12 / 109
3 信頼と不満の会議室
4
しおりを挟む時間通りに始まった定期ミーティング。
資料が手元に配られると、椛乃社長と久世社長がそれぞれ手を伸ばす。ページをめくる音だけが静かに響き、自然と室内の空気が引き締まっていく。私もそれに続いて、LUNARIA側の資料に手を伸ばした。
「先月のYoruiブランドの売上推移です。キャンペーン施策が反映された週にピークが見られましたが、その後はやや落ち着きました」
椛乃社長が穏やかな声で報告すると、久世社長は資料に一瞥をくれたあと、静かに口を開く。
「売上自体は計画比104%。数字としては及第点だ。ただ……広告からの回遊率が鈍化している点は見過ごせない」
――ぴたり、と図星。
さすがに鋭い。指摘されたその部分は、私も少し気になっていた箇所だった。けれど、久世社長にそう言われると“圧”の重みが違う。
「そこは反省点ですね。新規ターゲット層へのアプローチが一時的に薄れていました。次回は、パートナーインフルエンサーの選定基準を見直すべきだと考えています」
椛乃社長は動じず、けれど柔らかく返す。その姿勢に、隣で聞いていた私の背筋も自然と伸びた。
彼女はよく“儚げで華奢なお嬢様”だと誤解される。でもそれは、ただの見た目の印象だけ。
本当の椛乃社長は、こうして理詰めの久世社長と対等に話せる芯の強い人だ。決して“お飾り社長”なんかじゃない。
「いい判断です。Yoruiの軸をぶらさず、新しさだけを取り入れる。それが理想だ」
「そう言っていただけるなら、嬉しいです」
静かなやり取り。けれどその中には、確かな信頼と敬意が通っている。
言葉が多くなくても、お互いの言いたいことを理解している――そんな空気感だった。
まるで、パズルのピースがぴたりと噛み合っていくような感覚。
久世社長の言葉は論理的でシビアだけど、間違ってはいない。
「秋の夜用マスクの開発状況は?」
「香りのブレンドに少しだけ苦戦しています。現在は試作第三段階ですが、最終選定に悩んでいて……」
「サンプル、後日社内で預かります。分析データも添えていただければ、感性とは別の視点でフィードバックを返せるかと」
――冷たく聞こえるのに、協力的。
それがこの人のやり方なんだろう。理屈で積み上げるそのスタイルの中に、静かな信頼がある。
「ありがとうございます。いつも頼ってばかりで……」
「お互い様です。貴社の感性は、当社には再現できない。だからこそ価値がある」
久世社長が――椛乃社長を、褒めた。
めちゃくちゃ淡々としてるけど、あれはもう完全に“褒めてる”。
そういえば前に、LUNARIA社員と話したときに聞いたことがある。
久世社長は冷たいし完璧主義だけど、ちゃんとしていれば認めてくれる。アメとムチのバランスが絶妙だって。
「では次に――」
2人のやり取りに耳を傾けていた私に、ふいに冷たい視線が飛ぶ。
――まただ。また品定めするみたいな目で見てくる。
ちょっと怖くて、心臓がドキリと跳ねた。
0
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。
まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。
今日は同期飲み会だった。
後輩のミスで行けたのは本当に最後。
飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。
彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。
きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。
けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。
でも、あれから変わった私なら……。
******
2021/05/29 公開
******
表紙 いもこは妹pixivID:11163077
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる