私の存在

戒月冷音

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第61話

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私は、マルクス様を見て、ふふっと笑った。
マルクス様は、きんつばを食べながら首を傾げる。
すると
「マルクス、口の横についているわ」
と、マルガ様が小声で教えたようで、ワタワタと口元を綺麗にしていた。

「ミシェル…笑ってはダメだよ」
横に座るお兄様が、そう言うが
「だって、可愛らしかったんですもの」
と素直に答えた。
するとマルクス様は、顔を真赤にして下を向いてしまう。
「ほらぁ、ああなっちゃうでしょ」
「ではお兄様は、テーブルの対角線にいる場所から聞こえるように
 大きな声で、教えてほしいのですか?」
私は、今のマルクス様と私の位置をそのままに、そう聞いた。
「いや、それはご遠慮願いたい。ただ、恥ずかしいだけだ」
「そうでしょう。
 そう思ったから、私は言いませんでした。
 けれど、大好きなものを、嬉しそうに食べて下さる姿は
 誰であっても可愛らしいですよ」
「ぐっ…」
私の言葉に、マルクス様は喉を詰める。
「マルクス、大丈夫?」
「だ、大丈夫」コホッ…
マルクス様は顔を真赤にして、マルガ様に答えていた。

それから皆で、仲良くお話していると
「あー。やっぱり私抜きでお菓子食べてる~」
奥から、王妃様とお母様が姿を表した。
「エリス様…」
「あ、ごめんなさい。でも…」
「でもではありません。
 そんなことだから、前王妃に合格をいただけなかったのでしょう」
「お義母様は、厳しすぎたのですわ。
 私は今、王妃が出来ていますので大丈夫でしょ」
「大丈夫ではないから、ついさっきまで説教したのですが?」
じっとりと睨むお母様…

王妃様、早く謝罪してください。ああなったお母様は家でも怖いです。

そんな事を思っていると
「アクイラス、ハリエット、ミシェル…今、何を考えました?」
と、にっこり微笑んだお母様が、私達を見た。
お兄様とお姉様は固まったが、私は
「お母様。
 そんなところで説教されては、せっかくのおみあげが
 美味しくなくなってしまいます」
と、少し頬を膨らませていった。
「あら、ごめんなさい。エリス様、私達も頂きましょう」
「やったー」
ピシャリ…
お母様の扇が鳴った。
「う、嬉しいですわ。」
「お行儀よくしてくださいね。エリス王妃陛下」
国王陛下の隣に座ろうとした王妃様に、お母様の釘が刺された。
「はい…」

やっと座れた王妃様は、眼の前に置かれたケーキときんつばを見て
「ケーキは分かるけど、これは何?」
と首を傾げた。
すると、国王陛下が
「エリス。俺はこの、きんつばというもののほうが好きだ」
と、嬉しいことをいってくださった。
私は、それが嬉しくてニコニコしていると、何故か目の前のマルクス様が、ムスッとしていた。
「マルクス様、どうかされたのですか?」
「俺だってきんつば、好きだ」
「はい、わかっております。マルクス様に作ってきたのですから」
私の言葉に機嫌を直してくれたマルクス様は、あと2本…きんつばを追加した。
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