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羽琉 自覚する想い。
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隆臣と話し、ひとりになった部屋で燈哉と出会ってからのことを改めて思い返してみる。初めて見た燈哉は誰よりも元気に園庭を走り回っていたことを思い出し、その姿を思い浮かべれば自然に笑みが溢れてしまう。
燈哉を初めて見た時の気持ちは憧れだった。
自分もあんなふうに走り回りたい。
自分もあんなふうに遊びたい。
何かに諦めて膝を抱えるのではなく、何かに諦めて「Ωだから仕方ない」と呟くのではなく、他の子と同じように過ごしたい。
それが無理なことはちゃんと理解していた。
無理をすると発熱する身体。
少し走っただけで息切れする身体。
誰よりも早く産まれていたはずなのに誰よりも小さい身体。
だけど一緒に走る自分を夢想することは自由だ。
一緒に走れば自分も早く走れるかもしれない。
一緒に遊べば自分だってどんな遊具も使いこなせるかもしれない。
一緒に過ごせば自分だって元気になれるかもしれない。
そんなふうに思っていた相手が話しかけてくれたのだから嬉しくないわけがない。声をかけられ、名前を教えてもらい言葉を交わす。僕が燈哉のことを見ていたように、燈哉も僕のことを見ていたと知った時には嬉しかった。
遊びに誘われたものの、身体が弱くて遊ぶことは難しいと言えば隣に座り、一緒に時間を過ごしてくれた。
「Ωだからしかたないんだよ」
そう言っても過剰な反応をするわけでもなく姿を見かければ寄り添ってくれる、そんな関係。それでもΩとしての本能なのか、燈哉が隣にいるだけで安心できたし安全だと感じていた。
その頃、クラスの子達は『羽琉君は身体が弱いから疲れさせたりしないように』と言われていたようで、活発な子は僕を疲れさせないためそっと見守るというのが暗黙の了解だったらしく、そんな事情を知らない僕は遠巻きにされる事に淋しさを感じていた。
僕のα。
そんなふうに思ったのは燈哉がいつも側にいてくれたから。
僕だけのα。
だって、他の子と遊んでいても僕を見つけると僕に、僕だけに寄り添ってくれたから。
成長と共にその思いを昇華させ、一緒にいるためには僕も燈哉に寄り添うべきだったのに、求めてばかりだった僕は燈哉に対して傲慢だったのだと今になって気付く。
人の恋愛に興味は無いけれど、一番身近なふたり、伊織と政文を見ているとその関係は僕たちとは違って見えた。
燈哉とは【番候補】という名前が付けられているだけで恋愛関係を見据えた付き合いだと思っていたから、ふたりの距離感と自分達の距離感の違いに不満を抱いたこともある。
感情が出やすい伊織と感情を読み取りにくい政文だけど、伊織に対してだけは政文の態度は違うように見えた。伊織は気遣われ、守られていることに気付いていたかどうかは分からないけれど、政文の視線の先には常に伊織がいたし、伊織に近付こうとするΩだけでなく、αでもいいのなら自分でもいいんじゃないかと近付こうとするαや、Ωが嫌いでもβなら可能性があるのではないかと近付こうとするβを制していたのも僕は知っている。
羨ましかった。
僕が燈哉に近寄るΩを遠ざけても何かを言われたことはないし、僕に声をかけるαを放っておいても何も言わない。気付いていないなんてことはないはずなのに、それに対して何も言わないことに不満を感じていた。
常に燈哉といるせいで何かあった時には守ってもらえるけれど、僕の願いはもっと積極的に僕を庇護して、僕は自分のものだともっともっと周りに知らしめることだったのだも気付いてしまう。
誰が見ても分かるくらいに、見なくてもその匂いだけで誰のものなのかを理解するくらいに燈哉だけのものにして欲しかった。「その時が来たら」なんて、そんな悠長なことを言ってないで僕が燈哉のΩであることを分かるくらいに支配して欲しかった。
そう、僕が主導権を握り、僕が支配するのではなくて燈哉が主導権を握り、僕のことを支配というなの庇護で束縛して欲しかったんだ。
今現在、マーキングすることで僕が燈哉の庇護下にあることを示しているけれど、それは彼の存在が有るから。自分のΩだった僕を他のαに盗られてしまうと【番候補】としては不味いというだけで、【番候補】としての役割は果たしていることを示すためだけにしただけの行為。
彼の存在のない時にはしなかったマーキング方。
僕とはしてくれなかった体液の交換。
あのまま僕にヒートが来たら燈哉は僕のことを番にしてくれたのだろうか。
もしも車の中で初めてを迎えたら噛んでもらえたのだろうか。
それとも、ただ熱を鎮めるためだけに義務的に抱かれただけなのだろうか。
その時が来たら【番】にしてくれると思っていた燈哉の言葉だけれど、その時になったら熱を鎮めるために身体を重ねるという意味だったのかもしれない。
自分の庇護したΩの初めては自分が与えられるべきだという支配欲だったのかもしれない。
隆臣に言われた通り話をしないまま終わらせることはできない。その話がどんな話かなんて僕には分からないけれど、それでも聞かなくてはいけないことだって分かってる。
『涼夏と番になった』
『【番候補】という関係を解消してほしい』
そんなネガティヴな言葉ばかりが思い浮かぶ。
今まで燈哉にしてきてことを考えればそんな言葉を言われても受け入れるしかないのかもしれないけれど、それでも受け入れたくないと思ってしまう。
そんなふうに言われても縋り付いて、番にして欲しいと願ってしまうかもしれない。
燈哉の匂いがわからなくても、燈哉の香りを纏うことができなくても、それでも噛んでもらえれば【番】でいることはできるのだから。
「今更、馬鹿みたい」
もっと早く気付くことができていたら、もっと早くヒートが来ていたら。後悔ばかりで先のことを考えることがでず、過去ばかり振り返ってしまい、未来を描くことができない。
燈哉と話す覚悟を決めないといけないのに逃げたくなる気持ちを抑えることができず、誰かと話したいのに話す相手もいない。今になって本音で話せる相手がいないことに気付き、自分の行いを後悔する。
燈哉しか要らないと思っていた。
燈哉さえいてくれればいいと思っていた。
だけど、燈哉がいなくなってしまったら僕は独りになってしまうのだと、こんな状況になってやっと気付く。
「涼夏はすぐに友達ができるから、か」
以前、燈哉が言った言葉を思い出す。
校内では僕に寄り添うと言った燈哉は、遠回しに僕を傷付けたことに気付いていたのだろうか。
燈哉がいないと何もできない、燈哉がいないと何もしない。
燈哉しか友人のいない僕を揶揄するような言葉。
連絡先を知っている相手なら燈哉以外にもいるけれど、連絡を取りたいと思う相手は燈哉だけだし、連絡を取り合うほど仲の良い相手はいない。
伊織と政文の連絡先は当然知っているけれど、燈哉のことを相談したいと思うこともない。
伊織は燈哉をよく思っていない節が有るし、政文は公平過ぎて僕の不満を受け止めてくれはしないだろう。
「燈哉だけいてくれたらいいって、燈哉だけは僕のそばにいてくれるって、そう思ってたのにな、」
隆臣は僕が幸せになるまで見守ってくれると言ったけれど、燈哉のいない僕が幸せになれるのかと不安になる。
「彼だってΩなのに、」
いつもなら【Ωだから仕方ない】と飲み込んできたのに彼の存在がそれを許してくれない。
Ωだから仕方ないと諦めていたことを諦めることができない。
Ωだから仕方ない、この言葉がもう僕の逃げ道にはならないことに気付いてしまったから。
「燈哉を盗られたくない」
口にすれば明確になるこの気持ちを今更だと思いながらも今更でも伝えたくて、それでも何を言われるのかが分からず会うことを決断することができない。
「燈哉、」
名前を呼ぶことしかできないことがもどかしかった。
燈哉を初めて見た時の気持ちは憧れだった。
自分もあんなふうに走り回りたい。
自分もあんなふうに遊びたい。
何かに諦めて膝を抱えるのではなく、何かに諦めて「Ωだから仕方ない」と呟くのではなく、他の子と同じように過ごしたい。
それが無理なことはちゃんと理解していた。
無理をすると発熱する身体。
少し走っただけで息切れする身体。
誰よりも早く産まれていたはずなのに誰よりも小さい身体。
だけど一緒に走る自分を夢想することは自由だ。
一緒に走れば自分も早く走れるかもしれない。
一緒に遊べば自分だってどんな遊具も使いこなせるかもしれない。
一緒に過ごせば自分だって元気になれるかもしれない。
そんなふうに思っていた相手が話しかけてくれたのだから嬉しくないわけがない。声をかけられ、名前を教えてもらい言葉を交わす。僕が燈哉のことを見ていたように、燈哉も僕のことを見ていたと知った時には嬉しかった。
遊びに誘われたものの、身体が弱くて遊ぶことは難しいと言えば隣に座り、一緒に時間を過ごしてくれた。
「Ωだからしかたないんだよ」
そう言っても過剰な反応をするわけでもなく姿を見かければ寄り添ってくれる、そんな関係。それでもΩとしての本能なのか、燈哉が隣にいるだけで安心できたし安全だと感じていた。
その頃、クラスの子達は『羽琉君は身体が弱いから疲れさせたりしないように』と言われていたようで、活発な子は僕を疲れさせないためそっと見守るというのが暗黙の了解だったらしく、そんな事情を知らない僕は遠巻きにされる事に淋しさを感じていた。
僕のα。
そんなふうに思ったのは燈哉がいつも側にいてくれたから。
僕だけのα。
だって、他の子と遊んでいても僕を見つけると僕に、僕だけに寄り添ってくれたから。
成長と共にその思いを昇華させ、一緒にいるためには僕も燈哉に寄り添うべきだったのに、求めてばかりだった僕は燈哉に対して傲慢だったのだと今になって気付く。
人の恋愛に興味は無いけれど、一番身近なふたり、伊織と政文を見ているとその関係は僕たちとは違って見えた。
燈哉とは【番候補】という名前が付けられているだけで恋愛関係を見据えた付き合いだと思っていたから、ふたりの距離感と自分達の距離感の違いに不満を抱いたこともある。
感情が出やすい伊織と感情を読み取りにくい政文だけど、伊織に対してだけは政文の態度は違うように見えた。伊織は気遣われ、守られていることに気付いていたかどうかは分からないけれど、政文の視線の先には常に伊織がいたし、伊織に近付こうとするΩだけでなく、αでもいいのなら自分でもいいんじゃないかと近付こうとするαや、Ωが嫌いでもβなら可能性があるのではないかと近付こうとするβを制していたのも僕は知っている。
羨ましかった。
僕が燈哉に近寄るΩを遠ざけても何かを言われたことはないし、僕に声をかけるαを放っておいても何も言わない。気付いていないなんてことはないはずなのに、それに対して何も言わないことに不満を感じていた。
常に燈哉といるせいで何かあった時には守ってもらえるけれど、僕の願いはもっと積極的に僕を庇護して、僕は自分のものだともっともっと周りに知らしめることだったのだも気付いてしまう。
誰が見ても分かるくらいに、見なくてもその匂いだけで誰のものなのかを理解するくらいに燈哉だけのものにして欲しかった。「その時が来たら」なんて、そんな悠長なことを言ってないで僕が燈哉のΩであることを分かるくらいに支配して欲しかった。
そう、僕が主導権を握り、僕が支配するのではなくて燈哉が主導権を握り、僕のことを支配というなの庇護で束縛して欲しかったんだ。
今現在、マーキングすることで僕が燈哉の庇護下にあることを示しているけれど、それは彼の存在が有るから。自分のΩだった僕を他のαに盗られてしまうと【番候補】としては不味いというだけで、【番候補】としての役割は果たしていることを示すためだけにしただけの行為。
彼の存在のない時にはしなかったマーキング方。
僕とはしてくれなかった体液の交換。
あのまま僕にヒートが来たら燈哉は僕のことを番にしてくれたのだろうか。
もしも車の中で初めてを迎えたら噛んでもらえたのだろうか。
それとも、ただ熱を鎮めるためだけに義務的に抱かれただけなのだろうか。
その時が来たら【番】にしてくれると思っていた燈哉の言葉だけれど、その時になったら熱を鎮めるために身体を重ねるという意味だったのかもしれない。
自分の庇護したΩの初めては自分が与えられるべきだという支配欲だったのかもしれない。
隆臣に言われた通り話をしないまま終わらせることはできない。その話がどんな話かなんて僕には分からないけれど、それでも聞かなくてはいけないことだって分かってる。
『涼夏と番になった』
『【番候補】という関係を解消してほしい』
そんなネガティヴな言葉ばかりが思い浮かぶ。
今まで燈哉にしてきてことを考えればそんな言葉を言われても受け入れるしかないのかもしれないけれど、それでも受け入れたくないと思ってしまう。
そんなふうに言われても縋り付いて、番にして欲しいと願ってしまうかもしれない。
燈哉の匂いがわからなくても、燈哉の香りを纏うことができなくても、それでも噛んでもらえれば【番】でいることはできるのだから。
「今更、馬鹿みたい」
もっと早く気付くことができていたら、もっと早くヒートが来ていたら。後悔ばかりで先のことを考えることがでず、過去ばかり振り返ってしまい、未来を描くことができない。
燈哉と話す覚悟を決めないといけないのに逃げたくなる気持ちを抑えることができず、誰かと話したいのに話す相手もいない。今になって本音で話せる相手がいないことに気付き、自分の行いを後悔する。
燈哉しか要らないと思っていた。
燈哉さえいてくれればいいと思っていた。
だけど、燈哉がいなくなってしまったら僕は独りになってしまうのだと、こんな状況になってやっと気付く。
「涼夏はすぐに友達ができるから、か」
以前、燈哉が言った言葉を思い出す。
校内では僕に寄り添うと言った燈哉は、遠回しに僕を傷付けたことに気付いていたのだろうか。
燈哉がいないと何もできない、燈哉がいないと何もしない。
燈哉しか友人のいない僕を揶揄するような言葉。
連絡先を知っている相手なら燈哉以外にもいるけれど、連絡を取りたいと思う相手は燈哉だけだし、連絡を取り合うほど仲の良い相手はいない。
伊織と政文の連絡先は当然知っているけれど、燈哉のことを相談したいと思うこともない。
伊織は燈哉をよく思っていない節が有るし、政文は公平過ぎて僕の不満を受け止めてくれはしないだろう。
「燈哉だけいてくれたらいいって、燈哉だけは僕のそばにいてくれるって、そう思ってたのにな、」
隆臣は僕が幸せになるまで見守ってくれると言ったけれど、燈哉のいない僕が幸せになれるのかと不安になる。
「彼だってΩなのに、」
いつもなら【Ωだから仕方ない】と飲み込んできたのに彼の存在がそれを許してくれない。
Ωだから仕方ないと諦めていたことを諦めることができない。
Ωだから仕方ない、この言葉がもう僕の逃げ道にはならないことに気付いてしまったから。
「燈哉を盗られたくない」
口にすれば明確になるこの気持ちを今更だと思いながらも今更でも伝えたくて、それでも何を言われるのかが分からず会うことを決断することができない。
「燈哉、」
名前を呼ぶことしかできないことがもどかしかった。
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