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大切な
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2人で話したあの日、いくつかのことを決めた。
検査結果によっては変更も考えるが、当面のところ僕のヒートは薬を飲んで様子を見る。
検査結果がよくなかったり副作用が強く出る場合はその時にまた考える。
ヒートの時は連絡をする。会えないけれどパートナーなんだからちゃんと知っておきたいと言われた。
「格好つけたけど、俺だって光流とヒートを過ごしてしまったらますます光流を甘やかしてしまいたくなる自信がある。それこそ、外部受験を考え直してしまうかも」
お互いに隠していた本音が僕を勇気付ける。一方的な想いだとしても頑張ろうと思っていたのに、お互いに同じ方向を見ているのだから。
本当は毎日メッセージを送りたいと言うと、護君も兄から伝えられる言葉よりも僕からのメッセージが欲しいと言われた。
いろいろな集まりにパートナーとして出席しているが、2人で出かけたいと言われてハッとした。〈行事は家族で〉と母が言うため護君には我が家の行事に付き合ってもらうことが多く、イベントの時はいつも一緒に過ごしていることで満足し2人で過ごしたことがないことに気付き愕然とする。兄と護君が2人で出かけることはあっても僕が護君と出かける時は兄も同伴なのだ。子どもの頃からの延長で僕がいる時は3人で過ごすと言うことが刷り込まれてしまっていたのかもしれない。
「デート、したい!」
思わず力を込めて言ってしまい恥ずかしくなるが、その言葉に微笑み返してくれる護君の目は優しくて。
今まで積み重ねてきたことを変えていくのは楽しいけど容易ではなくて、2人で話をしながら少しずつ変えていったことも沢山あるる。
そして、穏やかに時は流れてゆく。
僕の2回目のヒートも初めての時同様、薬で容易に抑えることができた。血液検査の結果も異常は無く、副作用で体調を崩すこともないため先生からも継続して服用する許可が出た。ただし定期的に検査は必要で、何か異常が出た場合にはすぐに服用は中止。ヒート中にいつもと違う症状が出たら隠さず申告することも約束した。
ヒートの時の様子は出来る限り護君も共有し、護君から見て何か様子が変わったと思う時は教えてもらえるようお願いした。
今までは僕に何か変化があれば兄が真っ先に気づくのでそれで安心していたが、頼られたい護君と頼りたい僕はそんなふうに共有できる情報が増えることが嬉しかった。
やがて受験シーズンとなり、さすがにこの年の年末年始は護君を誘うのも申し訳なくてクリスマスに少しだけ2人で会う時間を作ってもらってプレゼントを渡した。
2人だけ、といっても移動の時間がもったいないため僕の部屋でお部屋デートだ。
何を渡そうか悩んで結局ちょっといいシャーペンを送る。使う使わないではなく応援の気持ちで、そばで応援したいからペンケースに入れて欲しいとお願いするとぎゅっと抱きしめられた。その時、護君から心地良い香りがすることに気づいた。その香りに勇気付けられて他にも用意した物を渡す。
風邪予防のアロマオイルや身体の温まるお茶。思い付く限りの物。護君はその量に驚きながらも喜んでくれた。
「光流にはこれを」
護君がそう言って送ってくれたのは大判のストールだった。
「実は、おそろいなんだ。これを使って欲しい。それで試験前に俺のストールと交換して欲しいんだ。試験の時にお守りにしたい。会えない時も、一緒にいたいんだ」
気持ち悪くてごめん、と呟くように言葉を添える。
「気持ち悪くなんてないよ。僕も同じ気持ちだから嬉しい」
先ほどの香りを思い出し、その香りを手にすることができるのかと思うとそれだけで満たさせた気になる。
「じゃあ、年明けにどれだけ会えるかわからないけどその都度交換しよ?」
試験まで一度しか会えないということはないだろう。少し我儘かな、と思いながらも提案すると少しの時間でも会いに来ると約束してくれた。
途中で兄がお茶を持ってきてくれたりもしたが、やけにお洒落していたので出かけるのだろう。
護君の予備校の話、僕の将来の展望、共通の友人の話。取り止めのない会話が続くが護君が時計を見てため息を吐く。
「名残惜しいけどそろそろ時間だ」
今日もこれから予備校だという。荷物は大丈夫かと心配すると一度家に帰るからと笑いそっと僕の頬に手を添える。
護君の意図に気づき目を閉じると唇が重なる。重ねる毎に長くなる口付け。唇が離れるのが淋しくて思わず拗ねたような目になってしまい護君を困らせてしまう。
「来年のクリスマスは2人でゆっくり過ごせるように頑張ってくるよ」
そう言って護君は帰路に着いた。
幸せだった記憶。
大切な、大切な思い出。
検査結果によっては変更も考えるが、当面のところ僕のヒートは薬を飲んで様子を見る。
検査結果がよくなかったり副作用が強く出る場合はその時にまた考える。
ヒートの時は連絡をする。会えないけれどパートナーなんだからちゃんと知っておきたいと言われた。
「格好つけたけど、俺だって光流とヒートを過ごしてしまったらますます光流を甘やかしてしまいたくなる自信がある。それこそ、外部受験を考え直してしまうかも」
お互いに隠していた本音が僕を勇気付ける。一方的な想いだとしても頑張ろうと思っていたのに、お互いに同じ方向を見ているのだから。
本当は毎日メッセージを送りたいと言うと、護君も兄から伝えられる言葉よりも僕からのメッセージが欲しいと言われた。
いろいろな集まりにパートナーとして出席しているが、2人で出かけたいと言われてハッとした。〈行事は家族で〉と母が言うため護君には我が家の行事に付き合ってもらうことが多く、イベントの時はいつも一緒に過ごしていることで満足し2人で過ごしたことがないことに気付き愕然とする。兄と護君が2人で出かけることはあっても僕が護君と出かける時は兄も同伴なのだ。子どもの頃からの延長で僕がいる時は3人で過ごすと言うことが刷り込まれてしまっていたのかもしれない。
「デート、したい!」
思わず力を込めて言ってしまい恥ずかしくなるが、その言葉に微笑み返してくれる護君の目は優しくて。
今まで積み重ねてきたことを変えていくのは楽しいけど容易ではなくて、2人で話をしながら少しずつ変えていったことも沢山あるる。
そして、穏やかに時は流れてゆく。
僕の2回目のヒートも初めての時同様、薬で容易に抑えることができた。血液検査の結果も異常は無く、副作用で体調を崩すこともないため先生からも継続して服用する許可が出た。ただし定期的に検査は必要で、何か異常が出た場合にはすぐに服用は中止。ヒート中にいつもと違う症状が出たら隠さず申告することも約束した。
ヒートの時の様子は出来る限り護君も共有し、護君から見て何か様子が変わったと思う時は教えてもらえるようお願いした。
今までは僕に何か変化があれば兄が真っ先に気づくのでそれで安心していたが、頼られたい護君と頼りたい僕はそんなふうに共有できる情報が増えることが嬉しかった。
やがて受験シーズンとなり、さすがにこの年の年末年始は護君を誘うのも申し訳なくてクリスマスに少しだけ2人で会う時間を作ってもらってプレゼントを渡した。
2人だけ、といっても移動の時間がもったいないため僕の部屋でお部屋デートだ。
何を渡そうか悩んで結局ちょっといいシャーペンを送る。使う使わないではなく応援の気持ちで、そばで応援したいからペンケースに入れて欲しいとお願いするとぎゅっと抱きしめられた。その時、護君から心地良い香りがすることに気づいた。その香りに勇気付けられて他にも用意した物を渡す。
風邪予防のアロマオイルや身体の温まるお茶。思い付く限りの物。護君はその量に驚きながらも喜んでくれた。
「光流にはこれを」
護君がそう言って送ってくれたのは大判のストールだった。
「実は、おそろいなんだ。これを使って欲しい。それで試験前に俺のストールと交換して欲しいんだ。試験の時にお守りにしたい。会えない時も、一緒にいたいんだ」
気持ち悪くてごめん、と呟くように言葉を添える。
「気持ち悪くなんてないよ。僕も同じ気持ちだから嬉しい」
先ほどの香りを思い出し、その香りを手にすることができるのかと思うとそれだけで満たさせた気になる。
「じゃあ、年明けにどれだけ会えるかわからないけどその都度交換しよ?」
試験まで一度しか会えないということはないだろう。少し我儘かな、と思いながらも提案すると少しの時間でも会いに来ると約束してくれた。
途中で兄がお茶を持ってきてくれたりもしたが、やけにお洒落していたので出かけるのだろう。
護君の予備校の話、僕の将来の展望、共通の友人の話。取り止めのない会話が続くが護君が時計を見てため息を吐く。
「名残惜しいけどそろそろ時間だ」
今日もこれから予備校だという。荷物は大丈夫かと心配すると一度家に帰るからと笑いそっと僕の頬に手を添える。
護君の意図に気づき目を閉じると唇が重なる。重ねる毎に長くなる口付け。唇が離れるのが淋しくて思わず拗ねたような目になってしまい護君を困らせてしまう。
「来年のクリスマスは2人でゆっくり過ごせるように頑張ってくるよ」
そう言って護君は帰路に着いた。
幸せだった記憶。
大切な、大切な思い出。
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