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6 逃げられない記憶
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しおりを挟むどうして朝からこんなにバタバタしているか。理由は昨夜あんまり眠れなかったからだ。
なぜ、昨夜眠れなかったか。――久世社長のせいだ。
やだ、早くいなくなって……!
立ち上がったパソコン画面に久世社長の姿が思い浮かぶ。こんなの嫌なのに。もうずっと――久世社長の顔と声が頭から離れない。それと……あの指の感触も。
「……最悪」
ぽつりと零れる悔しさ。もう1週間経ったのにまだ忘れられないなんて……最悪だしどうかしてる。
1週間前、売り言葉に買い言葉でLUNARIAの久世社長に……一方的にイカされた。馬鹿にされて、見下されたような言い方にムカついて挑発したのは私。だけどまさか本当にそうなるなんて……。
誰が来るかわからない社長室。デスクを背に身体を撫でられて――それから、久世社長の手が私の中に……。
「……っ!」
やだやだ。思い出しただけでムカつく。だけどゾクリって腰の辺りが疼いてしまったのも事実。
あの冷徹社長の支配的な目に見下されて、スーツ越しでも分かる鍛えられた身体に挟まれて――何度も耳元に落とされた命令のような低い声を一日中思い出す。
お陰で昨日のあまり眠れなくて、朝寝坊。だからこんなにもバタバタした朝を過している。
あの後、逃げるようにLUNARIAを後にしてからは、久世社長とは顔を合わせていない。
もちろん、こんなこと――椛乃社長には言えるわけがない。忘れるのが一番だってずっと言い聞かせてるのに。言い聞かせれば言い聞かせる程、久世社長を思い出してしまう。
あんな屈辱的なことをされたのは初めて。相手は苦手だと思っていた久世社長。まさかあんな風に取引先の社長秘書にて手を出す人だなんて思ってもなかった。仕事が一番。女に興味はありませんって顔しておいて――。
「……っ、もう~~!」
急いでメールチェックをしないといけないのに集中出来ない。この一週間ずっとこうだ。
それに何が一番悔しいって……。
あの日――久世社長の指が触れただけで身体がじんって熱くなって、嫌な筈なのに本気で抵抗出来なかった。指に翻弄されて、簡単に絶頂へと導かれてしまった。
まるで自分の身体じゃないみたいだった。
経験がない訳じゃない。ここ数年真剣な付き合いはないけど、私はこの見た目だしモテる。
だけどあんな風に乱れたのは初めてだったかもしれない。しかも苦手な相手に。いや、訂正――今はもう嫌い。
その嫌いな相手に翻弄されて、気持ちいいと思ってしまった。
それが何よりも信じられない。
「……集中しないと」
小さな気合を落とし、背筋をピンッと伸ばす。さて、メールを――と思った時には椛乃社長が出社したという電話が受付からかかって来た。
ああ、どうしよう。結局何も出来なかった。――今日も、また。
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