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2人だけのドライブ〈紬side〉

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 車に光流を乗せ、自分も運転席に乗り込む。
 SUVに乗ることなどないのだろう、ステップに足をかけるだけでオロオロしてしまい、その慣れない様子が愛おしい。
 それにしても、こんな風に大切な相手を乗せる日が来るのならもっと乗り心地の良い車を選んでおけば良かった…。

 乗り心地など全く気にせず、どこでもガンガン走れそうな、男の憧れを体現したかのような無骨な車。確かにどんな道でも冬の山道でさえも困ることはないけれど、街乗りには全く向いてない。
 普段から乗り心地の良い車に乗っている光流にはシートが硬過ぎるのではないかと心配になる。

「シート、硬くない?」
 心配で聞いてみるものの、光流は全く気にした様子もなく車外を見て〈高い!〉と嬉しそうにしている。
 まだ駐車場なのに、走り出したらどんなリアクションを見せてくれるのだろう。
 きっと光流の世界はそれほど広くない。
〈初めて〉が沢山あるのだろう。
 これから少しずつ光流の世界を広げていけるのだと思うとそれだけで楽しくなってしまう。
 まずはドライブにでも出かけよう。

「とりあえず少し走ろうか?」
 声をかけて車を出す。
 案の定、光流は外の風景を見て〈高い!〉
〈凄い!〉と興奮している。
 このままもっと喜ばせてしまおう。

 今まで散々走ってきた道だから何も言わず近くの道の駅に向かう。確かソフトクリームがあったはずだ。
 高速に乗ってサービスエリアに行くのも楽しいけど焦る必要はない。

「そう言えば紬さんのお家はどの辺なんですか?」
 どこに行くかは気にならないのかそんなことを聞いてくる。実を言えば俺の借りている家はここからそんなに遠くない。道の駅に比べれば遥かに近いけれど、いきなり家に行くのも下心があるように思われそうで、敢えて道の駅を選んだのだ。

「ここからそんなに遠くはないよ。
 フィールドワークから帰ったばかりで片付いてないから今度また招待するよ」
 うん、我ながら良い言い訳だ。
 嘘は言っていないし、今日はソフトクリームの気分なんだ。

「そうなんですね。
 作品とか、置いてあるんですか?」
「だね。
 借家だけど一軒家だから作品は一部屋にまとめてあるよ」
 俺の言葉に〈一軒家?!〉と可愛いリアクションを見せてくれる。
 何だ、この可愛い生き物は?!

 フェロモンを感じた時には2人きりになって大丈夫かと悩みましたが、心配はなさそうだ。
「そう。
 大学に行かずにフィールドワークばかり行ってるし、時間も不規則だから弟に悪影響与える前に家を出たんだ」
 俺の言葉に光流の顔が少し曇る。
 しまった、言葉が足りなかったようだ。

「別に不仲とかじゃないよ。
 俺がこの道に進んだことは応援してくれてるし、正直金銭的にはかなり親に甘えてる。
 ただ、弟がまだ中学生だから俺の学生生活が普通だと思っちゃうとね…」
 苦笑いをして見せると納得したようで、充にも笑顔が戻る。

「兄の影響って、大きいですもんね」
 …あの兄ならば確かにそうだろう。
 でも光流に対しては必要以上に良く見せてたんだろうな、と想像すると何だかおかしかった。
「静流さんみたいに立派な姿は見せられないけど、せめて変な姿は見せないようにしないとね」
「でも、自慢のお兄さんだと思いますよ?
 紬さんの作品は自慢したくなるし、会ってみて話してみて、きっと弟さんにとって自慢のお兄さんです。
 僕が静流君のことを自慢したいと思うみたいに、きっと弟さんも紬さんのこと自慢してると思いますよ」

 まだまだあの兄の足元にも及ばない事は自覚しているけれど、光流に言われるとやっぱり嬉しい。
「そうだと嬉しいな」
 素直にそう思った。
 年が離れているせいであまり一緒に過ごした覚えはないけれど、これからはもう少し気にかけるようにしよう。

 ドライブは順調だ。
 そろそろ道の駅も近づいてきている。
「ところで光流君、お腹具合は?」
 そう言えば光流が少食なことを失念していた。
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