恋心〈婚約者が選んだのは僕ではなくて女性Ωでした〉

佳乃

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〈間話〉朝の風景


 朝、目が覚めると部屋着に着替え顔を洗ってから食堂に顔を出す。
 兄も父も食卓についているが母の姿はない。朝の食卓に母がいないのはよくあることなので誰も気にはしない。兄も僕もなぜいないかを追求するほど子どもではない。
 小学生の頃は〈何で?〉と父に問うこともあったがある程度成長すれば〈そういうこと〉だと気づくものだ。基本我が家の家事はできる範囲で母もやるが、父と母が結婚した当初から同じハウスキーパーさんが来てくれている。βの女性だがどことなく母方の祖母に似ているせいか、父がヤキモチを妬くことがないどころかとても信頼している人だ。住み込みでという話もあったようだが、生活の切り替えが欲しいと近くに居を構えており母の様子を見ながら仕事の時間を調整している。基本、平日は朝食の準備からが勤務時間で朝のうちに掃除洗濯をしてくれている。
 兄や僕が小さい頃は母のヒートの時期になると自宅に連れて行ってくれたこともあった。普段は父の実家に預けられていたからどうしても調整がつかない時にお迎えが来る時までの一時避難だったが、非日常が楽しくて大好きな時間だった。気の回る人なのでこんなことも踏まえての通いなのかもしれない。

「光流さん、今日はお休みだと聞いていたのでパンケーキにしてみました」
 僕が食卓についたのを見計らってカフェで食べるようなパンケーキが出てくる。軽めのホイップクリームと果物がたくさん乗ったパンケーキ。きっと僕の事情を母から聞いて気を遣ってくれたのだろう。
「ありがとう」
 その心遣いが嬉しくて笑顔で答えると余計なことは何も言わずニコリと微笑み返してくれる。この辺の距離感を父も気に入っているのかもしれない。色々と把握していても余計なことは一切言わないのに、必要な時にはすぐに察してくれる本当に優秀なハウスキーパーで、ある意味我が家の秘書でもある。
 僕の朝食をサーブすると彼女はキッチンに戻り、自分の仕事を続ける。母がいる時といない時では仕事内容も違ってくるのだろう。
 父と兄は食事もほぼ食べ終わり僕のパンケーキを見て苦笑いを漏らしている。
「体調はもう大丈夫?」
 パンケーキにナイフを入れると兄がそう話しかける。
「うん。母さんが念のため今日は休んだほうがいいからって言うから休むけど、もう終わったよ。学校が終わったら護君が来てくれるって」
 話しながらナイフを動かし、話終わると同時に一口食べる。軽いヒートだったから負担も少なかったと思っていても心も身体も疲れていたのか、甘いものが心地良い。
「そっか。護、昨日は少し寂しそうにしてたからフォローしておきなね」
 兄の言葉に父も相槌を打つ。やはりαにはαの考え方があるらしい。
「うん。ちゃんと話するね」
 僕の言葉に満足そうな顔をして、2人は席を立つ。いつもよりも少し遅い時間。どうやら僕が来るのをギリギリまで待ってくれていたようだ。
「いってらっしゃい」
 声をかけて僕は朝食を再開した。
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