世界が終わる、次の日に。

佳乃

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that day

大輝

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 あれから、俺が離れようとすると縋り付く紗凪を宥めているうちに一緒に眠ってしまったせいで、気付いた時には陽が高くなっていた。

 目を覚ました紗凪は隣で寝ていたオレを見て焦っていたけれど、「紗凪、寝ぼけてたから」と言えば変な顔をしながらも無理やり納得したようだった。

「もう昼過ぎたけど、とりあえずカレーでも食べる?」

 ベッドから抜け出し、とりあえず着替える。紗凪は服のままベッドに入ったせいで服に皺が寄っているけれど、出かけるわけではないのだから着替える必要はないだろう。

「お腹空いたけど、お腹空いてない」

 まだ寝ぼけているのか訳のわからないことを言った紗凪は「カレー飽きたし」と呟く。
 作るのが面倒だと大量にカレーを作ったのは紗凪なのに。

「米の上にカレーかけてその上にチーズ乗せてドリアにする?」

 彼女が作ってくれたのを思い出してそう言ってみたけれど「チーズ、あるの?」と聞かれて撃沈した。
 彼女が当たり前のようにやってくれていたことだったけれど、それが当たり前ではなかったことに気付く。献立の先を予測して食材を用意する。それはきっと食材だけでなく、日々の生活の中でそういった些細な気遣いがあったはずだ。
 彼女は彼女なりにオレのことを考えてしていてくれたことが沢山あったのだろう。

 彼女は自分と紗凪を重ねられていたことに気付いていた。

 そして彼女もオレを誰かの代わりにしていたと笑っていた。

 誰かの代わりにしていたとしても、誰かの代わりに大切にしてもらっていた。それならばオレは、彼女に紗凪を重ねて大切にしていたのだろうか。

「じゃあ、パスタ茹でてカレーかける?」

「カレー、飽きたし」

 再び同じ言葉でカレーを拒絶する。

「でも、たくさん作れば楽だって言ったの、紗凪だよ?」

「うどんあればカレーうどんできたのに」

「カレーうどん、どうやって作るの?」

「え…、うどんにカレーかければ」

「それ、たぶん違う」

 カレーをカレーうどんにすると言うのは、紗凪にその経験があるからで、それを与えたのは貴哉だったのかもしれない。
 彼女がオレのことを考えていたように、貴哉だって紗凪のことを考えていたのだろう。
 こんな時期に紗凪のことを置いて行ったことは許せないけれど、紗凪のことを紗羅の代わりにしていたことを腹立たしくも思うけれど、それでも紗凪に全く気が無かったわけではないはずだ。

 オレと同じでその時には気付くことのなかった些細な想いを今更知ってしまったら、貴哉の元に戻ると言う選択肢が増えてしまうのだろうか。

「今日はコンビニ行く?」

「流通が滞るかもって買いだめしたんじゃなかった?」

「日持ちするものが多いし、気分転換にコンビニ行きませんか?」

 自分は紗凪のために何ができるのか。

 戯けた調子でそう言って、紗凪を外へ連れ出した。今回も買い過ぎだと言われながらすぐに食べられるものをカゴに入れていく。

 紗凪のためにできることがこの買い物だとは思わないけれど、それでも少しでも気分転換になればと思ってのこと。

 物流は滞ってはいないけれど、それでも中には空になっている棚もある。

 色々と買いだめをしたけれど、昨日の紗凪を見てしまうとゆっくり料理をしようとは思えない。料理を作る時間があれば紗凪ともっと話をして、その憂いを少しでも減らすほうがいいだろう。

 結局、コンビニで買ったものを適当に食べてダラダラと過ごすことを選択したけれど昨夜の電話にはどちらも触れず、「明日世界が終わったらこれが最後の晩餐とか?」と言いながら冷蔵庫からアルコールを取り出した。

 ⌘⌘⌘

「ねえ、世界が終わるのって何時なのかな?」

 変な時間まで寝ていたせいでダラダラと過ごしているうちに日付は変わった。
 適当なことばかりを言っているテレビに飽きたけれど消してしまうと静か過ぎて、仕方なくサブスクで適当な映画を流しておく。

 紗凪が時間を気にしたのは日付が変わってすぐで、日付が変わる時にはふたりして何となく緊張したけれど大きな変化はないまま時間は過ぎていく。

「どうなんだろうな。
 最後の日だから明日日付が変わる瞬間に終わる、とか?」

「それって、シャットダウンするみたいにその瞬間に終わるのかな?」

「まあ、それなら苦しまないし、どうせ終わるならそのほうが楽だよね」

 大地震だとか、大きな隕石が落ちてくるとか色々と言われているけれど、終わるなら終わるで一瞬で終わればいいのにと言ったオレに紗凪も同意する。

「ひとりだけ残されるのは嫌だな、」

 ポツリと呟いた言葉に「どこに行くつもりだったの?」と思わず聞いてしまった。

「朝早くにスマホと財布だけ持って、買い物だった?」

 違うと分かっているけれど、ちゃんとした答えを聞きたくて、だけど問い詰める口調にならないように軽く聞こえるように言葉を選ぶ。

「買い物じゃないって、分かってるくせに」

 苦笑いを見せた紗凪は「大輝に迷惑かけたくなくて、」と口を開く。

「迷惑なんて、「迷惑だよ」」

「だって、僕が来なければ最後の時まで好きなことができたし、会いたい人がいれば会いに行けたし、どこにでも行けた」

 オレの言葉に言葉を被せそう言った紗凪は「ボク、性格悪いから」と小さく笑い、言葉を続ける。

「ボクは貴哉に置いていかれたのに。
 貴哉は姉を選んだのに、同じ姉弟なのにこの差はなんだろうって。
 夫も子どももいて、両親や祖父母もいて、それなのに最後の時には貴哉まで側にいて。
 不公平だよね。

 貴哉なんて、ボクのこと好きだって言いながら姉さんのことが忘れられなかっただけなのに。ボクの存在がちょうど良かっただけなのに」

「それがなんで性格悪いことになるの?」

 信頼していた相手が自分ではない相手を望み、その相手の環境と自分を比べて不満を抱くことは誰にでもあることだ。
 そんなに恵まれているのだから【その人】を奪わないで欲しいなんて、そんなのは当たり前の感情でしかない。

「八つ当たりしたんだ」

「八つ当たり?」

「大輝に大切な人ができなければって。
 あのままこの家で暮らしてたら貴哉の部屋に引っ越すこともなかったし、世界が終わるからって捨てられることもなかっただろうし。
 
 ボクが貴哉と会わなければ姉さんと貴哉がこんなことにはならなかったのかもしれないけど、ボクがこの家を出なければ貴哉とあんな関係になることもなかったのにって。

 だから、大輝と彼女のことちょっとだけ邪魔してやろうって思っちゃったんだ」

 目を伏せたままそう言った紗凪は「彼女にヤキモチ妬いたんだよね」と自嘲する。その言葉に少しだけ期待してしまう。ヤキモチを妬いたのは俺を想ってのことなのではないかと。

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