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【side:伊織】強くないαのジレンマ。
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《今日から入院することになりました》
《このまま夏休みです》
そんなメッセージが入ったのは羽琉が早退した翌日のこと。
あの日、いつもと違う駐車場で羽琉を降ろしたと隆臣さんからメッセージが届いた時には政文とふたり、何が起こったのかと驚いたけれど、靴を履き替えようと向かった昇降口で見た光景で全てを理解した。
靴を履き替えようとしている今居に遅れて昇降口に入ってきた燈哉が声をかける。「羽琉」とか「休み」とか、何やら聞こえてくるけれど、漏れ聞こえる内容から羽琉が休みだから一緒に過ごせると言っているのだと予測する。
嬉しそうなふたりと隆臣さんからのメッセージ。燈哉が今居に寄り添っているのは羽琉だって知っていたけれど、羽琉は意識して見ないように、燈哉は羽琉に見せないようにと微妙な均衡を保つことで成り立っていた関係。
そして今日、羽琉はその光景を目にしてしまったのだろう。
正直、今まで目にしなかったことの方が驚きだけど、羽琉と燈哉の思惑に隆臣さんの気遣いが加われば不可能ではなかったはずだ。ほんの少しだけ時間を調整すれば認識することのなかった関係。
知っていても認識さえしなければ容認することのできた関係。
駐車場に迎えに行った羽琉は、ここ最近の中で1番調子が悪そうに見えた。
白く滑らかだった肌は青白く、唇の紅は褪せて見える。儚いといえば聞こえはいいけれど、不健康にしか見えない。
燈哉と今居のせいだと分かっているのに何もできないのはマーキングのせいもあるけれど、今朝はほとんど感じることはないから近づく事ができる。
「「羽琉、おはよう」」
政文とふたり、偶然にも重なった挨拶に「何で?」と困った顔を見せるけど、「隆臣さんから連絡もらった。ほら、鞄」と言いながら政文が羽琉の鞄を受け取る。
「ありがとう。
………おはよう」
お礼と挨拶をした羽琉は僕の口から出た名前で僕達がここに来た意味を理解したようで、少し困ったような顔を見せたあとで小さく笑う。久しぶりに見た笑顔が痛々しくて、今居に笑顔で話しかけていた燈哉を腹立たしく思う。
「隆臣さん、道間違えたって。
珍しいね」
「職務怠慢だ」
僕達の言葉に「今日はいつもより道が混んでたから」と当たり障りのない言葉を返し、「ごめんね、隆臣が呼び出して」と謝る。
「別にこれくらい何でもないよ?
何なら毎朝でもいいくらい」
「そうなると登校ルート変えた方が良くないか?」
「こっちの駐車場使うならそうだね」
「え、何でそうなってるの?」
僕と政文の会話に羽琉が焦った声を出すけれど、少し元気が出たように見えて安心する。
入学式の翌日、駐車場から羽琉を連れ去った燈哉がしたことは、羽琉は自分のモノだと見せ付けるには十分過ぎるものだった。
羽琉は人の目があれば燈哉が無茶なことはしないと思ったみたいだったけど、燈哉は燈哉で羽琉は自分のモノだと知らしめるために人の目を利用することにしたのだ。
前日、体育館で今居のことを抱きしめた同じ腕で羽琉を抱きしめ、その首筋に唇を這わす。いくらネックガードをしていても、いくら番候補だったとしても衆人環視の中でやっていいことじゃない。それなのに羽琉が拒否の姿勢を見せているにも関わらず、燈哉はその腕を緩めることなく、羽琉が正気を失うまで追い詰めた。
「燈哉、止めろっ!」
「羽琉、嫌がってるから」
ふたりの様子がおかしいことに気付き、僕達が駆け寄った時には羽琉は意識を失い抱き上げられたところだった。
「燈哉、お前何してんだよ」
「羽琉に触るな」
そんな風に威嚇しても飄々とした態度を崩すことのない燈哉は僕達を見て鼻で笑った。
「羽琉は俺と一緒にいるって言ってくれたよ?」
馬鹿にしたような口調が気に入らないけれど、意識を失った羽琉に確かめる術はない。
「今まで通り俺と過ごすって」
「それは無理矢理、」
「違うよ?
羽琉の意思だ」
「なら何でそんな状態なんだ?」
あまりにも淡々と答える燈哉に羽琉の現状を訴えてみても「そろそろ教室に戻らないと不味くないか?」と答えをはぐらかされてしまう。
「羽琉は保健室に連れて行くから担任に言っておいてくれ。
あ、悪いけど俺の鞄、持っていっておいてくれる?」
燈哉はきっと、自分よりも劣る僕のことを馬鹿にしているのだろう。羽琉と仲良くしているのも気に入らないのか、政文にではなく僕に対して命令したのはその強さを見せつけるためだったのかもしれない。
単純に同じクラスだったからと好意的に思うには向けられた威嚇が強すぎる。羽琉の願いとはいえ自分の居ない間、僕達が、僕が一緒に過ごしていた時間を許されていたわけではなかったのだろう。
「羽琉は今まで通り俺と過ごすって言ったし、保健室に連れて行くのはいつもの俺の役目だから、分かるよな?」
政文は燈哉の威嚇に全く動じていなかったけれど、僕はもう限界だった。
「あとで羽琉に確認するから」
負け惜しみのようにそう言うことしかできなかった。
「鞄、頼むな」
そう言って背を向けた燈哉に何も言えず、見送る事しかできなかった僕に「大丈夫か?」と気遣った政文は燈哉の鞄を手にすると「行くか」と言って歩き出す。それ以上何も言わないのは同じαとしての矜持を傷付けないためだろう。同じように威嚇を浴びせられても平気な政文と、ギリギリで耐えていた僕との違いを見て見ぬ振りをしたのはきっと、政文の優しさ。
「羽琉、大丈夫かな」
気力を振り絞り、何でもないふりをして政文を追いかける。もう少し早く羽琉の異変に気付いていたら、もっと早く声をかけていたら今この場所に羽琉も一緒にいたかもしれない。
羽琉が燈哉と中庭に向かった時に止めていたら、止めないにしてもすぐ近くにいたら、そんな風に思いもするけれど、羽琉が望んだことだから仕方ないと自分に言い聞かせる。だけど、それを肯定して欲しくて口にしたのは僕の弱さと狡さ。
「さあ、でも羽琉が選んで羽琉が動いた結果だから」
大丈夫とは言ってくれないし、羽琉の責任だと言ったけれど、政文だって羽琉のことが好きなはずなのに僕ほどは焦っていないように見える。
「政文は心配じゃないの?」
「羽琉がそうしたいなら仕方ないんじゃないか?」
「でも、燈哉が無理矢理」
「無理矢理だったとしてもこの状況を作ったのは羽琉だよ。
それにしても朝から災難だったな、燈哉も大人気なくないか?」
「それは羽琉が大切な相手だから、じゃないのかな?
僕達が羽琉の近くにいるの、許してたけど納得はしてなかったんだよ、きっと」
「そこは燈哉の味方なんだな」
政文はそう言って小さく笑う。羽琉を大切に思うならもっと燈哉を攻めるべきなのだろうけれど、αであるが故に理解できてしまう感情。政文だってきっと同じだろう。
「でも、そんなに羽琉のことが大切ならなんで今居のことを、あんなに気にするんだろう?」
何気ないことのように言ってみるけれど、昨日も今朝も何度も何度も考えたことだった。
燈哉は今居の何に惹かれたのか。
今居は燈哉のことをどう思っているのか。
羽琉はそれでも燈哉を選ぶのか。
政文や僕を選ぶと言う選択肢はあるのか。
「庇護したい相手と大切にしたい相手が違うってこともあるんじゃないか?」
「それ、何が違うの?」
「単純にαとして弱いΩを守りたいっていう庇護欲と、性差も何も関係なく大切にしたいと思う気持ちと。
燈哉にとっての羽琉は庇護欲を満たすことのできる相手で、今居のことは羽琉に対する庇護欲とは違う何かがあるんじゃないのか?」
そんな風に言われても僕には理解できなかった。
羽琉も今居もΩだけど、羽琉に対しては明確に【守りたい】【守らなければいけない】という気持ちを持てるけど、今居に対してはΩだと分かっていてもそんな気持ちは微塵も思わない。
Ωと認識はしているから目の前で今居が危険な目に遭っていれば助けようと思うだろうし、きっと助けるために動くのだろうけれど、何もないフラットな状態で【庇護する対象】として見ることができるかと考えてそれは無理だと結論を出す。
それはもちろん、外見的な要素も含むけれど、全てのΩに対して庇護欲を駆り立てられるわけではないのだと再認識しただけだった。
「でもさ、今居ってΩっぽくないよね。
αって言われたらそうかなって思うし」
「確かに、羽琉とは正反対だな」
「燈哉はどこに惹かれたんだろう?」
「まあ、人の好みはそれぞれだし」
僕には燈哉の気持ちが全くわからないけれど、政文はそうではないらしい。
「とりあえず、伊織は伝言と鞄よろしくな」
話しながら歩くうちに教室まで来ていたようで燈哉の鞄を渡される。
「そうだった、」
仕方なく鞄を受け取ると「燈哉と伊織は考え方そのものが違うんだから悩みすぎるなよ」と言って笑う。
僕を心配して出た言葉にちゃんと返事をするべきなのだけど、「ああ」とか「ん、」とか曖昧な返事しかできなかったのは政文の言葉が納得できなかったから。
同じαであっても考え方が同じなわけではない。αだからといってお互いを理解できるわけではないのだから仕方のない事だけど、考えれば考えるほど溜め息が出てしまう。
「また昼に、いつもの場所で」
そう言って自分の教室に戻る政文に「うん」と返事をするのが精一杯だった。
《このまま夏休みです》
そんなメッセージが入ったのは羽琉が早退した翌日のこと。
あの日、いつもと違う駐車場で羽琉を降ろしたと隆臣さんからメッセージが届いた時には政文とふたり、何が起こったのかと驚いたけれど、靴を履き替えようと向かった昇降口で見た光景で全てを理解した。
靴を履き替えようとしている今居に遅れて昇降口に入ってきた燈哉が声をかける。「羽琉」とか「休み」とか、何やら聞こえてくるけれど、漏れ聞こえる内容から羽琉が休みだから一緒に過ごせると言っているのだと予測する。
嬉しそうなふたりと隆臣さんからのメッセージ。燈哉が今居に寄り添っているのは羽琉だって知っていたけれど、羽琉は意識して見ないように、燈哉は羽琉に見せないようにと微妙な均衡を保つことで成り立っていた関係。
そして今日、羽琉はその光景を目にしてしまったのだろう。
正直、今まで目にしなかったことの方が驚きだけど、羽琉と燈哉の思惑に隆臣さんの気遣いが加われば不可能ではなかったはずだ。ほんの少しだけ時間を調整すれば認識することのなかった関係。
知っていても認識さえしなければ容認することのできた関係。
駐車場に迎えに行った羽琉は、ここ最近の中で1番調子が悪そうに見えた。
白く滑らかだった肌は青白く、唇の紅は褪せて見える。儚いといえば聞こえはいいけれど、不健康にしか見えない。
燈哉と今居のせいだと分かっているのに何もできないのはマーキングのせいもあるけれど、今朝はほとんど感じることはないから近づく事ができる。
「「羽琉、おはよう」」
政文とふたり、偶然にも重なった挨拶に「何で?」と困った顔を見せるけど、「隆臣さんから連絡もらった。ほら、鞄」と言いながら政文が羽琉の鞄を受け取る。
「ありがとう。
………おはよう」
お礼と挨拶をした羽琉は僕の口から出た名前で僕達がここに来た意味を理解したようで、少し困ったような顔を見せたあとで小さく笑う。久しぶりに見た笑顔が痛々しくて、今居に笑顔で話しかけていた燈哉を腹立たしく思う。
「隆臣さん、道間違えたって。
珍しいね」
「職務怠慢だ」
僕達の言葉に「今日はいつもより道が混んでたから」と当たり障りのない言葉を返し、「ごめんね、隆臣が呼び出して」と謝る。
「別にこれくらい何でもないよ?
何なら毎朝でもいいくらい」
「そうなると登校ルート変えた方が良くないか?」
「こっちの駐車場使うならそうだね」
「え、何でそうなってるの?」
僕と政文の会話に羽琉が焦った声を出すけれど、少し元気が出たように見えて安心する。
入学式の翌日、駐車場から羽琉を連れ去った燈哉がしたことは、羽琉は自分のモノだと見せ付けるには十分過ぎるものだった。
羽琉は人の目があれば燈哉が無茶なことはしないと思ったみたいだったけど、燈哉は燈哉で羽琉は自分のモノだと知らしめるために人の目を利用することにしたのだ。
前日、体育館で今居のことを抱きしめた同じ腕で羽琉を抱きしめ、その首筋に唇を這わす。いくらネックガードをしていても、いくら番候補だったとしても衆人環視の中でやっていいことじゃない。それなのに羽琉が拒否の姿勢を見せているにも関わらず、燈哉はその腕を緩めることなく、羽琉が正気を失うまで追い詰めた。
「燈哉、止めろっ!」
「羽琉、嫌がってるから」
ふたりの様子がおかしいことに気付き、僕達が駆け寄った時には羽琉は意識を失い抱き上げられたところだった。
「燈哉、お前何してんだよ」
「羽琉に触るな」
そんな風に威嚇しても飄々とした態度を崩すことのない燈哉は僕達を見て鼻で笑った。
「羽琉は俺と一緒にいるって言ってくれたよ?」
馬鹿にしたような口調が気に入らないけれど、意識を失った羽琉に確かめる術はない。
「今まで通り俺と過ごすって」
「それは無理矢理、」
「違うよ?
羽琉の意思だ」
「なら何でそんな状態なんだ?」
あまりにも淡々と答える燈哉に羽琉の現状を訴えてみても「そろそろ教室に戻らないと不味くないか?」と答えをはぐらかされてしまう。
「羽琉は保健室に連れて行くから担任に言っておいてくれ。
あ、悪いけど俺の鞄、持っていっておいてくれる?」
燈哉はきっと、自分よりも劣る僕のことを馬鹿にしているのだろう。羽琉と仲良くしているのも気に入らないのか、政文にではなく僕に対して命令したのはその強さを見せつけるためだったのかもしれない。
単純に同じクラスだったからと好意的に思うには向けられた威嚇が強すぎる。羽琉の願いとはいえ自分の居ない間、僕達が、僕が一緒に過ごしていた時間を許されていたわけではなかったのだろう。
「羽琉は今まで通り俺と過ごすって言ったし、保健室に連れて行くのはいつもの俺の役目だから、分かるよな?」
政文は燈哉の威嚇に全く動じていなかったけれど、僕はもう限界だった。
「あとで羽琉に確認するから」
負け惜しみのようにそう言うことしかできなかった。
「鞄、頼むな」
そう言って背を向けた燈哉に何も言えず、見送る事しかできなかった僕に「大丈夫か?」と気遣った政文は燈哉の鞄を手にすると「行くか」と言って歩き出す。それ以上何も言わないのは同じαとしての矜持を傷付けないためだろう。同じように威嚇を浴びせられても平気な政文と、ギリギリで耐えていた僕との違いを見て見ぬ振りをしたのはきっと、政文の優しさ。
「羽琉、大丈夫かな」
気力を振り絞り、何でもないふりをして政文を追いかける。もう少し早く羽琉の異変に気付いていたら、もっと早く声をかけていたら今この場所に羽琉も一緒にいたかもしれない。
羽琉が燈哉と中庭に向かった時に止めていたら、止めないにしてもすぐ近くにいたら、そんな風に思いもするけれど、羽琉が望んだことだから仕方ないと自分に言い聞かせる。だけど、それを肯定して欲しくて口にしたのは僕の弱さと狡さ。
「さあ、でも羽琉が選んで羽琉が動いた結果だから」
大丈夫とは言ってくれないし、羽琉の責任だと言ったけれど、政文だって羽琉のことが好きなはずなのに僕ほどは焦っていないように見える。
「政文は心配じゃないの?」
「羽琉がそうしたいなら仕方ないんじゃないか?」
「でも、燈哉が無理矢理」
「無理矢理だったとしてもこの状況を作ったのは羽琉だよ。
それにしても朝から災難だったな、燈哉も大人気なくないか?」
「それは羽琉が大切な相手だから、じゃないのかな?
僕達が羽琉の近くにいるの、許してたけど納得はしてなかったんだよ、きっと」
「そこは燈哉の味方なんだな」
政文はそう言って小さく笑う。羽琉を大切に思うならもっと燈哉を攻めるべきなのだろうけれど、αであるが故に理解できてしまう感情。政文だってきっと同じだろう。
「でも、そんなに羽琉のことが大切ならなんで今居のことを、あんなに気にするんだろう?」
何気ないことのように言ってみるけれど、昨日も今朝も何度も何度も考えたことだった。
燈哉は今居の何に惹かれたのか。
今居は燈哉のことをどう思っているのか。
羽琉はそれでも燈哉を選ぶのか。
政文や僕を選ぶと言う選択肢はあるのか。
「庇護したい相手と大切にしたい相手が違うってこともあるんじゃないか?」
「それ、何が違うの?」
「単純にαとして弱いΩを守りたいっていう庇護欲と、性差も何も関係なく大切にしたいと思う気持ちと。
燈哉にとっての羽琉は庇護欲を満たすことのできる相手で、今居のことは羽琉に対する庇護欲とは違う何かがあるんじゃないのか?」
そんな風に言われても僕には理解できなかった。
羽琉も今居もΩだけど、羽琉に対しては明確に【守りたい】【守らなければいけない】という気持ちを持てるけど、今居に対してはΩだと分かっていてもそんな気持ちは微塵も思わない。
Ωと認識はしているから目の前で今居が危険な目に遭っていれば助けようと思うだろうし、きっと助けるために動くのだろうけれど、何もないフラットな状態で【庇護する対象】として見ることができるかと考えてそれは無理だと結論を出す。
それはもちろん、外見的な要素も含むけれど、全てのΩに対して庇護欲を駆り立てられるわけではないのだと再認識しただけだった。
「でもさ、今居ってΩっぽくないよね。
αって言われたらそうかなって思うし」
「確かに、羽琉とは正反対だな」
「燈哉はどこに惹かれたんだろう?」
「まあ、人の好みはそれぞれだし」
僕には燈哉の気持ちが全くわからないけれど、政文はそうではないらしい。
「とりあえず、伊織は伝言と鞄よろしくな」
話しながら歩くうちに教室まで来ていたようで燈哉の鞄を渡される。
「そうだった、」
仕方なく鞄を受け取ると「燈哉と伊織は考え方そのものが違うんだから悩みすぎるなよ」と言って笑う。
僕を心配して出た言葉にちゃんと返事をするべきなのだけど、「ああ」とか「ん、」とか曖昧な返事しかできなかったのは政文の言葉が納得できなかったから。
同じαであっても考え方が同じなわけではない。αだからといってお互いを理解できるわけではないのだから仕方のない事だけど、考えれば考えるほど溜め息が出てしまう。
「また昼に、いつもの場所で」
そう言って自分の教室に戻る政文に「うん」と返事をするのが精一杯だった。
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