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ドライブ

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 静流君が予約してくれた店は郊外にあるいわゆる〈隠れ家レストラン〉だった。決められたコースが用意された1日数組限定のレストラン。
 いつの間に予約を入れたのかが気になるけれど…あまり詮索しない方がいいかもしれない。

 少し距離があるけれど、普段運転する機会がない静流君は久しぶりに運転できる事が楽しいようでご機嫌である。僕は免許すら持っていないため運転する楽しさはわからないけれど、遠出をする機会が少ないためドライブは嫌いじゃない。
 流れる景色を見ながら静流君に話しかける。

「今日はありがとう」
「うん。
 緊張、してる?」
「してる。
 けど、それよりも楽しみ」
「そっか」

 長くは続かないものの、穏やかな会話。
 沈黙もまた心地良い。
「そう言えば楓さんが久しぶりに会いたいって言ってたよ?」
 思い出したように静流君が言う。
 最近、社交ではすれ違いばかりが続いて会えてないのだ。譲ってもらったストールもまだ渡せてない。
「静流君、会ったの?」
「たまたまね。
 色々話しておいたから次にあったら離してくれないかもよ?」
 ニヤリと笑うけれど…何を話したんだろう?嫌な予感しか無い。
「あんまり変なこと言わないでよね。
 楓さん、鋭いんだから。また怒られる」
「それだけ光流のこと可愛いんだよ」
 取り止めのない会話。

 何の実りもない会話だけど、僕の心を満たすには十分な会話。
 少しだけ自分の周りをよく見るようになって気付いたことは、家族以外にも多くの人に助けられて支えられて来ていたこと。
 頭ではわかっていても、しっかり理解していなかった多くのこと。

 僕を雁字搦めにしていたものは案外簡単に解けるし、切ってしまう事もできるものだったのだ。それなのに僕は解くことも切ることも諦めて、これ以上絡まないようにとその真ん中で息をひそめて生きていたのだ。
 …ちょっと損した気分になる。

 誰かが教えてくれればもっと早く抜け出せたのに、と思わないでもないけれど〈僕が自分から抜け出したこと〉に価値があるのだろう。

「静流君、長い間心配ばかりさせちゃってごめんね」
「まだ嫁にはやらないよ?」
 僕の言葉を茶化すけれど、きっと僕の気持ちを1番理解してくれているのは静流君だ。
「まだ嫁には行かないよ」
「そう?
 それならそれで良いよ」

 これは、静流君の強がり。
 誰よりも僕の幸せを願っているのは静流君だから。
 それは〈護君〉を選んでしまったことに対する僕への贖罪。
 そんなこと、静流君が気にすることじゃないのに誰よりも気にしていることは僕が1番わかってる。

 だからこそ紬さんに会う時には静流君にいて欲しかったんだ。
 僕を変えてくれた人、僕が変わらないと駄目だと気づかせてくれた人。

「着いたよ」
 お互いに照れ臭くなって無言のまま到着したそこには既に1台の車が駐車されていた。
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