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31. 不穏な影
しおりを挟むレーベェン王国の王宮にある謁見室では、国王のフェルナルドが隣国のアステル大使を招いている最中だった。使節大使であるアステルは、隣国では賢者と呼ばれるほどの知者で知られているという。実は魔王であることなど、ここに居る者はだれ一人として知らなかった。
「これはこれは、大使殿、我がレーベェン王国へようこそ。何か不自由などはしておらんかな?」
「お初にお目にかかります。サシェド王国大使のアステルと申します。以後お見知りおきを」
「そうかそうか。して、そなたの後ろにおる美姫はどなたかな?」
「はい。こりこれは私の側近のミリスと申します。こう見えて政治・経済・法律とあやゆる面に精通しております。色々と陛下のお役にも立てるかと存じます」
「ほう。天は二物を与えずと申すが、ミリス殿は美と頭脳の両方を兼ね備えておるのだな。素晴らしい側近をお持ちだ」
「とんでもございません。ミリス、ご挨拶を」
「はい。サシェド王国より、アステル様に同伴させて頂いておりますミリスと申します。こちらにお世話になるのも何かのご縁ですので、何なりとお申し付けくださいませ」
何を隠そう、このミリスこそ姿を変えたリリスである。ミリスの美貌と所作の美しさにフェルナルドは鼻の下を伸ばす。フェルナルドが気を良くした所に、ミリスは微笑みながら己のスキル『人心掌握』をかけた。たったこれだけで、いとも簡単に国王はミリスの手駒と化してしまった。
「陛下、発言をお許しくださいますか?」
「おぉ、構わんぞ。そちと我の仲であろう。何でも好きに申せ」
「有難うございます。実は、先日こちらにお招き頂いた際、陛下に何か御悩み事があると伺ったのですが、宜しければお話し頂けませんでしょうか。微力ながらお力になれればと思います」
「ほう。それは有難い。実はな……」
フェルナルドは、ここ最近頭を悩ませている事件のこと、その賠償問題の事などをアステルとミリスに伝える。するとミリスが待っていたと言わんばかりにこう答えた。
「恐れながら陛下、陛下が一度出された処遇を撤回する必要はございません。前サーフェン伯爵子息が王太子妃を殺害したわけではなかったとしても、王太子妃と内通していた罪には問えます。死人に口なし。王太子妃と子息が亡くなった今、誰にもその是非は問えません。妊娠されていた御子が王太子殿下の御子でなかった場合、それは王家を謀る大罪となります。サーフェン伯爵家は爵位はく奪のまま、領地も没収のままで宜しいかと。同様に、ディスモンド公爵家にも謝罪は不要。しかるべき処置であり、王太子は悪魔に心を操られていただけ。逆に慰謝料を請求しても良いぐらいだと思います」
「そ、そうか!」
「はい。陛下が謝罪することも、賠償金を払う必要もございません。陛下は偉大なる王のお姿をお示しになるだけで宜しいかと」
「それは素晴らしい! さすが賢者アステル殿の側近だけある」
普通に考えれば当然愚策であり、火に油を注ぐような案である。だが今のフェルナルドにとって、ミリスの言葉は甘い蜜の味しかしなかった。
「陛下、ディスモンド公爵家は、爵位をはく奪された前サーフェン博をそのまま黒龍騎士団に置いていると聞きます。これは陛下に対する不敬ともとれます。いっそのこと、処罰の対象としても良いのでは?」
「そ、そうだな! 確かに言われてみればその通りだ!」
まさに愚王の極みここにありと言った体である。
愚王フェルナルドの書簡がディスモンド公爵家を訪れる頃には、公爵家の一室に、既に主な面々が勢揃いしていた。
「して、あの愚王はなんと?」
「あぁ、概ね予想していた通りだな。王家は今回の騒動の被害者に過ぎない。王太子妃オフィーリアと前サーフェン伯爵家子息ハインツは内通しており、腹の子が王太子の子であると王家を謀ろうとした。その謀反の罪により、ディスモンド公爵家の資産を没収するとある」
「ハッ、いくら魔王が絡んでいようと、そこまで落ちようとはな。兄上が賢王であっただけに無能さが一際目立つぞ!」
「では、計画通りに事を進めて宜しいですかな?」
「あぁ、致し方あるまい」
「黒龍騎士団に決起の合図を。サーフェン家、スタイン家の有志にも伝達を!」
「はいっ!」
黒龍騎士団第一隊のカインはこの一大事に拳を強く握りしめながら隊員たちの元へと急いだ。それもそのはず、今回の書簡の内容は、我がディスモンド公爵への不当な要請であり、侮辱である。この伝達内容を騎士団員たちが聞けば、それこそ烈火のごとく怒り出すのは目に見えている。
ディスモンド公爵家当主のデカルドは前王の弟に当たる。前王が病気で亡くなってから、甥に当たる現王を支え、この国の治安維持に努めてきた。
子息であるリチャードも、実は前王の孫に当たる。父親は現王の弟で、幼い頃に母共々不慮の事故で亡くなっている。本来はデカルドの甥に当たる存在だが、両親が亡くなった時点でデカルドが養子として彼を引き取ったのだ。実際は立派な王位継承者である。
黒龍騎士団の隊員は公爵家に恩義のある一族や、限りなく強い信頼を寄せた家の者が殆どだ。正直な話、王家になど誰も忠誠を誓っていない。当主デカルドの命が全てであり、主を侮辱する者は例え王家であろうとも敵なのだ。
今回、王宮からこのような通達が来ることは、既にスタイン侯爵家側から内密に知らされていた。加えて、隣国からの使節大使が魔王であること、側近のミリスがリリスであることも事前に教えられていた。そのためデカルドは、兼ねてより計画をしていたクーデターを実行する決心をしたのだ。
クーデターの際に民衆の反感を抑える策も既に講じてある。それが例の幽霊○チューバ―軍団の抜擢である。前に聖教会と王宮に渡した殺人事件の証拠映像も、彼女たちが監修・作成を行った。その手腕が認められたのである。
『衝撃スクープ! 宮廷侍女はミタ! 王家に渦巻く陰謀』
『いつやるの? 今でしょ! 嘘つき王家をぶっ飛ばせ!』
『24時間戦えますか? 1日で終わるクーデターへの道!』
幽霊シスターズは今風(いや、かなり古い)キャッチコピーを掲げたビラ撒き計画を立てた。王家のお馬鹿さ加減とそのやり口の汚さを前面に出し、現王の退陣を求めるのだ。
そのために持ち出したのは、不慮の事故死とされるリチャードの両親の殺人事件と、今回の連続殺人事件の後処理で、王家が嘘の不倫疑惑を持ち上げた手口だ。リチャードの両親の死には現王妃が絡んでおり、当然現王の責任も追及される。今回の王太子妃殺害の件では、自分たちの責任逃れをするために不倫疑惑をでっち上げ、その上ディスモンド公爵家の資産までネコババしようというのだから、もう真っ黒黒のギルティだ。
リチャードの両親殺害の件は、両親の馬車に同乗して巻き込まれて死んだ侍女の幽霊から、幽霊シスターズがその時の状況を聞き出してきた。また、今回の件では、王宮に偵察に出ていた幽霊聖女のアイシスが、ミリスと現王のやり取りをがっつりとその目に焼き付けてきたのだ。あとはこれらを上手く編集して、緊急ニュース速報の如く民衆の目に晒け出したい。
『○キュー前の巨大モニターみたいに、こう、バーンと皆の目に晒せないかしら?』
『それならキュー公前の宿の壁にドーンと投影するとか?』
『王宮ドームの壁でもいいんじゃない?』
『『『『それな!』』』』
止まることを知らずワイワイと盛り上がる幽霊シスターズの企画会議は、明け方近くまで続き、貫徹して作り上げたスクープのビラとニュース映像は現代日本にも引けを取らない素晴らしい出来となった。
「これならバッチリね! 情報戦ではもう負ける気がしないわ」
『シャルの姉御のお陰です! これからもオイシイ動画の供給をお願いします!』
「はい、はい」
『『『『『『『 ヤタ―ッ! 』』』』』』』
若干遠い目をしながら答えるシャーロットに、次はおじカ○シリーズが良いだの、ツイ○テシリーズが良いだの、いやいやヒ○マイでしょなどと、大騒ぎし出す幽霊シスターズであった。
『あ、そう言えば話は変わるんですが、最近王宮に出るんですって!』
「え? 何が?」
『オバケが!』
『『『『『『キャーっ! 怖いっ』』』』』』
王宮に忍び込んだ幽霊アイシスの話によると、ここの所昼夜問わずに、白い影が王宮内をうろついているという。何やらブツブツと呟いたり、哀しそうに誰かの名前を呼び続け啜り泣いていると言う。地縛霊の皆さんに聞いてみても、誰も近づけないらしい。
「おかしいわね。マビルからもそんな情報上がってないわ」
『私も接触しようと頑張ったんですけど、なぜか接触できなくて。少し気味が悪いんですよね。もし本物だったらどうしよう…』
「………………」
(いやいや、あなたたちこそ間違いなくホンモノなんですが…)
これから決戦に挑む場所に気味の悪い噂がでているのは気になるが、それよりもここ最近の、幽霊シスターズの超絶ギャル化の方が気になるシャーロットであった。
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