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叶わぬ願い

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 トートバッグを染色した人に会いたい。
 ストールを手にしてみたい。

 その願いはなかなか叶わなかった。
 当の本人が本当に学校に来ないらしい。
 僕にトートバッグを見せてくれた彼女もなんとか本人と連絡が取れないかツテを探っているが、目ぼしい成果はないらしい。

「これなんだけど」
 とサロンで見せてくれたトートバッグはひとつ譲ってもらえる事になった。
「勢いで買ったけど、気に入ったのばかり使うから欲しいのがあれば譲るよ?」
 そう言われたので遠慮せずに譲ってもらったのだ。彼女がいつも使っていたのは綺麗なブルーだったけれど、僕が選んだのは深いグリーン。鮮やかなグリーンではなく深いグリーンは温かみがあり、授業の道具一式を入れるのにちょうど良い大きさだった。

「それ、気に入ってるね」
 朝の支度をしていると静流君に声をかけられた。社交に出る時に着るようなお洒落なスーツではなく会社用のスーツがすっかり板についている。と言っても静流君はこだわりが強いから会社用のスーツでもお洒落に見えてしまうのだが…。
「良い色だよね」
 褒められると悪い気はしない。譲ってもらってからほぼ毎日使っているせいですっかり僕に馴染んでいる。
「会えそうなの?」
「それが、本当に学校に来ないみたいなんだよね。色々とツテを辿ってコンタクトを取ろうとしてるみたいだけど今のところ駄目みたい。彼女、こうなったら意地でもってムキになってるんだけどね」
 彼女の様子を思い出して思わず笑ってしまう。来年4年生になる彼女は自分の卒業制作もあるため懸念事項は無くしておきたいのだと息巻いている。制作自体は決められた時期からしか作業できないので、それまでに就活をしたり卒業制作のコンセプトを決めたりと何かと忙しいと言っていた。

 彼女からトートバッグを譲ってもらったのは学祭が終わった後の初冬だったけれど、気付けば年が明けていた。4月からは4年生になるが、僕はまだ自分の進路を決めかねている。賢志は地元に戻らず静流君の秘書として働かないかと打診され、それを受け入れようかどうしようか迷っているらしい。

「会えるようになったらその時は静流君か安形さんに来てもらう予定だけど、良かった?」
「それくらい都合つけるよ」
「会えるといいんだけどな…」
「そうだね」
 静流君も僕が珍しく興味を示した事柄が気になるようで折に触れて聞かれるものの、なかなか色良い返事ができない。

 待ち遠しく思っているのは同じなのだ…。
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