理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
41 / 304
第1章 暗い闇と蒼い薔薇

王子様ご降臨 1

しおりを挟む
 やはり祖父はすごい、と思う。
 改装を提案した翌日は、朝から屋敷に顔を出してくれた。
 しかも、結奈の考えていた以上に「バリアフリー」な設計図を持って。
 最初のものに手を加えただけだから大したことはない、なんて言っていたが、結奈からすると「大したもの」だ。
 設計図を手に、おおまかな指揮を執ってくれてもいる。
 わかり易く、的確な指示にも結奈は感心していた。
 
(ああいう上司だったら仕事がやり易かっ……お祖父さまみたいな人だったら、逆に仕事にならなかったかも……)
 
 祖父は、今日は足らなくなった木材の調達に行っていた。
 夕食前には戻る予定だ。
 指示を出しながら、自らもテキパキと動く姿を思い出す。
 見惚みとれてしまい、結奈自身の動きが止まること、しばしばだった。
 
(なんでもできちゃうんだもんなー。やっぱり、お祖父さまみたいな人、ほかにはいないよ。カッコ良くて、優しくて、強くて、なんでもできてさー。なのに、ぜーんぜん偉そうぶらないし、押しつけがましくないし)
 
 最後のあたりは、ある特定の人物と比較しての感想。
 時々、なんとなく頭に浮かんでくるのだ。
 そのたびに、口が「へ」の字になる。
 不愉快になることを思い出すのはやめよう、と結奈は気持ちを切り替えた。
 広い玄関ボールを見回してみる。
 これも、祖父が手配してくれた職人さんたちが、せっせと働いていた。
 屋敷のみんなも、それぞれに手伝ってくれている。
 
(私も、ボーっとしてらんないよね! さぁ、仕事仕事!)
 
 素人なので、あまり手を出すと職人さんたちの邪魔になってしまう。
 資材運びは、外仕事をしているトニーやヴィンスがしている。
 大物の撤去作業は、ガドと、やはり外仕事担当のヒューバートこと
ヒューが行っていた。
 ヒューは、初日に結奈をこの屋敷まで連れてきてくれた馬車の御者もしている。
 朝当番、昼当番の時にそのことを知り、たまに馬小屋に行って馬を見せてもらったりしていた。
 くすんだ灰色の髪に同色の瞳。
 すらりとした体格で美形というより「ハンサム」という言葉が似合う。
 サリーやパットより少し年上の22歳。
 あの日は、だんまりを決め込んでいたが、本当はとてもお喋り好き。
 職人さんたちともすぐに打ち解け、今日もかいがいしく資材運びをしていた。
 
 ゆえに、結奈にできることは限られている。
 主に、掃除の類だ。
 三角巾と口を覆う布を身につけ、ホウキを手にした。
 服はドレスではなく、青いシンプルなワンピース。
 汚れてもいい服で、とサリーに頼んだのだ。
 今回はやむなしと、サリーは女性用の仕事着を貸してくれている。

 元々、みんなの仕事着は屋敷からの配給品とのこと。
 よその屋敷より高級品なのだ、とサリーは言っていた。
 なんでも、母が「着心地と使い易さ」を優先させるためオーダーメイドにしたからなのだとか。
 宰相の妻としての役割を担っていても、母は贅沢を好むタイプの人ではない。
 月に数回ほど顔を合わせるだけだったが、話していればわかる。
 使うべきところに使う主義、といったふうだった。
 
(……なんか、前の私の部屋……贅沢三昧って感じだったよね……どう考えてもいらないものばっかだったしさ。あれを、お母さまが許すって……)
 
 なにやら考えると、そら恐ろしい。
 改装の時も、最初に異を唱えたのは母だ。
 言われて当然だと結奈は思ったが、以前の彼女であったなら、どうであったか。
 もちろん以前の彼女なら改装など言い出しはしなかっただろう。
 さりとて、あの部屋は現実にあったのだから。
 
(どんだけ我儘してたんだよ! 無茶苦茶やってたんじゃないのか?!)
 
 ホウキで床に散らばる木屑を集めながら、恥じ入るばかり。
 これからのレティシア・ローエルハイドは、今までの生活態度を正していく必要があると、心から思う。
 
「レティシア様、ご休憩を取られてはいかがですか?」
「グレイさぁ、私、そんなに虚弱じゃないって言ってるじゃん? 何回、休憩とらせる気?」
 
 グレイは、日に何度も「休憩」を提案してくるのだ。
 改装を始めて十日ほど経つ。
 そろそろ「過保護」をやめてもいいのではなかろうか。
 父に「くれぐれも」と言われているのは知っていた。
 それにしたって、と呆れてしまう。
 
(グレイは、私が働いたことないって思ってるからなぁ。でも、1時間も働かずに休憩、休憩ってのも……それ、働いてないから……)
 
 おためごかし程度に手伝っても意味はない。
 職人さんたちに対しても失礼だ。
 それなら手を出さないほうがマシ。
 
「毎日、言うことじゃないと思うんだけどさ。休憩は、みんなと一緒にとるよ。みんなが働いてる時は、私も働く。どうしても疲れてしかたなくなったら、グレイにちゃんと言うから」
「そうでしょうか?」
「なに、それ?」
「レティシア様は、お疲れでも疲れたとは仰られない気がします」
 
 確かに、そういうところはある。
 フルタイムで働いていた頃も、風呂に入りながら寝そうになったり。
 有能執事は勘も鋭い。
 
「とくに、今日は大公様がお戻りになられるまでは、私が代わりを務めるように申しつけられておりますので」
 
 グレイのキリっとした顔を見て、ああ、と納得した。
 グレイも結奈に負けない「お祖父さまファン」なのだ。
 結奈にとっての「理想の男性」は、グレイにとっては「敬愛してやまない上司」に違いない。
 なにせ祖父から頼まれ事をするたび、目をきらきらさせている。
 尻尾をぶんぶん振っているのが見えるような気がするほどだ。
 お祖父さま病の結奈には、グレイの気持ちがよくわかる。
 
(きっと、お祖父さまに頼られてるっていうのが嬉しいんだろうねえ)
 
 張り切ってしまうのもしかたがない。
 それはわかるが、みんなが働いている中、自分だけ優雅に休憩することはできなかった。
 それよりも。
 
「てゆーか、私よりサリーのが働き過ぎじゃない?」
 
 ちらっと、サリーのいるほうへ視線を向ける。
 隣に立っていたグレイもサリーに視線を向けつつ、眼鏡を押し上げた。
 
「……それは、そうなのですが。言っても聞かないのです。どこかの姫さまと同じで」
「う……いやいや、私より働いてるって、絶対!」
 
 サリーは、パットとマリエッタのことを隠していたのを、ことのほか悔やんでいるらしい。
 サリーがマリエッタに厳しかったのは、厳しく叱責することでその場を離れさせることが目的だった。
 影でマリエッタに詫びていたとも聞いている。
 そこまでして、彼女を守ろうとしていたのだろう。
 が、サリーの厳しさを結奈はおかしいと思い、マリエッタのことに気づいた。
 つまり、結奈は「サリーがそんな人ではない」と思っていたということ。
 対して自分はどうだったのかと、サリーは結奈を信じ切れていなかったことに強い罪悪感をいだいているのだ。
 
「そんなに気にしなくていいのになぁ。サリーって、いい人だよね」
 
 隣でグレイが、こくりとうなずく。
 その姿に、結奈はニヤリとした。
 
「歳の差婚て、私はアリだと思うよ?」
「は……? 歳の差……なんでしょうか?」
「べっつにぃ。グレイが、いーっつもサリーを見てるって話だよ」
 
 ぎゅっとも、ぐぇっともつかない声をあげるグレイに、1本取り返したと、結奈は気分を良くする。
 その時だった。
 
「ヤバいですッ!」
 
 ヒューが転がるようにして飛び込んでくる。
 ヤバい、ウザい、マジ、この3つの単語は使い勝手がいいのか、すっかり屋敷内で定着していた。
 あまりいい言葉ではないのだが、結奈も口癖になっていて、気づけば使ってしまっている。
 だから、全面禁止にはできないのだ。
 
「どうしたんだ、ヒュー?」
「お、王宮の紋章入り馬車がこっちに来てるんですよ!!」
 
 言葉に目を丸くする。
 一瞬、思考が止まった。
 慌てた様子でサリーが駆け寄ってくる。
 
「は……? 王宮の紋章って……」
「王太子がこちらに向かっているということです!」
 
 あの王子様が、ここに来るというのか。
 思考がゆっくりと動き出した。
 
「マジでーッ?!」
 
 結奈の言葉に、その場にいた屋敷の者全員が口をそろえて。
 
「マジです!!」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...