私の存在

戒月冷音

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第162話

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「アーモンドって、あったの?」
「こちらでは、ヘントゥと呼ばれていて、トゥ・・・
 梅と一緒に売られてました」
「梅と?」
「なぁ、トゥって、コールに浸けたり、エン漬けにして食べるやつだよな」
「そうだよ」
「それと一緒って・・・」
「ヘントゥは、薄くスライスしてから焼いてあるので、香ばしくて
 美味しいですよ」
そう言って持っていた皿を置くと、2人はその上にあるフロランタンを凝視した。

「えっ?これって、ヘントゥ?」
「はい。いつも見るのは、ひとつ丸々か、粉に挽いたものだと思います」
「あぁ、そうか。
 ヘントゥがアーモンドだったら、この生の物を乾燥させて、煎ったら
 あの見た目になるのか」
「なると、思います」
「今度やってみよ。それでこれが、フロランタンだね」
「はい。甘さは控えめですので・・・」
私がそう言うと同時に、2人は手を伸ばし1つずつとって口に入れた。

サクッ、カリッと音を鳴らしながら食べている2人の顔は、嬉しそうにモグモグしている。
そして、コクンと飲み込むと、我先にと話し出した。
「なにこれ、美味しい」
「下にしいてあるのはクッキー?サクッとしてる」
「上のヘントゥが、スッゴク香ばしいんだけど、回りの・・・
 砂糖?がちょうど固まってる」
「それも甘すぎず、ちょっとエン味があるよね」
「そうそう、だから次々食べれる」
そう言うとマルクス様は、次々と口に入れた。
「あー、マルクスずるいぞ」
「アクがずっと、しゃべってるから・・・」
そんな2人を見ながら私は、クスクスと笑っていた。


しばらくそんな時を過ごした後
「お兄様。もうそろそろお帰りにならないと、お母様が淋しがりますわ」
「えっ!?もう、そんな時間?」
そう言うとお兄様は、自分のハンカチに、フロランタンを包もうとする。
「お兄様、持って帰られるものは、別に用意しておりますわ」
「そうなのか?」
急いでルーザが持ってきて、渡すと
「ありがとう。これで父上と母上に、拗ねられなくてすむ」
「それじゃあ、まっすぐ帰れば良いだろ」
「マルクスとミシェルを、2人だけに出来るかっ」
「出たよ、シスコン」
「なんだ?その、しす、こん?とは」
その言葉を聞いて、私はフフっと笑った。
「ミシェルが笑うと言うことは、あっちの言葉か?」
他の人が居るから、前世とは言えないが、そう言って悔しがる。
けれど、時間が迫ったため、言い返すことも出来ず、悔しそうに帰っていく。

私は、そんなお兄様を追いかけ、フロランタンを包んだ小さな包みを、二つ渡すと
「明日にでも、未来のお義姉様と、どうぞ」
と言った。
するとお兄様は、私をぎゅっと抱き締めた後
「ありがとう」
と言って、にこやかに帰っていった。
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