142 / 159
αとかΩとか運命とか…。
しおりを挟む
「さて、上部だけの会話はこのくらいでいいかな?」
フレンチのコースを一通り食べ終わり、デセールがサーブされると静流君が口を開く。
ちゃんとしたコースだったものの、僕の分だけは量を指定してくれてあったようで食べ切る事ができた。と安心していたところで急にだ。
込み入った話をしてサーブの邪魔をしないようにとの配慮からだろう。
デセールとコーヒーがサーブされてしまえば人の出入りもなくなる。
配慮と言えば聞こえはいいが、静流君のことだから〈作戦〉と言った方がいいかもしれない。
「本音で話してたつもりですけどね」
きっと想定内だったのだろう、紬さんもサラリと答える。
険悪になることはないものの、緊張感は走る。
「まずはじめに初歩的な確認だけど…αで間違いないですね?」
バースはとてもデリケートな問題だ。普通ならこういった席でこんなにも直接的に聞くものではないけれど、今回は致し方無いだろう。
僕だって薄々はそうではないかと思っていたし、静流君の事だから紬さんの身辺調査くらいしているはずだ。
そして、この場でわざわざ話すのは何か意図があってのことだろう。
「そうです。
光流君がΩだという事は初めて会った後で友人から知らされました。
ただ予想はしていましたがΩだから気になったわけではない、と自分では思っています」
「まぁ、あの日は抑制剤飲んでたしね。
紬さんも?」
「ですね。
元々フィールドワークに出る時には余計なことに巻き込まれないように抑制剤を服用してますので。あの日もあの後すぐに出発する予定でしたので服用した後でした」
淡々と進む会話。
「光流は気づいてた?」
デセールを食べながら話を聞いていたら急に話を振られた。聞かれるだろうと思っていたけれど、今日の静流君は直球だ。
「僕もあの時は気づいてなかったけど…途中からそうなんじゃないかとは思ってた。
何だろう、何がってわけではないんだろうけど…そうなんだろうなって」
漠然としすぎててどう伝えていいのかわからないけれど〈僕のα〉という想いが日に日に強くなっている事は誰に言えていない。
〈運命〉なんて信じてないし、現に今だって紬さんのフェロモンは正直感じられない。
それでも惹かれるこの思いは何と名付ければいいのだろう?
「フェロモン、今日は?」
静流君の言葉に僕は首を横に振る。
「あぁ、それなら抑制剤を飲んでますから」
当然のことのように紬さんが答える。
「フェロモンとか、そんな事ではなくて僕自身を見て欲しいと思ったので抑制剤を飲んできてます。光流君は…飲んでないよね?」
言われて気付いた。
そう言えば静流君から薬を飲むように言われなかったし、自分でもすっかり忘れていた。警戒心が無さすぎると思われないだろうか。
飲んでないと指摘するという事は、僕のフェロモンは紬さんに届いているのだろうか。もしもそうなら…少し恥ずかしい。αにフェロモンを意識される事がこんなに恥ずかしいと思うのは、相手が紬さんだからなのだろうか。
「今回、光流に抑制剤を飲むようにとはあえて言いませんでした。
光流は〈運命〉を嫌うので、もしもそうならば薬を飲んでいては見逃しかねないので」
何だか意地悪な言い方に聞こえる。
「運命なら抑制剤は関係ないのでは?」
紬さんは済ました顔で答える。
そう言えば父と母の時は父が抑制剤を飲んでも止められなかったと言っていたのではなかったか?となると僕たちは〈運命〉ではないのだろう。
「運命じゃないのがそんなに嬉しい?」
静流君に言われて自分が嬉しそうにしていることに気付いた。きっと笑顔になっていたのだろう、紬さんの顔も笑顔だ。
僕は何と答えればいいのかわからず無言で頷く。
僕の気持ちはちゃんと2人に届いていると確信できたから余計な言葉は必要ないと思ったのだ。
フレンチのコースを一通り食べ終わり、デセールがサーブされると静流君が口を開く。
ちゃんとしたコースだったものの、僕の分だけは量を指定してくれてあったようで食べ切る事ができた。と安心していたところで急にだ。
込み入った話をしてサーブの邪魔をしないようにとの配慮からだろう。
デセールとコーヒーがサーブされてしまえば人の出入りもなくなる。
配慮と言えば聞こえはいいが、静流君のことだから〈作戦〉と言った方がいいかもしれない。
「本音で話してたつもりですけどね」
きっと想定内だったのだろう、紬さんもサラリと答える。
険悪になることはないものの、緊張感は走る。
「まずはじめに初歩的な確認だけど…αで間違いないですね?」
バースはとてもデリケートな問題だ。普通ならこういった席でこんなにも直接的に聞くものではないけれど、今回は致し方無いだろう。
僕だって薄々はそうではないかと思っていたし、静流君の事だから紬さんの身辺調査くらいしているはずだ。
そして、この場でわざわざ話すのは何か意図があってのことだろう。
「そうです。
光流君がΩだという事は初めて会った後で友人から知らされました。
ただ予想はしていましたがΩだから気になったわけではない、と自分では思っています」
「まぁ、あの日は抑制剤飲んでたしね。
紬さんも?」
「ですね。
元々フィールドワークに出る時には余計なことに巻き込まれないように抑制剤を服用してますので。あの日もあの後すぐに出発する予定でしたので服用した後でした」
淡々と進む会話。
「光流は気づいてた?」
デセールを食べながら話を聞いていたら急に話を振られた。聞かれるだろうと思っていたけれど、今日の静流君は直球だ。
「僕もあの時は気づいてなかったけど…途中からそうなんじゃないかとは思ってた。
何だろう、何がってわけではないんだろうけど…そうなんだろうなって」
漠然としすぎててどう伝えていいのかわからないけれど〈僕のα〉という想いが日に日に強くなっている事は誰に言えていない。
〈運命〉なんて信じてないし、現に今だって紬さんのフェロモンは正直感じられない。
それでも惹かれるこの思いは何と名付ければいいのだろう?
「フェロモン、今日は?」
静流君の言葉に僕は首を横に振る。
「あぁ、それなら抑制剤を飲んでますから」
当然のことのように紬さんが答える。
「フェロモンとか、そんな事ではなくて僕自身を見て欲しいと思ったので抑制剤を飲んできてます。光流君は…飲んでないよね?」
言われて気付いた。
そう言えば静流君から薬を飲むように言われなかったし、自分でもすっかり忘れていた。警戒心が無さすぎると思われないだろうか。
飲んでないと指摘するという事は、僕のフェロモンは紬さんに届いているのだろうか。もしもそうなら…少し恥ずかしい。αにフェロモンを意識される事がこんなに恥ずかしいと思うのは、相手が紬さんだからなのだろうか。
「今回、光流に抑制剤を飲むようにとはあえて言いませんでした。
光流は〈運命〉を嫌うので、もしもそうならば薬を飲んでいては見逃しかねないので」
何だか意地悪な言い方に聞こえる。
「運命なら抑制剤は関係ないのでは?」
紬さんは済ました顔で答える。
そう言えば父と母の時は父が抑制剤を飲んでも止められなかったと言っていたのではなかったか?となると僕たちは〈運命〉ではないのだろう。
「運命じゃないのがそんなに嬉しい?」
静流君に言われて自分が嬉しそうにしていることに気付いた。きっと笑顔になっていたのだろう、紬さんの顔も笑顔だ。
僕は何と答えればいいのかわからず無言で頷く。
僕の気持ちはちゃんと2人に届いていると確信できたから余計な言葉は必要ないと思ったのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
267
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる