理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ

文字の大きさ
134 / 304
第2章 黒い風と金のいと

目減りしない愛 2

しおりを挟む
 ジークは、木の上から、その光景を眺めていた。
 王宮からの使者が、彼の孫娘を訪ねて来ている。
 それらしさの演出なのか、使者は本当に使者だった。
 魔術師ではない。
 魔力を隠している、といった気配も感じられなかった。
 ジークは、ひと通りの確認をしている。
 それから、少しだけ興味を惹かれ、「寄聴よせぎき」を発動した。
 少し離れた場所での会話が、はっきりと聞こえてくる。
 
「大公様が、なぜ王宮から呼び出しを受けたのかについては、私も詳しくは聞かされておりません」
「私戦のことと、関係あるかどうかは、ご存知ですか?」
 
 ジークは、烏姿で、わずかに首をかしげた。
 きょとんとしたわけではない。
 人の姿ではないので、仕草に相違が出るのだ。
 
(ふーん。ああいう話しかたもできるんだな)
 
 彼女は、いつも「変わった」話しかたをする。
 意味のわからないものもあったが、なんとなく、こういうことを言っているのだろうと、伝わってくるのが不思議だった。
 貴族令嬢の使う、まわりくどく気取った言葉使いもしない。
 だから「ふーん」なのだ。
 
「存じ上げません」
 
 使者は、とてもそっけない口調で応じている。
 本当に知らないのか、知っているけれども話さないだけなのか。
 ちょいと髪でも焼いて、口を割らせてみたくなったが、やめておく。
 やるなら、口を割らせたあと、口を封じなくてはならなくなるからだ。
 彼がいない場で、面倒を起こすことはできない。
 ジークが何をしても、彼は迷惑がったりはしないのだけれども。
 
「しかしながら、内容については秘匿すべきことと、お聞きしております」
「秘匿、ですか」
「さようにございます。つきまはして、呼び出しの内容は、こちらでご確認くださいませ」
 
 使者が、彼の孫娘に、書類挟みを渡している。
 見た感じ、しっかり封がされているようだった。
 口で言えばいいのに、貴族や王宮というのは、面倒な手続きを踏みたがる。
 人と関わらないジークには、関係のない慣習だ。
 それを、ありがたいと思う。
 直線で飛んだほうが速いとわかっているのに、わざわざ曲線を描く必要を、ジークは感じない。
 
「ただし、そちらは、レティシア姫様だけで、ご確認をお願いいたします。なにぶん秘匿すべき事柄にございますので」
 
 言われた彼女が、少し戸惑ったような表情を浮かべる。
 が、使者が、それ以上のことを言いそうにないのを察したのか、小さくうなずいた。
 
「わかりました」
 
 使者は、会釈をしてから、帰っていく。
 扉が閉まったので、寄聴を切った。
 
 ジークは、嘴を何度か、カチカチと鳴らす。
 欠伸あくびをしたのだ。
 彼からの連絡は、まだない。
 彼の孫娘を狙っている者もいなかった。
 となると、やることがなくて、退屈になってくる。
 魔力の感知は続けていても、これは欠伸をしていてもできることだった。
 彼ほどの力でもない限り、シークの魔力感知の網をかいくぐれはしない。
 
(そういや、王太子も魔力はあるんだよな。まったく隠せてなかったけどサ)
 
 湖での出来事を思い出す。
 王太子からは、下級魔術師程度の魔力を感じた。
 あれが王族というものか、と思ったものだ。
 なにしろ魔力が、だだ漏れ。
 器がないのだから、しかたがないのかもしれないが、あれではどんな魔術師からも隠れられないだろう。
 
(あいつ、木の陰にいたけど、何がしたかったんだ?)
 
 王太子が、彼から姿を隠していたのだと、ジークにはわからない。
 ジークよりも数段上の魔力感知ができる彼と、魔力だだ漏れの王太子。
 隠れられるはずがないのだから、隠れようとしていたなどとは、考えもつかなかったのだ。
 そこまで間が抜けていると気づけるほど、ジークは王太子には興味がない。
 王太子が悪人でないことはわかったけれども。
 
(おっせーなあ……審議ってのは、そんなに時間かかるもんなのか)
 
 ジークと出会う前がどうだったのかはともかく、これまで彼が「審議」とやらに呼ばれたことは、1度もなかった。
 ついて行ったこともないため、どのくらい時間を要するものなのか、わからずにいる。
 王族までもが勢揃いするのだそうだ。
 そのせいで、時間がかかるのかもしれない。
 これだから王宮は嫌いなのだ。
 下手へたに近づけないし、面倒ごとばかりだし。
 
 ジークは、また嘴を、カチカチと鳴らす。
 基本的に、あまり眠る習慣がないので、よけいに退屈だった。
 本当にすることがなく、彼の孫娘の様子でも見に行こうか、と思う。
 彼女の部屋の窓近くには、ちょうどいい高さの木が植えられているのだ。
 枝にとまれば、室内がよく見える。
 彼の孫娘がキーキーうるさい女だった頃、ジークは、よくそこにとまって中の様子を窺っていた。
 
(ジーク)
(あいよ)
 
 彼からの即言葉そくことばだ。
 応えて、ジークは飛び立つ。
 すぐに彼の元へと転移した。
 ジークは、彼に魔力を与えられている。
 その源を追えば、彼の居所がわかるのだ。
 烏姿を隠し、彼の肩にとまる。
 
「待たせたね」
(いーけどサ。なんで歩いてんだよ)
「少し気が滅入っていてね」
 
 彼は、とても物憂げだった。
 最近、いつもこんな調子だ。
 理由は、わかっている。
 
(つまんねー審議なんか出なきゃよかったのに)
「私も、そう思っているよ」
 
 あの執事が屋敷を出てから、彼の孫娘は笑っていなかった。
 彼に抱き着くこともなく、大好きとも言わない。
 
 だが、彼の憂鬱さの原因は、別のところにある。
 
 わかっているだけに、めずらしく、少しだけ、迷った。
 彼に、これ以上の憂鬱さを与えるのもどうか、と思ったのだ。
 さりとて、どうせ知ることになるのだし、知らない振りをしても意味がない。
 
(王宮からの使者ってのが、来てたぜ?)
「そうかい」
(アンタの言う通り、サイラスは、せっかちな野郎だな)
 
 彼の孫娘を殺しかけたと思ったら、次には人さらい。
 そして、今度は。
 
「ジークの言うようにしておけば良かったと、反省していたのだよ」
(サイラスだけでも、始末しとけば良かったって?)
 
 彼は答えなかった。
 返事がないのが返事、というのが常のこと。
 が、ジークは、わずかな彼の逡巡を見抜く。
 
(どうせ隠しておけやしないサ)
 
 サイラスは邪魔だし、煩わしい。
 始末をつけたいと思う気持ちは、ジークのほうが強い。
 彼は気が長く、己の力をうとんじているからだ。
 必要がなければ、なるべく、その力を振るおうとはせずにいる。
 
 サイラスに関しては、いずれ始末をつける気ではいるだろう。
 さりとて「今」だとは、思っていなかったに違いない。
 最も効果的に、確実に、ケリをつけようとした結果だ。
 ジークは、彼の「反省」なんて微塵も信じてはいなかった。
 今ではないと彼が感じるのなら、それは「今ではない」のだ、きっと。
 
「そうだね」
 
 溜め息をつくように、彼が言葉を落とす。
 憂鬱さに、拍車がかかっているようだった。
 
(寂しいのか?)
 
 ジークは言葉を飾らない。
 6歳の頃から、話し相手は彼だけだからだ。
 
「そりゃあね」
 
 十年待って、ようやく孫娘との関係が良くなっている。
 拒絶の檻から解放された彼は、声をあげて笑うようになったし、毎日とても楽しげでもあった。
 よくそんふうに簡単に受け入れられると、ジークは呆れていたものだ。
 
「ジークは正しい。それに……まぁ、慣れているさ」
 
 彼は、また拒絶の檻に閉じ込められるのだろうか。
 彼が造った、彼女のためのベンチは野ざらしになっていくのだろうか。
 わからないが、ジークは少しだけ信じたかった。
 彼が宝だと言う、彼の孫娘を。
 
(まだ結末ってわけじゃ、ねーだろ)
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

このたび、あこがれ騎士さまの妻になりました。

若松だんご
恋愛
 「リリー。アナタ、結婚なさい」  それは、ある日突然、おつかえする王妃さまからくだされた命令。  まるで、「そこの髪飾りと取って」とか、「窓を開けてちょうだい」みたいなノリで発せられた。  お相手は、王妃さまのかつての乳兄弟で護衛騎士、エディル・ロードリックさま。  わたしのあこがれの騎士さま。  だけど、ちょっと待って!! 結婚だなんて、いくらなんでもそれはイキナリすぎるっ!!  「アナタたちならお似合いだと思うんだけど?」  そう思うのは、王妃さまだけですよ、絶対。  「試しに、二人で暮らしなさい。これは命令です」  なーんて、王妃さまの命令で、エディルさまの妻(仮)になったわたし。  あこがれの騎士さまと一つ屋根の下だなんてっ!!  わたし、どうなっちゃうのっ!? 妻(仮)ライフ、ドキドキしすぎで心臓がもたないっ!!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...