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それから数日後の会議で、ポン元帥はやはり、文化工作隊のことを議題にした。
「主席、こんな文武百官が列席している中で、主席の女性関係を俎上にのせるのは心苦しいのですが、私が数日前に進言させていただいても、いっこうに改善がみられませんので、本日の会議で取り上げさせていただきます。文化工作隊の女の子といかがわしい行為に及ばれるのを、即刻やめていただきませんと、下の官吏や将兵にしめしがつきません。現に、人民公社の幹部の中には、村中の女を凌辱した輩までがいるそうです。主席自らが多くの女の子と遊んでおられるようでは、そんな悪事をやる幹部どもに、どうやって範をお示しになるおつもりですか?」
これには、チュウ元帥を始め、数人の文武百官が賛同し始めた。もっとも、列席者の大半は、健作に粛清されるのを怖れて、賛同しかねていたが。
みゆ婆は健作の足を踏み、「早く発言せんか」と小声でささやく。健作は覚悟を決めると、大声で言った。
「俺の女性関係をどうこう言う前に、まずポン元帥の過去の過ちから反省すべきではないのか? ポン元帥は日本軍に百団大戦を挑み、勝ちすぎて共産党を危険に陥れたことがあったではないか。自分のことを棚にあげて、俺のことばかり言うとは何事か?」
文武百官はザワザワと騒ぎ出した。おそらく、健作の言うことを支持すべきかどうか、ためらっているのだろう。そんな中で、チュウ元帥が大声で発言した。
「ポン元帥が今までの革命戦争において、いかに勇猛果敢に戦い、数々の武勲をあげたことを、主席はお忘れになられたか? お忘れになられたとしたら、情けないとしか言い様がない! それとも、劉邦が項羽を倒した後になって、韓信を斬ったように、革命さえ成就してしまえば、ポン元帥のような武人は用済みだとして斬られるか? もし、過去のささいな過ちを針小棒大に言い立てて、粛清の口実になされるなら、わしが黙っておりませぬぞ! さあ、どうなされる?」
チュウ元帥とて、歴戦の勇士である。眼力は鋭く、健作を射すくめるようににらんできたので、これには健作がタジタジになってしまった。困ったのは、みゆ婆である。
(まずいのぅ。健作の権力を利用して、ウチも多額の扶持をもらって、そのうち豪遊するつもりだったのに、これでは逆に健作のほうが下克上されかねん。さあ、どう出るべきか……?)
さすがの老獪なみゆ婆も、すぐには結論が出なかった。しかし、放っておけば文武百官は、豪胆なチュウ元帥の側についてしまうのは、目に見えている。
(仕方ない。奥の手じゃ)
みゆ婆は思いっきり息を吸い込むと、腹の底から叫んだ。
「双方ともいい加減にせい! これでは、互いの欠点ばかりあげつらって、何も生産が無いではないか!」
一瞬、その場にいる全員が、みゆ婆の勢いに呑まれてしまう。
「そもそも、そなたたちは、『国民党は民主的ではない』と言って革命を起こしたにもかかわらず、民主とは何かということが全くわかっておらんのではないか? 国家の指導者といえども、一人の人間じゃ。人間なら、肉体的欲望に逆らえんこともある。霞を食って生きている仙人とは違うのじゃ。それなのに、国家の問題を指導者一人に押し付けて、問題が起きたのを見計らって、鬼の首でもとったように責め立てるのは、筋違いじゃろう。国家の問題は、指導者だけの責任ではなく、幹部全員の問題じゃ」
文武百官は黙り込むが、ポン元帥とチュウ元帥はあくまで、「いや、言いたいことはわかるが、主席にも問題が……」と食い下がるので、みゆ婆は「もう良い。今日は主席はお疲れじゃ。また後日にせい」と言い残すと、健作をいすから立たせて一緒に退室してしまった。室内からは、「主席……お待ちを……」と言いすがる声が聞こえるが、みゆ婆は「とにかく、今日の閣議は終わりじゃ」と言いながら、健作の私室まで引き上げさせた。
「主席、こんな文武百官が列席している中で、主席の女性関係を俎上にのせるのは心苦しいのですが、私が数日前に進言させていただいても、いっこうに改善がみられませんので、本日の会議で取り上げさせていただきます。文化工作隊の女の子といかがわしい行為に及ばれるのを、即刻やめていただきませんと、下の官吏や将兵にしめしがつきません。現に、人民公社の幹部の中には、村中の女を凌辱した輩までがいるそうです。主席自らが多くの女の子と遊んでおられるようでは、そんな悪事をやる幹部どもに、どうやって範をお示しになるおつもりですか?」
これには、チュウ元帥を始め、数人の文武百官が賛同し始めた。もっとも、列席者の大半は、健作に粛清されるのを怖れて、賛同しかねていたが。
みゆ婆は健作の足を踏み、「早く発言せんか」と小声でささやく。健作は覚悟を決めると、大声で言った。
「俺の女性関係をどうこう言う前に、まずポン元帥の過去の過ちから反省すべきではないのか? ポン元帥は日本軍に百団大戦を挑み、勝ちすぎて共産党を危険に陥れたことがあったではないか。自分のことを棚にあげて、俺のことばかり言うとは何事か?」
文武百官はザワザワと騒ぎ出した。おそらく、健作の言うことを支持すべきかどうか、ためらっているのだろう。そんな中で、チュウ元帥が大声で発言した。
「ポン元帥が今までの革命戦争において、いかに勇猛果敢に戦い、数々の武勲をあげたことを、主席はお忘れになられたか? お忘れになられたとしたら、情けないとしか言い様がない! それとも、劉邦が項羽を倒した後になって、韓信を斬ったように、革命さえ成就してしまえば、ポン元帥のような武人は用済みだとして斬られるか? もし、過去のささいな過ちを針小棒大に言い立てて、粛清の口実になされるなら、わしが黙っておりませぬぞ! さあ、どうなされる?」
チュウ元帥とて、歴戦の勇士である。眼力は鋭く、健作を射すくめるようににらんできたので、これには健作がタジタジになってしまった。困ったのは、みゆ婆である。
(まずいのぅ。健作の権力を利用して、ウチも多額の扶持をもらって、そのうち豪遊するつもりだったのに、これでは逆に健作のほうが下克上されかねん。さあ、どう出るべきか……?)
さすがの老獪なみゆ婆も、すぐには結論が出なかった。しかし、放っておけば文武百官は、豪胆なチュウ元帥の側についてしまうのは、目に見えている。
(仕方ない。奥の手じゃ)
みゆ婆は思いっきり息を吸い込むと、腹の底から叫んだ。
「双方ともいい加減にせい! これでは、互いの欠点ばかりあげつらって、何も生産が無いではないか!」
一瞬、その場にいる全員が、みゆ婆の勢いに呑まれてしまう。
「そもそも、そなたたちは、『国民党は民主的ではない』と言って革命を起こしたにもかかわらず、民主とは何かということが全くわかっておらんのではないか? 国家の指導者といえども、一人の人間じゃ。人間なら、肉体的欲望に逆らえんこともある。霞を食って生きている仙人とは違うのじゃ。それなのに、国家の問題を指導者一人に押し付けて、問題が起きたのを見計らって、鬼の首でもとったように責め立てるのは、筋違いじゃろう。国家の問題は、指導者だけの責任ではなく、幹部全員の問題じゃ」
文武百官は黙り込むが、ポン元帥とチュウ元帥はあくまで、「いや、言いたいことはわかるが、主席にも問題が……」と食い下がるので、みゆ婆は「もう良い。今日は主席はお疲れじゃ。また後日にせい」と言い残すと、健作をいすから立たせて一緒に退室してしまった。室内からは、「主席……お待ちを……」と言いすがる声が聞こえるが、みゆ婆は「とにかく、今日の閣議は終わりじゃ」と言いながら、健作の私室まで引き上げさせた。
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