうやって改めれば良いんだ? 下手に逆らえば、俺のほうが殺されちまうよ……)
健作はグダグダ考えながら、気を失ってしまった。
そんな健作の元に足しげく通っては、雑談相手になっているのが、隣の小さな一軒家に住んでいる美幸婆ちゃん、通称「みゆ婆」である。みゆ婆は健作より頭一つ分ぐらい小さいが、笑うときは「カカカ」と豪快に笑い、逆に怒るときは般若のような形相で怒り狂う二重人格で、近所の子供たちからは、いろんな話を同時に聞いてもらえる聖徳太子のような存在として人気があった。
みゆ婆は健作のおしゃべりに付き合い、健作が興味ある『三国志』の登場人物の話をすると、「ああ、わかる。わかるぞぅ。ウチも昔、『三国志』にハマッておったからのぅ」などと相づちを打ってくれるので、健作も両親が仕事で留守の間は、みゆ婆に話を聞いてもらって気分転換していた。
あるときは、健作が「俺、志望大学に受かる気がしない。死んで、あの世に行きたい」などと言い出すので、みゆ婆が「バカ者がぁ! この世で幸せになれんやつが、あの世で幸せになんぞなれるかッ!」と大音声で一喝したこともあった。
そんなある日、健作がいつものように、みゆ婆とスイカを食べながら『三国志』の話をしていると、ふいに開け放していた窓の外が、ピカッとまぶしく光った。
「うわああああっ! 何だ、この光は?」
「ウチにもわからん。七十年も生きてきて、こんな光を見るのは初めてじゃ」
白く輝く光はどんどん大きくなり、健作の部屋を飲み込んでしまった。あまりの急な出来事についていけず、健作は気を失う寸前、見知らぬ何者かの声が聞こえた。
「よく聞け。そなたは過去に行き、潤之の誤った政道を正さねばならぬ。わらわは潤之がいかに多くの罪も無い人民を殺してきたか、つぶさに見てきた。それもこれも、潤之の如き大悪人が天下をとったからこそじゃ。潤之は、天下をとるまでは英雄だったが、その後は大悪人の本性をむきだしにしおった。かつて曹操は、乱世なら英雄、平和な時代なら大悪人と言われたが、潤之はまさにそれじゃ。そこで、そなたには潤之が天下をとった直後にタイムリープしてもらう。見事に潤之の政道を改めてみせよ」
声はそこで途切れた。声の質から察するに、凛とした女性のようだ。
(おいおい、潤之って誰だよ? だいたい、俺みたいな一介の浪人生が、天下をとった潤之とやらの政治を、どうやって改めれば良いんだ? 下手に逆らえば、俺のほうが殺されちまうよ……)
健作はグダグダ考えながら、気を失ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる