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変化

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 その後の僕の回復は順調そのものだった。
 筋力も心配したほど落ちておらず、静流君が家でのリハビリもすぐに理解して実践できるようになったため予定通り3日で退院できた。食事も基本的なレシピが向井さんに渡されていて僕の体調を見ながら通常食に戻していく、と言う話だったが退院する時には通常食に戻っていた。
 病は気からとはよく言ったもので、静流君と話をして自分の中の気持ちと向き合い、納得して、折り合いをつけて、そうしたら自然と〈食べたい〉と言う気持ちが強くなった。
 まだ悲しくなる時もあるし、淋しくなる時もあるし、辛い時だって、泣く時だってある。でも、その度に静流君が寄り添ってくれて僕を肯定してくれる。
 僕にとっての1番の特効薬は静流君なのかもしれない。

「この調子ならまた服、買い替えかな?」
 〈着せてみたい服が沢山あるんだよ〉と静流君は嬉しそうだ。

 学校は新学期早々休んでしまったけれど、先生が〈sleeping beauty project〉の事を学校に伝えただけでなく、学生を対象に様々な症例を集めたいと言って学校を巻き込んでしまった。
 それは在校生のΩだけでなく、兄弟姉妹やパートナーであるΩも対象となったため広く知られてしまうこととなる。
 はじめは〈眠り姫〉だとか〈スティッチ〉だとか、ふざけてるのかと言う声もあったものの、調べていくうちにヒートの時に〈睡眠欲〉や〈食欲〉の増すΩが一定数いる事も確認された。僕ほど症状の強く出る事は珍し事と、やはりそれらの欲より〈性衝動〉の方が強く出るため認知されるほど気にする人もいなかったようだ。
〈そう言えばヒートが近くなると眠くなるかも…〉とか〈体力使うから食欲増してるのかと思ってた〉なんて声も聞こえて来た。

 プロジェクトの名前のせいで〈姫〉なんて呼ばれる事もあるけれど、揶揄してではなく親しみを込めてのようで悪い気はしない。ただ恥ずかしいだけで、それなのにそれが続くと慣れて来てしまうから僕も案外図々しい。
 親しくなった数人に〈光流と読んで欲しい〉と言ってみたが、何だかゴニョゴニョ言って曖昧にされた。静流君の名前が聞こえた気がしたけど…気のせいだったのかな?

 ヒートの関連で僕が体調を崩した事も知られており、休んでいた間のノートは有志がまとめたものを渡された。リハビリの事も知られており何かと気を使われてしまう。
「姫と話してみたかったけど〈話しかけるなオーラ〉出てたからね」
 と言われたけどそれを出してたのは…静流君?

 僕の毎日は思ったよりも順調だ。
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