世界が終わる、次の日に。

佳乃

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after that

紗凪

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 あの日、大輝と身体を重ね、心を通わせ、気持ちを確かめ合った。

 行為の後もベッドで身体を寄せ合い、言えなかったこと、言いたかったことを口にしてこれまでの時間を振り返る。
 機会がなかったわけじゃない。
 気持ちを伝える機会はそこかしこに転がっていたのに、それが当たり前すぎて感覚が麻痺してしまっていたのだろう。
 お互いに対する漏れ出す好意は日常になってしまい、それが好意だと気付けずになっていき、お互いの気持ちに鈍感になってしまった。

 同性だったことも原因だったのだろう。

 大輝もボクも付き合う相手は異性だったし、お互いに対する好意は友情だと考え、自分の気持ちを誤魔化すことで一緒に過ごすことを無意識に選んでいた。

 きっかけは貴哉の存在だった。

 貴哉との再会で変化の訪れたボクたちの関係は少しの言葉で誤解を解くことができたはずなのに、自分の気持ちが漏れるのを恐れて口を開くことをしなかったせいで歪になっていく。

 ボクの気持ちが貴哉に向いたと思い、自分の気持ちを押し付けようとする前に距離を取った大輝。

 大輝の気持ちが自分の想いとは違うのだと突きつけられ、物理的にも心理的にも大輝から逃げ出したボク。

「あの時、あの人と仲良くして欲しくないって言えばもっと早くこうしてたのかな」

 ボクの髪に指を絡ませながら大輝がそんな言葉を漏らすけれど、「どうだろうね」とそっけなく答えてしまう。
 照れ隠しももちろんあるのだけれど、あの時にその言葉を言われてもその真意に気付くことはなかっただろう。
 それほどまでにお互いに対する気持ちが歪んでしまっていた自覚はある。

「大輝だって地元の友達と遊んでるのにどうしてって反発したかもしれない」

「反発って」

「じゃあ、ボクが彼女との同棲反対したら止めた?」

「紗凪は嫌だと思っても言わないよな、きっと」

「そういうこと」

 どちらかが間違えたわけじゃないし、どちらも間違えてしまったのだろう。
 だけど、ボクが悪かったわけではないし、大輝が悪かったわけじゃない。

「これからどうする?」

「どうするって、何が?」

「オレたち、付き合うってことでいいんだよな?」

 気持ちを確かめ合ったのにそんなことを言い出した大輝に「違うの?」と聞き返すと「違わない」と返ってくる。

「それならとりあえず、引っ越すか」

 そう言った大輝に「本当に温泉?」と聞けば「紗凪がそうしたいならいずれはね」と笑われ、「でも早急に引っ越したいとは思ってる」と真面目な声で答えられた。

 大輝が言うには姉に送られた写真の意図は分からないけれど、何枚も送られた様子のその写真から送り主の執念のようなものを感じると言い、もしかしたらこの場所も知られているかもしれないと主張する。
 姉に写真を送った相手が執着する相手がボクなのか、貴哉なのかは分からないけれど、大輝の主張もあながち間違いではないだろうと思い、引っ越しに賛成する。

「お義兄さんみたいに逆恨みされても怖いし。仕事中もずっと一緒だけど、どうしてもオレが外に出ないといけない時もあるはずだから、セキュリティはしっかりしたところにしたいな」

 そんな事を言いながら今の家からは離れていて、貴哉の部屋や会社とも離れたところで探すつもりだと言う。
 リモートでできる仕事しか受けないつもりだと大輝は言ったけれど、実際にはすぐの切り替えは無理だろう。遠くで新しい部屋を探すとすれば完全にリモートに移行できてからの方が現実的だ。

「オートロックで防犯カメラがあって、インターホンはモニター付きじゃないとな」

 そう言いながら「管理人がいると安心だけど、どう?」と聞いてくる。少し用心し過ぎかと思ったけれど、仕事の資料も置くことになるからその言葉に同意する。
 今住んでいる家もセキュリティ会社に警備をお願いしているし、用心するに越したことはないだろう。

 色々と調べ、税金の関係もあるからと今の家と同じ市内の物件を調べ、いくつか内覧して部屋を決める。

 部屋が決まってしまえば引っ越しは早かった。

 もともとボクの荷物は少なかったし、貴哉も必要なものを持ち出すだけで、家具は部屋に合わせたものを新調した。
 仕事の量をセーブして引越しの準備を進め、完全に新居に移動したのはあの噂から2ヶ月ほど経った頃で、その頃には仕事の依頼も増えてきていたからちょうどいいタイミングだったとふたりで笑い合う。
 はじめはボクを甘やかす大輝に戸惑いもしたけれど、慣れてしまえばそれが心地よくて、その姿が常に視界に入るのが当たり前となっていく。
 順応するのが早いのは以前の同居生活の礎もあったのだろうけれど、気持ちを隠すことなく自然に過ごすことができるせいもあるだろう。

 貴哉といた頃は至れり尽くせりの生活だったけれど、その生活に戻りたいとは思わなかった。

 ふたりで目を覚まし、ふたりで食事の用意をして同じ空間で仕事をする。
 大輝が外に出ないといけない時もあるけれど、自分が外に出られないことに不満は無かった。
 仕事が終わればまたふたりで食事の用意をして、1日を終える時には同じベッドに入る。

 身体を重ねる日もあれば身体を寄せ合うだけで眠る日もあるし、ムードが高まり寝室以外の場所で身体を重ねることもあった。

 大輝が外出している時に誰かが来ても出なくていいと言い含められていたし、自分の意思で外に出たいとも思えなかった。
 大輝が外出した時は食材をまとめ買いしてくるし、足りないものがある時はふたりで買い物に出かけ、必要なものを買い足していく。
 外に出なくても欲しいものはネットでなんでも買えるけれど、それらの受け取りすらボクが出ることに大輝は良い顔をしなかった。

 ボクの生活は大輝なしでは成り立たなくなっていく。

 この生活を息苦しく感じる人もいるのだろうけれど、貴哉に捨てられたボクにとって大輝の庇護は心地良いものだった。

 少なくとも、大輝はボクが嫌がる事を強要することはない。
 部屋から出ないのはボクの意思でもあるし、大輝と共に過ごすのもボクの意思。

「ねえ、GPSで位置情報共有できるようにしない?」

 そう言い出したのは大輝だった。

「え、別に良いけど。
 でも、この部屋にいない時はずっと大輝と一緒だよ?」

「まあ、そうなんだけど、安心が欲しいんだ」

「安心って」

「部屋にいるなら部屋にいるって確認できれば安心できる」

 信用されていないのかと思わないでもなかったけれど、その気持ちが理解できてしまうのは貴哉とのことがあったからなのかもしれない。
 姉と連絡を取り合っていたと知り、世界が終わるその時には姉の近くにいたいと言われた時、日に日に遅くなる帰宅にこのまま帰ってこないのではないか、もう姉の元に向かっているのではないかと不安に苛まれた。あの時に位置情報が確認できれば、まだこちらにいると安心することができただろう。

「いつ見てもここにいるから面白くないよ?」

「面白くなんてなくて良いんだって。
 オレの自己満足に付き合って」

 そう言われて位置情報を共有したけれど、正直なところ悪い気はしなかった。位置情報を共有する事で、ボクの方が安心を感じるようになる事を貴哉は見越していたのかもしれない。

 本音を言えば、大輝と付き合うようになったけれど、大輝のパートナーはほとんど知っていたし、モテ具合も知っていたし、その遊び方も見てきたからいつ別れることになっても仕方ないと思っていた。
 10人中10人が平凡だと言うであろうボクと、華やかな大輝が釣り合うとも思っていない。
 貴哉とのことはボクの心に大きな傷を残したのだろう。大輝がいくら好きだと言ってくれても、大切にしてくれていると実感しても、どこかで信じることができなかった。

 だから、大輝の位置情報で聞いていた通りの会社にいる事を確認して安堵した。
 もしかしたら戻ってこないかもしれないと不安になった時も、ボクの待つ部屋に向かって位置情報が移動するのを見て心の平穏を取り戻した。

 その電話がかかってきたのは、そんな風に少しずつ心の安定を取り戻した頃だった。





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