有って無き者

戒月冷音

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第132話

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それから数日後、私はエルフィン殿下とアルゴ様を訪ねていた。
「アルゴ様、具合はいかがですか?」
「カサンドラ様、大分よくなってきていると思います」
「本当だ。体を起こしているし、手に力が入っているようだ」
アルゴ様は、注意事項をきちんと守ってくれていた。
どこかの好き勝手娘とは大違いで、次の日には、緩めのお粥などが少しずつ食べれたそうだ。


「カサンドラ様、どんな感じだろうか?」
神妙な面持ちで聞いてくるアルゴ様と、その横で心配そうな奥様。
そして、ベッドの足元には、マルク様が祈るリズ様を支えて立っていた。
私は、一通りのチェックを行い、アルゴ様の状態を判断する。
「解毒がうまく進んでいるようです。
 明日・・・あるいは、今夜中には、体の中が動き出すと思うわ。
 でも、出てくるのは水だから、気を付けてね」
答えたのは、リズ様。
「水・・・ですか?」
「今まで何も、お腹に入っていないのだから、最初に下から出てくるのは
 薬が吸収した成分。
 でも、私の薬に固形物はないから、出てきて吸収材ね。
 固いものではないから」
「でも、出てくると言うことは、体の機能が動き出した・・・
 と言う、証拠ですよね」

リズ様の言葉に、私は感心するしかない。
この方は、何とかしようと色々なことを、調べたのだ。
もしかしたら、体の構造の勉強もされたかもしれない・・・
それなら
「リズ様」
「はっはいっ」
「貴方、もしかして、体の構造を理解してる?」
 「理解している?んでしょうか。
 それははっきり分かりませんが、解体新書は読みました」
「では、理解してるわね」

この世界の解体新書は、名前の通り人の体を解体し、人体の構造を調べた事を書いた本。
と、言うことは・・・
「では、肝臓と腎臓の助けになる食事の準備を、お願いできますか。
 最初は出来るだけ、柔らかいもので。
 3日くらい立ってから、少しずつ固くしていってください」
「はい」
「水分は取れるだけ取るように。
 血液がろ過を手伝うので、水分がなくては出来ません」
「分かりました」
「あとは・・・」
「あとは?」
「あとは楽しく、悲しい顔をしないように。
 笑っていると、心が軽くなります。
 しかめっ面だと、見た人は気分が悪くなります。
 皆が笑って、楽しい雰囲気を作るよう努力してください。
 何なら、お子様を作られても構いませんよ」
私はちょっとマルク殿下とリズ様をからかった。

「なっ・・・」
「何を、言ってる」
そう返したのは、顔を真っ赤にしたリズ様とマルク殿下。
「マルク様、顔が真っ赤ですぞ」
「そう言う予定が、あるのかしら?」
「お父様、お母様。一体何を言っておられるのですか?」
「リズ、孫が出来れば、すぐにでも俺は動くぞ」
やっぱりアルゴ様は、孫の誕生を待っていた。
「王位継承権などいらない。俺は、お前達の孫がほしい」
寝転がったままアルゴ様は始めて、自分の気持ちをさらけ出したようだ。
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