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僕の味方
しおりを挟むあの日の帰り道、護君から香ってくる柑橘系の香りと〈腐った蜜柑〉と言われた言葉に弱っていたのかついつい安形さんに弱音を吐いてしまった。
「護君を捨てろって言われちゃった…」
「どなたにですか?」
「知らない人。向こうはわかってると思うけど…静流君ならわかるんじゃないかな?」
「そうなんですね」
安形さんは余計なことは言わない。
僕の言葉を引き出し必要な情報は父や兄に伝えていることに気づいてはいたが、言葉を止めることができなかった。
「いつからかな…護君から嫌な香りがする様になったんだ。柑橘系の香りなんだけど、その香りが気持ち悪くって…」
「護さんのフェロモンではないのですか?」
「護君は檜の香りなんじゃないかな?そこにまとわりつく様に柑橘系の香りがするんだ」
「そうなんですね…」
「フェロモンってさ、香りが変化したりするもの?」
「どうなんですかね。私の周りではそう言った話は聞いたことはないですね」
「そっか…。その人にさ、腐った蜜柑を大切にする様な相手は捨てなさいって言われたんだよね」
僕の言葉に安形さんが沈黙する。
「父さんや静流君には言わないでね」
話してしまった事を後悔して口止めをしておく。解決の糸口が欲しくて話したが安形さんを困らせたのではないかと心配になる。
「光流さんがこんな風にお話ししてくれたのは初めてですね」
少しの沈黙の後に返ってきた柔らかい言葉に驚く。
「私、光流さんが向井さんと話してる雰囲気がすごく好きなんです。いろいろお願い事したり、取り止めのない話をしていたり。だから、こうして私にお話ししてくれたのが嬉しいです。
人って話をして、聞いてもらって、それだけでも気が楽になることってあるんですよ。吐き出すって大切ですよ。
その相手に私を選んでもらえたことが嬉しいです」
顔は見えないが柔らかい言葉に気持ちが楽になる気がした。
「ところで、香りの話って私のパートナーに話しても大丈夫ですか?」
沈黙が心地良くて流れる景色を見ていたが、家が近くなった頃再び安形さんが口を開いた。
「確信はないのですが、前にうちのパートナーがフェロモンについて何か言ってたんですよ。たぶん、光流さんのお力になれると思います」
「話すのは大丈夫だけど…。安形さんは護君見て何か感じる?」
「私はご挨拶程度でしかお会いしたことがありませんが、これは多分Ωにしかわからないことだと思います。
それでは何か分かりましたらお伝えしますね」
頼もしい言葉をもらったのはちょうど家に着いた時だった。
「ありがとう。お願いします」
安形さんにお礼を言い車を降りる。
「おやすみなさい。ゆっくりお過ごしくださいね」
兄が門のところで待っているのを確認し、会釈を残し安形さんは帰宅の途に着いた。
「おかえり」
車から降りた兄が迎えてくれる。
「疲れてない?」
「疲れた…」
短い言葉を交わし家に入る。
その夜、僕はまた熱を出した。
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