有って無き者

戒月冷音

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第131話

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「痛いって、言ってんでしょっ!」
「うるせぇよっ!自分が誘ったんじゃねぇか。
 最中に気分を落としやがって・・・」
「だって、痛いんだもん」
「だもんじゃねぇよ」
そんなやり取りを聞きながら、2人に近付く。

「こんばんわ」
にっこりと笑いながら、ライヤさんを見る。
「こんば・・・あー、薬持ってる人」
「なんだ?おぉ、良い女じゃねぇか。
 この糞女より、俺の相手してくれ」
「申し訳ないけど、あんたの相手してる暇ないの。
 この子、毒に置かされているのよ」
「ど、毒~?」
「その治療中で、安静にしてなきゃいけないのに、ずいぶんと
 活発な運動をしたようね。
 ほら、腕の一部が変色してるわ」
そう言ってライヤさんの腕を見せると、二の腕の辺りがアザのようになっていた。

「うわぁぁぁぁっ、きもちわりぃ」
そう叫びながら、逃げていく男。
「あなたの選ぶ男は、本当に役立たずなのね」
座り込んでいるライヤさんにそう言い、腕を引っ張りあげて立たせると、手を引いて歩き出す。
「痛いって、言ってるじゃないっ」
「あなたが、私の言ったことを守っていないのでしょ。
 自業自得よ」
「なに?その、じご?」
「あなたに説明しても、意味がなさそうだからしない。
 黙って歩いて」
「だから痛いの。薬頂戴」
「そうやって、家にあった薬を一気に全部飲んだのでしょ」
「えっ・・・と、知らないわ」
「さっき家に行ったら、薬の瓶が空だった。違う?」
「ち、違うわよ。私じゃない、母さんよ」
「そう。お母様が飲ませたの?」
「そうよ!」
「どうやって?」
「こうやって・・・」
彼女は一生懸命説明しようとしたが、全てが嘘だとすぐに分かることを平気で言い、私はあきれるしかなかった。

「そうやって嘘を付いて、あなたの特になったことあった?」
「えっ、嘘って何よ」
「あなたのお母様は、あなたに口出しできないでしょ。
 だから、さっき言ったあなたの説明は全部嘘。
 お母様が、あなたの口に薬をねじ込むのも無理。
 だってあなたそんなことをすれば、お母様をひっぱたくでしょ」
「そんなことしないわ」
「したわ。会った時、口の中を切っていらしたから、痛そうだった」
そんな話をしている内に、メイサの家に着き、中にはいるとメイサにしがみついたお母様が、泣いていた。


「なんとか、話しはできたのね」
「はい」
「それじゃあこの子を縛るから、手伝って」
「はい」

その後、私とメイサはライヤさんをベッドに縛って、動けないようにしてから、メイサが体に直接クリームを塗り、私はお母様と、ライヤさんへの説教を始めた。
昨晩渡した薬は、一晩分。
私が来るまで、残っていないといけない分量しか、置いていなかったのに、瓶の中はすっからかんだった。
だから私は、今晩の薬を、取り上げることにした。

一晩薬なしで過ごしてもらい、朝、もう一度1から、薬を体に馴染ませてもらう。
「今すぐに飲みたいのっ」
「飲んでも良いけど、毒が回って、死ぬだけよ」
そう言うと、渋い顔をするライヤさん。
『死ぬのは、嫌なんだ』
これだけ好きに生きてれば、そうなるわ。
「それにあなた、父親が生きているなら、そちらに行けば良いのよ」
「だって・・・それはダメだって、母さんが・・・」
「それは何故?」

私が確認すると、お母様は話してくれた。
ライヤさんの父親は、伯爵らしい。
ただ、奥様がいて、子供もいる。
ライヤさんができたときは、まだ独身だったらしい。
なので私が口添えをすると言うのを条件に、ライヤさんを直せと命じた。
言うことを聞かせ、薬をきちんと使用して、毒を直してからじゃなければ口添えはしない。
それを、お母様とライヤさんに何度も説明し、その日は帰った。
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