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6 逃げられない記憶
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しおりを挟む「椛乃社長おはようございます」
「おはよう。大丈夫?」
「え?」
いつも通りエレベーターの前で椛乃社長を出迎える。軽い会釈と朝の挨拶。だけど椛乃社長のいきなりの確認にきょとんと目が丸くなった。
「なにがですか?」
さっき鏡を見て、見た目は整えたはず。変なところなんてない。秘書室を出る前に久世社長の面影はきっぱりと消して、仕事に集中するって気合を入れ直した。だからいつも通りの筈なのに。
「受付の市村さんが慌てて出勤してきたって言ってたから」
「あー……すみません。ちょっと今日寝すぎちゃって」
そんなこと、言わなくてもいいのに。椛乃さんに朝からバタバタしてたなんて知られたくない。朝から余裕ある秘書だって思われたいのに、今日に限ってそれは無理だったみたい。
市村さん、そういうの言っちゃうタイプだったんだ。あとで軽く言っとかなきゃ。
「お肌の為にしっかり寝る茉乃ちゃんが珍しく夜更かしでもしたの?」
「まあ……そんなところです。けど準備はばっちりですよ」
笑顔で椛乃社長に問題ないとアピールしながら、社長室へと進む。「私も昨日ドラマ見ててちょっと寝るの遅くなっちゃったんだよね」とまるでフォローしてくれるかのような椛乃社長にちょっと救われた。
社長室につくと、椛乃社長がデスクのパソコンを立ち上げる。そのタイミングで私もスケジュール帳を開いた。いつものスケジュールチェックの時間だ。
「本日は10時よりマーケティング部との定例ミーティング。午後1時より FIORE BLANC開発部との定例ミーティングです。18時よりB社の福本専務との会食予定となっております。会食場所は恵比寿なので余裕を持って17時20分に出るよう運転手佐藤さんにお伝えしています。会食には私も同席いたします。――……っ!」
そこまでスケジュールを伝えると、ぽんっと突然久世社長の顔が頭に浮かぶ。
今日会食予定の恵比寿はLUNARIAのオフィスがある街。たったそれだけなのに、またあの人の声と指を思い出す。きゅっと唇を噛んでないと叫んでしまいそう。
「福本専務への手土産は用意してる?」
「はい。福本専務は和菓子が好きとのことで、老舗和菓子店のギフトボックスを用意しております。また娘さんが20代と聞いているので、ささやかながらうちの商品を幾つかピックアップして同封する予定です」
「いつもながらありがとう。助かる」
よかった。一瞬変な感じになったの、椛乃社長にはバレてないみたい。
「今日も一日よろしくね、茉乃ちゃん」
「はい、椛乃社長」
朝からバタバタと私と違って、いつも通りの柔らかくて綺麗な笑顔の椛乃社長。
私もこれぐらい落ち着けたらいいのに――そう思ったところで、もう遅い。
だって久世社長の顔が頭から消えてくれないだもん。
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