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ファーストコンタクト〈紬side〉

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 駐車場に入ってきた車を見てすぐに光流が来たことに気付いた。滑るように入ってきた車が停車して2人の人物が降りたのを確認してから自分も降車する。
 光流の姿を見て思わず頬が緩んでしまう。

 俺の顔を見て少し戸惑い兄の顔を見上げているけれど、そんなのは想定内だ。
 前に会った時はフィールドワークに出る直前で1番身なりに構っていなかった時だったから印象が違うのだろう。着古したジャンバーとツナギ。伸びた髪の毛もそのままだった。
 言い訳をすれば先方から改まった挨拶などはいらないから始めから作業できる格好で、と言われていたしフィールドワーク中は髪を切りに行くことも面倒なので縛れるように髪は伸ばしっぱなしにしてあったのだ。中途半端な長さよりも少し長めにして縛っておいた方が断然楽だ。
 作品を譲る気が無かったから外見で威嚇しようと言う意図もあったことは否定しない。

 今考えると馬鹿なことをしたものだ。
 第一印象がアレだったのだと思うと居た堪れない。
 伸ばしっぱなしだったツーブロックはスッキリと整えてきたし、服装だってリネンのジャケットにチノパンを合わせて綺麗目を心掛けた。リネンのジャケットが藍染なのはちょっとしたこだわりだ。
 
「光流君、久しぶり」
 とりあえず光流に声をかける。自分のことはちゃんと認識してくれているのだろうか?
「お久しぶりです」
 返事は返ってきたものの、顔は見てくれなかった。意識されてるのだろう、心の中でニンマリしてしまう。

 もっと俺を意識すればいい。

 そしていよいよラスボスとの直接対決だ。
 と意気込んできたはずなのに、

「はじめまして、辻崎静流。
 光流の兄です」
 先に声をかけられてしまった。
 先制パンチか?!

「存じ上げてます。
 紬結斗です。
 はじめまして」
 少しピリピリした空気の中挨拶を交わしたが、光流の一言でそんな空気も霧散する。

「名前…」
 何とも言い難い顔だ。
 やっぱり気づいてなかったのだろう。
 名乗ってやっと気づいてくれた俺のフルネーム。予想通りの反応にラスボスのことなどどうでもよくなってしまった。
「気が付いた?」
「苗字だったんですね…」
 ついニヤけてしまったら上目遣いで睨まれた。
 うん、想定内の行動に、想定以上の可愛さだ。ラスボスの様子をこっそりと伺うが、思いの外好意的な表情だった。

「改めまして、紬結斗です」
 改めて名乗ってみる。
「辻崎光流です。
 ずっと名前だと思ってました」
 やっぱり不満そうだ。
「だよね。
 そう思ってわざと言わなかった」
「どうして?」
「その顔が見たかったから」
 正直に伝える。
 取り繕った表情ではなく、素の表情が見たかったのだ。
 作戦成功が嬉しくてついつい笑顔になってしまうのを止められない。

「光流、超拗ねた顔になってるよ」
 ラスボスも笑いを噛み殺している。
 きっと兄弟間では珍しくない表情なのだろう。
「まぁ、ここで話してるのも何だし中に入ろうか」
 そう言われてハッとする。
 光流に会えた事が嬉しくて話し込んでしまったが、ここはまだ駐車場だ。

 ラスボスに促されて歩き出したが、人間力の差を見せられたようで少し面白くなかった。
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