わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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3 信頼と不満の会議室

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 時間通りに始まった定期ミーティング。

 資料が手元に配られると、椛乃社長と久世社長がそれぞれ手を伸ばす。ページをめくる音だけが静かに響き、自然と室内の空気が引き締まっていく。私もそれに続いて、LUNARIA側の資料に手を伸ばした。

「先月のYoruiブランドの売上推移です。キャンペーン施策が反映された週にピークが見られましたが、その後はやや落ち着きました」

 椛乃社長が穏やかな声で報告すると、久世社長は資料に一瞥をくれたあと、静かに口を開く。


「売上自体は計画比104%。数字としては及第点だ。ただ……広告からの回遊率が鈍化している点は見過ごせない」

 ――ぴたり、と図星。

 さすがに鋭い。指摘されたその部分は、私も少し気になっていた箇所だった。けれど、久世社長にそう言われると“圧”の重みが違う。

「そこは反省点ですね。新規ターゲット層へのアプローチが一時的に薄れていました。次回は、パートナーインフルエンサーの選定基準を見直すべきだと考えています」

 椛乃社長は動じず、けれど柔らかく返す。その姿勢に、隣で聞いていた私の背筋も自然と伸びた。

 彼女はよく“儚げで華奢なお嬢様”だと誤解される。でもそれは、ただの見た目の印象だけ。
 本当の椛乃社長は、こうして理詰めの久世社長と対等に話せる芯の強い人だ。決して“お飾り社長”なんかじゃない。

「いい判断です。Yoruiの軸をぶらさず、新しさだけを取り入れる。それが理想だ」
「そう言っていただけるなら、嬉しいです」

 静かなやり取り。けれどその中には、確かな信頼と敬意が通っている。
 言葉が多くなくても、お互いの言いたいことを理解している――そんな空気感だった。

 まるで、パズルのピースがぴたりと噛み合っていくような感覚。
 久世社長の言葉は論理的でシビアだけど、間違ってはいない。

「秋の夜用マスクの開発状況は?」

「香りのブレンドに少しだけ苦戦しています。現在は試作第三段階ですが、最終選定に悩んでいて……」
「サンプル、後日社内で預かります。分析データも添えていただければ、感性とは別の視点でフィードバックを返せるかと」

 ――冷たく聞こえるのに、協力的。
 それがこの人のやり方なんだろう。理屈で積み上げるそのスタイルの中に、静かな信頼がある。

「ありがとうございます。いつも頼ってばかりで……」
「お互い様です。貴社の感性は、当社には再現できない。だからこそ価値がある」

 久世社長が――椛乃社長を、褒めた。

 めちゃくちゃ淡々としてるけど、あれはもう完全に“褒めてる”。
 そういえば前に、LUNARIA社員と話したときに聞いたことがある。
 久世社長は冷たいし完璧主義だけど、ちゃんとしていれば認めてくれる。アメとムチのバランスが絶妙だって。

「では次に――」

 2人のやり取りに耳を傾けていた私に、ふいに冷たい視線が飛ぶ。

 ――まただ。また品定めするみたいな目で見てくる。

 ちょっと怖くて、心臓がドキリと跳ねた。
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