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3 信頼と不満の会議室
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しおりを挟む「さすが花園のお2人ですね。今日はうちの社員もお2人が見えるとのことで朝から気合が入ってます」
エレベーターへと向かう途中、すれ違う度に振り返るオフィスの男性社員達を見て秋月さんが口を開く。後ろを歩く私達に聞こえるように言ったのはわざとな気がする。
「私達が花園なら久世社長と秋月さんも花園ですよ」
だから言い返してみる。
「久世社長と秋月さんがうちにいらした時だって、うちの女性社員はウキウキしてますよ」
「そうですか。嬉しいですね」
ちょっとした嫌味のつもりだった秋月さんには通用しない。甘いイケメンが「嬉しいです」とはにかむように笑うとさすがの私もちょっとドキッとする。それぐらい秋月さんはかっこいい。
それにしても花園って……少女漫画じゃあるまいし。
私の名前が茉乃。そして社長が椛乃。茉にはジャスミンの意味、椛はもみじ。2人とも花の名前が入っている。
椛乃社長はどこか儚げな美人。そして私も見た目には自信がある。つまり、私と椛乃が並べばそこは花畑のように美しい空間ってこと。
誰か言い出したかは知らない。
だけどLUNARIAの男性社員が私達のことを『花園』って呼んで、「今日は花園が来るぞ」なんて言われていることも知っている。
椛乃社長はどう思っているかわからないけど、正直私は――そう呼ばれて悪い気はしない。ちらほやされるのは昔から大好き。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
エレベーターが開いて、秋月さんに促されてエレベーターの中へ。LUNARIAのオフィスはこのビルの高層階にある。3フロアがオフィスとなっていて向かうのは最も高い階。社長室や応接室などが並ぶフロアで、打ち合わせ用の会議室もある。
「久世は先ほど別件の打ち合わせが終えたばかりですが、予定通りにスタート出来るかと思います」
「相変わらずお忙しいみたいですね。今日もお時間いただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ急に開始時間を変更して申し訳ございません。九重社長は、ご都合など問題なかったでしょうか?」
エレベーターの中で椛乃社長と秋月さんの何気ない会話に耳を傾ける。すると椛乃社長がちらりと私を見た。え? なに?
「LUNARIAとのミーティングは長引く時もあるので、黒瀬さんが余裕持ったスケジュールリングしてくれてるんです。だから多少の変更なら問題ありません。ね?」
「はい、もちろんです。以前予定より2時間オーバーした時のこともありましたし、秘書として当然」
人前で褒められてまたちょっといい気分になる。こうやって椛乃社長はいつだって私を立ててくれる。嫌味なところひとつない。だから尽くしたくなる。
自慢げに声を弾ませると秋月さんは「そういうこともありましたね」と懐かしむ。
「でも今日は大事な予定があるから、さすがに2時間オーバーは勘弁してほしいです。ミーティング前にちゃーんと久世社長に言い聞かせておいてください」
ネイルサロンの予約まで残り約3時間半。椛乃社長にとって大切なミーティングを終わらせて今日は爪を可愛くして帰ろう。
「さくっと終わらせちゃいましょうね、椛乃社長!」
声を弾ませると椛乃社長は「こらこら」と私をたしなめる。だけど秋月さんは何も言わず、その場の雰囲気を悪くしないようにいつも通りの柔らかくてどこか人懐っこい笑みを浮かべていた。
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