わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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3 信頼と不満の会議室

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 LUNARIAが入るオフィスビルが見えてくる。お気に入りの腕時計で時間を確認すると午後2時45分。よかった間に合いそう。

「時間通りに到着しそうね」
「はい、ちょうどよかったです」

 椛乃社長も同じことを思ったみたい。

 3時からスタート予定のLUNARIAとの定期的に行われている合同ミーティングまで残り15分。いつも使うルートに工事中の道路があり、大きく迂回が必要だったので早めに出たが、予想以上にスムーズに到着できたのは、運転手の佐藤さんの運転のおかげかもしれない。

 都内有数のオフィスビルのエントランスに社用車が停まる。ありがとうと口を開いたのは椛乃社長だった。

「帰りはそのままタクシー使って直帰するつもりだから迎えは大丈夫です」
「かしこまりました。黒瀬さんも直帰ですか?」

 社用車運転手の佐藤さんは先代社長の時から役員の運転手を務める40代の優しい運転手さん。運転は丁寧で物腰も柔らかい。秘書の私にまで気を使ってくれるところもまたいい。休日は家族孝行に忙しいいいパパって話は社内でも有名。

 そんな佐藤さんの気遣いは嬉しいけど、私も今日は直帰の予定。ネイルの予定もあるし、少し歩けば駅だってある。帰るのには困らない。

 ミーティング後に直帰することを伝え、先に車を降りて佐藤さんを見送る。椛社長と時間をもう一度確認してエントランスに足を向けると、見覚えのある姿がエントランスの自動ドアから出てきた。
 
「九重社長。黒瀬さん、お世話になっております」

 自動ドアを抜けた人物とすれ違った女性OLが振り返る。無理もない。だって――誰が見ても、彼をかっこいいと思うのだから。

「ご足労いただきありがとうございます」

 落ち着いた低めの声が、耳に心地いい。相変わらず立ってるだけで絵になる人だ。

 少し明るい茶髪をさらりと流したミディアムヘアに、切れ長の優しげな瞳。スーツ越しでも伝わるほどスラリとした長身と、落ち着いて柔らかな物腰。まるで雑誌の広告から抜け出してきたような甘いマスクのイケメン。

 まあ、無理もないか。

 LUNARIA社長秘書、秋月綴あきづきつづるは元々LUNARIAのイメージモデルだったんだから。

 雑誌や広告でもよく見かけた人気モデルだったのに、大学卒業と同時に突然、LUNARIAの社長秘書に就任した。
 時折人懐っこい、年下ワンコ系みたいに感じるのは彼が私より年下だからかもしれない。
 
「こちらこそ、いつもお世話になっております。本日はよろしくお願いいたします」

 秋月さんの挨拶に椛乃社長が静かに応じ、私もすぐにその隣で会釈する。

「お荷物お持ちしましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 秋月さんがスマートに椛乃社長のバッグを受け取ろうとするのもいつものこと。だけど毎回椛乃社長はそれを断る。それとほぼ同時に後ろから小さく声が背中に突き刺さった。

 振り返ると、何度か見たことがあるLUNARIAの男性社員達だ。私と椛乃社長を見て、頬を緩めて嬉しそうに笑っている。口角上げて微笑み返しながらペコリと会釈をすれば彼らはますます機嫌が良さそうに顔を見合わせた。

 まるで“推し”に遭遇したかのようなテンションに、  私も思わず口角が上がってしまう。――こういうの、悪くない。
 
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