理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

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第1章 暗い闇と蒼い薔薇

お屋敷大改造 3

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 結奈の部屋を、グレイとサリーが訪れていた。
 なんだか改まった様子に、結奈は困っている。
 おそらく「お屋敷改装」の件だろう。
 というか、それしかない。
 
(2人は反対、なんだろうな。こう改まった感じでこられると……)
 
 最初の頃を思い出す。
 まだブリザード吹き荒れる屋敷内の空気。
 あれが戻ってくるのは、さすがに勘弁してもらいたい。
 和気藹々わきあいあいとした空気に馴染みきっているので、落ち込むこと必至。
 
「レティシア様……申し訳ございませんでした」
「申し訳……ございませんでした」
 
 まずグレイが頭を下げ、次にサリーが声を震わせつつ、頭を下げた。
 ん?と、結奈は首をかしげる。
 反対されるいわれはあるが、謝罪されるいわれはない。
 どうして2人は謝っているのか、きょとんとなってしまう。
 
「どしたの? なんで2人して謝ってんの?」
 
 結奈は座っていたイスから立ち上がり、扉の前に整列している2人の前へと歩み寄る。
 2人の顔色は最悪。
 真っ青に近い。
 そして、取り巻く空気は真っ暗。
 
「ちょ……ホント、どしたの……? 2人とも、悪いことしてないよ?」
 
 お屋敷改装を言い出したのは結奈だ。
 自分の我儘だとも思っている。
 2人はなんら関わっていない。
 お願いされたことだってなかった。
 
 しかし、2人は現実に肩を落とし、すっかりしょんぼりしている。
 そのしょんぼり具合が半端ない。
 
(いやいや……そんな世界の終わりみたいな顔しなくても……てゆーか、私のこの選択が間違いだったら、目が覚めて世界が終わる、って可能性はゼロではないケド)
 
 それにしたって、世界が終わるのは結奈のほうだ。
 2人がどうなるのかはわからないが、それはともかく。
 
「私たちは……レティシア様に隠しておりました」
「へ……? なにを?」
 
 グレイが、心底、悔いているといった声音で言った。
 隣でサリーは、がっくりとうなだれている。
 
「……パットとマリエッタのことですわ」
「レティシア様は気づいておられたのでしょう?」
 
 ん?と、またもや結奈は首をかしげた。
 それが2人の謝る理由と結びつかなかったからだ。
 
「そりゃ気づくでしょ? 気づかないってことはないよ」
 
 厨房に荷物を運ぶパットは、いつも右足をわずかにひきずっている。
 そして、段差につまづいて舌打ちする姿も見ていた。
 小麦の入った大麻袋を担いでいる時などは本当につらそうなのだ。
 
 マリエッタは、よく左腕に痣を作っている。
 よく見ると左のすねなど、どこかしらに怪我をしていた。
 実際、開いていた扉の把手とってに肘をぶつけているところも見ている。
 結論として。
 
 パットは右足が悪く、マリエッタは左目が悪い。
 
 もしかするとマリエッタは左目が見えていないとも考えられた。
 単なる過労からくる不注意とするには、頻度が高過ぎるのだ。
 そんなパットとマリエッタを見ていて、思いついたのがバリアフリー計画。
 みんなにとって快適な「ウチ」にしたかった。
 
「てゆーか、なんで2人が隠してたのか、わかんないんですケド」
 
 2人が顔をしかめ、口を横に引き結ぶ。
 相当に、言いにくそうなのが察せられた。
 だから、結奈のほうから水を向けてみる。
 
「私が気づいたのは、グレイとサリーの態度?ってか、動きを見てて、あれ?って思ったのが、きっかけなんだよね」
 
 その「きっかけ」について話した。
 グレイは、パットが荷物運びをしていると、視線がそっちに向く。
 とくに足元を見ているような気がした。
 それで結奈も注意して見るようになったのだ。
 
 サリーは、時々、マリエッタにひどく厳しい。
 初めて目にした時は「貴族の屋敷」だからなのだろうと思ったが、サリーの性格を知るにつれ、何かがおかしいと感じた。
 たとえ注意するにしても、サリーはあんなふうに叱ったりはしない。
 マギーやアリシアと比べてみれば、すぐにわかることだ。
 
 そもそも世話焼きで、誰かの面倒を引き受けずにはいられないサリーが頭ごなしに叱ることなどあるだろうか。
 何か理由があるのではと、結奈もマリエッタを気にするようになった。
 
「2人は隠してるつもりだったんだろうけど、隠しきれてなかったんだから、気にする必要なくない?」
「……レティシア様……」
「…………」
 
 グレイは顔をしかめているだけだったが、サリーの目から涙が落ちた。
 それを見て、結奈は慌てる。
 
「え? え? 責めてないよ? 責めてないからね?」
 
 焦って、ドレスの胸元からハンカチを取り出し、サリーの涙をぬぐった。
 ここでの結奈は16歳だが、実年齢は27歳。
 サリーが大人でしっかりしている女性でも、結奈にとっては年下なのだ。
 毎日、散々、世話になってはいるものの、そういう意識がどこかしらにある。
 
「私は……自分が恥ずかしいのです……」
 
 小声で、しかも涙声で、サリーが言った。
 どうやらグレイも「同感です」と言いたそうだ。
 
「レティシア様を……信じておりませんでした……」
 
 どんなに仲が良くても、家族同然でも、家族ですら隠し事のひとつやふたつはある。
 ましては、最初はブリザード屋敷。
 簡単に信頼が勝ち取れるはずはない。
 むしろ、今だって疑われて当然くらいに思っている。
 
 かいま聞こえてくる以前の彼女の言動は、信頼に足るものではなかった。
 同じ職場にいたら、ぶっ飛ばしたくなるレベルだ。
 派遣社員として働いていた結奈は、突然に入った職場で信頼されるのが、どれほど難しいかも知っている。
 
「隠してたってゆーか、言い出せなかったんじゃない? わざわざ言うことでもないだろうし、私も聞かなかったし」
「いいえ、隠しておりました」
 
 グレイが、覇気のない口調で、そう言った。
 ここまで「隠した」ことにこだわるのには、何か理由があるに違いない。
 考えて、すぐに思い至る。
 
(考えつかなかった私が、どうかしてるよ……)
 
 そうか、そうなのだと、思った。
 ここは現代日本よりも差別意識の強い「貴族社会」的世界。
 ちょっと考えればわかるだろうと、自分に腹が立つ。
 今度は、結奈が2人の前でうつむいた。
 
「パットとマリエッタ、怖かったよね。隠さなきゃって、一生懸命だったよね」
 
 貴族の屋敷で、パットとマリエッタの状態が知られれば解雇される。
 以前の自分なら、きっと。
 
「私がもっと早く気づけば良かったんだ。それで、2人に聞けば良かったんだ。
そうすれば、パットもマリエッタも安心できたのに」
「そんな……レティシア様のせいだなんて誰も思っていません」
「そうです。レティシア様が、ご自分を責める必要など……」
 
 結奈の記憶はブツ切れていて、以前の「レティシア」がどんな人物であったのかは、周囲の話から推測しているだけだ。
 それでも、みんなが秘密にしていて、グレイやサリーまでもが「隠していた」心情を理解できる。
 以前の「レティシア」のしたことなんて知らない、と言えれば良かったけれど。
 
「あのさ。改装の件は、私の我儘だって言ったよね」
 
 これからは、誰にも悲しい思いはしてほしくない。
 すべてがそうできるとは限らないとしても、できるだけのことはしたかった。
 そして、そう思うのは、やはり自分の「我儘」なのだ。
 
「だから、謝んないでほしいんだ。代わりに、2人も私の我儘につきあってくれないかな?」
 
 以前の彼女の不始末は、自分の不始末だ。
 自分は、月代結奈として、しかし、レティシア・ローエルハイドとして、正しい選択をしていかなければならない。
 今は、この体で、この姿でここにいるのだから。
 
「かしこまりました」
「もちろんでございます」
 
 グレイとサリーが深々と頭を下げる。
 結奈は2人を抱きしめて言った。
 
「今でもこのお屋敷は素敵だけど、もっと素敵なお屋敷にしようね」
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