わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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2 LUNARIAからの電話

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  短縮のボタンをプッシュしたあと、髪を耳に掛けて受話器を近づける。馴染みあるコール音が鳴った後、同じく馴染みある柔らかい声が応答した。

「お電話ありがとうございます。LUNARIA秘書室、秋月です」

 落ち着いた優しいトーン。よかった繋がったと安堵して、私も声のトーンをまた上げる。電話をする時は声だけではなく、実際に表情を動かすこと。新入社員時代に椛乃社長から教わったことを守れば自然と口角があがった。

 電話に出たのは、LUNARIA社長の秘書、秋月 綴あきづきつづるさん。私と同じ秘書という立場なので、顔馴染みの相手でもある。だから電話もあまり気負わずに話せる。

「お世話になっております。COCONOE化粧品の黒瀬です。先程はお電話に出ることができず申し訳ございませんでした」
「お世話になっております。黒瀬さん、折り返しありがとうございます。お忙しい中、申し訳ございません。明日のYorui合同ミーティングの件でして――」

 ああ、やっぱりそうか。Yorui以外の件で秋月さんから電話がかかってきたことはない。余計な話はせず、すぐ本題に入るあたり仕事ができる秋月さんらしい。

「午後2時開始の予定だったのですが、久世くぜのスケジュールの関係で3時からに変更できればと思いまして。そちらのご都合はいかがでしょうか?」
「3時ですね。確認しますので少々お待ちください」

 予め開いて空いたスケジュール帳に目を落として明日のスケジュールを確認する。午前中に役員定例会議。LUNARIAとのミーティングは熱が入って長引くことが多いので、午後に他の予定は入れていない。
 ――つまり、1時間開始が遅れても問題ない。
 
「承知しました。3時開始で調整いたしますね」
「ありがとうございます。助かります」

 丁寧で柔らかい口調のなかに、真の強さを感じるような声。電話越しでもちょっと安心する感じ。だから秋月さんからの電話は秘書室みんなが取りたがる。
 
「では、改めてよろしくお願いします。失礼いたします」
「はい、失礼いたします」

 短い電話を切り、すぐにスケジュールを書き換える。その後、パソコンで役員のスケジュール一覧も修正。

「あ、しまった……」

 スケジュールを閉じようとした時、ある予定が頭を過る。明日だったかもしれない。
 スマホを開いて確認するとやっぱりそうだ。

 『6時半。ネイル』

 短い予定にがっくりと肩を落とす。そうだ、明日は仕事のあとネイルサロンの予約を入れてたんだった。

 元々LUNARIAとのミーティングが2時開始。定時の5時半には終業できると思って予約を入れた。

 だけど開始が1時間遅くなれば、話は変わる。LUNARIAとの会議は平均2時間。けど3時間かかる時もあるし、そうなると定時には帰れない。――ってことは……ネイルは諦めるべきかもしれない。

 手元に視線を落として指先を確認する。淡いオレンジ色のシンプルなネイルは可愛いけど、春なのでピンク色にしたい。

「……まあ、大丈夫だよね。明日は進捗確認だったりだからあんまり時間掛からないと思うし」

 うん、多分大丈夫。予定は変更しない。そう決めてスケジュール帳を閉じるとタブレットと共に腕に抱え、秘書室を出た。まずはこの予定変更を椛乃社長に伝えなくちゃ。
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