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4 冗談のつもりだったのに
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しおりを挟むエレベーターを降りて、再びLUNARIAのフロアへ。真っすぐ社長室へと向かう間も緊張のせいでちょっとドキドキしてる。
「椛乃社長に渡すもの受け取るだけ。受け取ったらお礼言ってすぐ帰ればいい」
そう、さっと行って、さっと帰ればいいだけ。なのに、なんでこんなに心臓がバクバクしてるんだろう。
重厚感のある社長室の前に立って深呼吸を数回。よし。
コンコンコン、とノックを3回。その後、笑顔で声のトーンをひとつ上げた。
「COCONOEの黒瀬です」
名乗って、ドアノブに手を伸ばす。入っていいかな? 考えること数秒。足音が近づいてくると、重たい社長室のドアがそっと開いた。
「入れ。秋月から聞いている」
会議中と変わらぬ低くて、冷たく感じる声。会議が終わっても気を抜いてないのか、ビシッと着こなしたスーツ姿は変わりない。
「失礼します……」
促されるまま、社長室へと足を踏み入れる。一面ガラス張りの窓からは都会のオフィス外が一望できる。大きさ的にはウチの社長室と同じぐらいの広さ。社長用デスクに、応接用のソファやローテーブル。違うのは色だろうか。
椛乃社長の社長室は全体的に白でまとめられていて、光が優しく回る。だけどここは違う。
黒を基調にした壁と家具に、鈍い金属のような静けさが漂っている。久世社長にはお似合いだけど、来るたびに背筋が伸びる。
「それで……社長にお渡しするものって……?」
「こっちだ」
久世社長の背中を追いかける。後ろから見上げると本当に背が高い。
久世社長が手を伸ばしたのはデスクの端に置いてあった黒い紙袋。『LUNARIA Core』のロゴがお洒落でいつも目を惹いちゃう。
「今度ウチで発売予定の商品だ。LUNARIA Core発の女性用ナイトケア用品のサンプルだ」
「え? いいんですか?」
てっきり菓子箱ぐらいかと思っていたので久世社長の説明に驚いた。
LUNARIA CoreはLUNARIAの主力ブランドのひとつで、高機能・シンプル設計・モノトーンパッケージ。肌の本質に働きかけるスキンケアシリーズ。
基本的にメンズ向けスキンケアシリーズだったが、女性向けの商品を開発していることは知っていた。
サンプルでもそれを貰えるなんて驚きだ。
それが顔に出たのだろう。久世社長の視線が私へと落ちる。
「本当に使用感を知りたいのは、"使う女性側の声"だ」
「……ありがとうございます。九重にも私からお渡しします」
「ああ。特に黒瀬秘書は、忖度しない意見をくれるからな。何か気になる点があればうちの社員に伝えろ」
「……わかりました」
説得力あるような言い方――だけどちょっとトゲがある言い方なのが気になる。だって、まるで私がズケズケとクレーム言うみたいな言い方酷い。
確かに思ったことはちゃんと言うタイプだけど、どれも事実だもん。
「……不満そうだな」
「いえ……」
すぐ否定したが、図星でちょっと頬が膨らむ。すると久世社長の質問が続いた。
「ネイルはいいのか?」
「ご心配しなくてもちゃーんと行きますよ」
まるで嫌味を言われてるみたいで、反射的に嫌味を返す。ムカついたので、私はにっこりと笑って久世社長を見上げてやった。
椛乃社長が見たら、絶対にあとで「その態度はやめた方がいいかもよ」ってやんわりと注意されるやつ。
でも、今はそれでもいい。
負けたくなかった。なにに、って……自分でもわからないけど。
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