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紗羅
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貴哉からきたメッセージを再確認してほくそ笑む。紗凪は今、あの部屋に独りでいるのだろう。
私と貴哉が何度も愛し合ったあの部屋に独り残された紗凪は今頃何を考えているのだろう、そんなことを考えながら隣で眠る家族を見て満足感を覚える。
私が与えられるはずだったモノを奪い続けた紗凪から大切な者を奪ったことに悦びを感じ、満たされた自分と比べると「可哀そうに」と言葉が溢れるけれど、きっと言葉とは裏腹に今の私は満面の笑みを浮かべているはずだ。
紗柚のことは愛してる。
紗凪と似ていると指摘されるのは面白くないけれど、それでも汐勿の跡を取りとなり、汐勿の跡取りを産むという私の望みを叶えてくれた大切なアイテムだから。
夫のことは…愛してるとはいえないけれど、大切には思ってる。
ただ、真面目で、優しくて、私のことも紗柚のことも大切にしてくれる彼に対して何かが物足りないと思ってしまう。
家のことだって育児にだって積極的で、私が諸々の用事で留守にしても頑張っておいでと応援してくれるような理想的な夫。
だけど、真面目すぎる彼では私を満たすことはできなくて…。
紗柚がお腹に宿ってからは当然だけど行為は無かったし、産まれてからもふたり目は望んでいないからと確実に避妊できる方法を考えようと提案した。
真面目すぎる彼との行為は私を満たしてはくれないけれど、それでも私と行為するための方法を模索してくれれば身体を重ねてもいいとは思えるくらいの大切さ。だけど彼は確実な避妊方法なんて無いのだからと私との行為を諦めてしまった。
もしかしたら私以外に想う人がいるのかもしれない。そんなことを考えながら彼の様子を見ていても怪しいところは何も無い。毎日決まった時間に実家に向かい毎日同じ時間に帰宅するし、昼間に会う相手といえば取引先の人だけ。
怪しむべき所は何もなくて、私に魅力がないのかと腹立たしく思ったりもした。
「ねえ、私って魅力ないのかな?」
思わずそんなことを聞いてしまった時に彼が言ってくれた言葉に、私は頷くことしかできなかった。
「あのね、確実な避妊方法なんて無いの。
可能性が高まるのはパイプカットとか、避妊リングとか、あとは薬飲むとかかな?どの方法でも多かれ少なかれリスクはあるんだから紗羅ちゃんの身体に負担をかけたくないし、僕の身体に傷を付けるのも納得できない。
ふたり目は考えてないならしなくてもいいんじゃない?
僕は、今の生活に満足してるよ」
どこまで本気でそう言っているのかは分からないけれど、私の気持ちと私の身体を尊重した物言いに対して何も言うことはできなかったし、ここまで言っておいて今更したいだなんて言えなかった。
紗凪はきっと、貴哉に抱かれているのだろう。不定期に送られてくる写真に映る紗凪の笑顔は時には無邪気で、時には艶めいて、そんな紗凪を愛おしそうに見る貴哉は私を苛立たせた。
ふたりが出会ったのは偶然だったのかもしれない。だけど、2人の関係を隠しているのは故意だろう。
何もなければ告げることのできる出来事を敢えて隠すのは、告げることのできない関係だから。
満たすことのできない欲望を抑えたままの私と違い、紗凪は貴哉と身体を重ねているのだろう。
最後に貴哉と身体を重ねたあの日のことを思い出し、あんなふうに抱かれてしまったせいで夫との行為で満足できなかったのだと逆恨みめいたことを考える。
貴哉と会えば当然だけど、身体を重ねることになるだろう。紗柚を産んでからは夫と触れ合うことのなかったこの身体は、貴哉を受け入れることができるのだろうか。貴哉は私の身体で満足できるのだろうか。
満たされない欲望を解消するためにする自慰はたいして気持ちいいとは思えず、ただ虚しいだけなのにそれでも止めることができない。あれだけのことを提案しておいて、あの答えをもらってしまったら今更したいだなんて言うこともできない。
私がこんなにも虚しい思いをしているのに満たされた笑顔を見せる紗凪のことを、改めて憎らしいと思ってしまう。
その場所は私のモノだったはずなのに。
その身体も、その愛も全てが私のモノだったはずなのに。
それなのにまた私から奪った紗凪を許す気は無い。もともと貴哉は私のモノだったのだ。
だから貴哉との時間を奪われた私の気持ちを思い知り、自分の罰と向き合いながら世界の終わりを迎えればいいんだ。
「可哀そうに、」
貴哉のいないあの部屋で独りで過ごす紗凪を思い浮かべ、笑顔になったことを自覚しながらそんな言葉を呟く。
「紗羅ちゃん、まだ起きてるの?」
声が聞こえたのか夫が眠そうな声で問いかける。日付はとっくに変わっていた。
「もう寝るところ。
おやすみなさい」
「おやすみ」
今ここにある幸せと、手放した幸せ。
天秤にかけたらどちらの想いに傾くのだろう。
そんなことを考えながら、独りで過ごすふたりのことを考えながら目を瞑る。
貴哉も紗凪も、今夜は孤独と過ごすのだろう、きっと。
私と貴哉が何度も愛し合ったあの部屋に独り残された紗凪は今頃何を考えているのだろう、そんなことを考えながら隣で眠る家族を見て満足感を覚える。
私が与えられるはずだったモノを奪い続けた紗凪から大切な者を奪ったことに悦びを感じ、満たされた自分と比べると「可哀そうに」と言葉が溢れるけれど、きっと言葉とは裏腹に今の私は満面の笑みを浮かべているはずだ。
紗柚のことは愛してる。
紗凪と似ていると指摘されるのは面白くないけれど、それでも汐勿の跡を取りとなり、汐勿の跡取りを産むという私の望みを叶えてくれた大切なアイテムだから。
夫のことは…愛してるとはいえないけれど、大切には思ってる。
ただ、真面目で、優しくて、私のことも紗柚のことも大切にしてくれる彼に対して何かが物足りないと思ってしまう。
家のことだって育児にだって積極的で、私が諸々の用事で留守にしても頑張っておいでと応援してくれるような理想的な夫。
だけど、真面目すぎる彼では私を満たすことはできなくて…。
紗柚がお腹に宿ってからは当然だけど行為は無かったし、産まれてからもふたり目は望んでいないからと確実に避妊できる方法を考えようと提案した。
真面目すぎる彼との行為は私を満たしてはくれないけれど、それでも私と行為するための方法を模索してくれれば身体を重ねてもいいとは思えるくらいの大切さ。だけど彼は確実な避妊方法なんて無いのだからと私との行為を諦めてしまった。
もしかしたら私以外に想う人がいるのかもしれない。そんなことを考えながら彼の様子を見ていても怪しいところは何も無い。毎日決まった時間に実家に向かい毎日同じ時間に帰宅するし、昼間に会う相手といえば取引先の人だけ。
怪しむべき所は何もなくて、私に魅力がないのかと腹立たしく思ったりもした。
「ねえ、私って魅力ないのかな?」
思わずそんなことを聞いてしまった時に彼が言ってくれた言葉に、私は頷くことしかできなかった。
「あのね、確実な避妊方法なんて無いの。
可能性が高まるのはパイプカットとか、避妊リングとか、あとは薬飲むとかかな?どの方法でも多かれ少なかれリスクはあるんだから紗羅ちゃんの身体に負担をかけたくないし、僕の身体に傷を付けるのも納得できない。
ふたり目は考えてないならしなくてもいいんじゃない?
僕は、今の生活に満足してるよ」
どこまで本気でそう言っているのかは分からないけれど、私の気持ちと私の身体を尊重した物言いに対して何も言うことはできなかったし、ここまで言っておいて今更したいだなんて言えなかった。
紗凪はきっと、貴哉に抱かれているのだろう。不定期に送られてくる写真に映る紗凪の笑顔は時には無邪気で、時には艶めいて、そんな紗凪を愛おしそうに見る貴哉は私を苛立たせた。
ふたりが出会ったのは偶然だったのかもしれない。だけど、2人の関係を隠しているのは故意だろう。
何もなければ告げることのできる出来事を敢えて隠すのは、告げることのできない関係だから。
満たすことのできない欲望を抑えたままの私と違い、紗凪は貴哉と身体を重ねているのだろう。
最後に貴哉と身体を重ねたあの日のことを思い出し、あんなふうに抱かれてしまったせいで夫との行為で満足できなかったのだと逆恨みめいたことを考える。
貴哉と会えば当然だけど、身体を重ねることになるだろう。紗柚を産んでからは夫と触れ合うことのなかったこの身体は、貴哉を受け入れることができるのだろうか。貴哉は私の身体で満足できるのだろうか。
満たされない欲望を解消するためにする自慰はたいして気持ちいいとは思えず、ただ虚しいだけなのにそれでも止めることができない。あれだけのことを提案しておいて、あの答えをもらってしまったら今更したいだなんて言うこともできない。
私がこんなにも虚しい思いをしているのに満たされた笑顔を見せる紗凪のことを、改めて憎らしいと思ってしまう。
その場所は私のモノだったはずなのに。
その身体も、その愛も全てが私のモノだったはずなのに。
それなのにまた私から奪った紗凪を許す気は無い。もともと貴哉は私のモノだったのだ。
だから貴哉との時間を奪われた私の気持ちを思い知り、自分の罰と向き合いながら世界の終わりを迎えればいいんだ。
「可哀そうに、」
貴哉のいないあの部屋で独りで過ごす紗凪を思い浮かべ、笑顔になったことを自覚しながらそんな言葉を呟く。
「紗羅ちゃん、まだ起きてるの?」
声が聞こえたのか夫が眠そうな声で問いかける。日付はとっくに変わっていた。
「もう寝るところ。
おやすみなさい」
「おやすみ」
今ここにある幸せと、手放した幸せ。
天秤にかけたらどちらの想いに傾くのだろう。
そんなことを考えながら、独りで過ごすふたりのことを考えながら目を瞑る。
貴哉も紗凪も、今夜は孤独と過ごすのだろう、きっと。
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