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6 逃げられない記憶
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しおりを挟む「え? 結局合コンの人と付き合ってるんですか?」
「うん、あのあと何回かデートして」
順調に仕事をこなす午後、2件の定例ミーティングを終えた私は秘書室で議事録作りに励んでいた。
マーケティング部、開発部との定例ミーティングの要約や、質疑応答の内容など。これがあると、次回の会議の時にも振り返ることが出来るし、椛乃社長の負担を減らせる。
そんな私の隣のデスクに座るのが2歳年上の役員秘書。その彼女――高梨香澄さんからの報告には驚いた。
先輩秘書である香澄さんはザ・キャリアウーマンって感じで、専務と常務の2人を担当している優秀な秘書。秘書としてのノウハウは香澄さんから教えてもらったことが多い。
時々プライベートでの付き合いもあって、先月一緒に合コンに行ったのは記憶に新しい。合コン相手はある食品会社の人で、香澄さんの友達の紹介だった。
合コン自体は盛り上がったし、料理もおいしかった。私は何人かから連絡先を聞かれたけど、後日会いたいと思う人はいなかったし、明らかにホテル狙いの人もいた。すっかり忘れていたけど、そうか……香澄さんは。
「香澄さんの隣に座ってた人ですか?」
「そう。2歳上なんだけど、今のところ関係も落ち着いてていい感じ」
「おめでとうございます!」
「ありがとう茉乃ちゃん」
香澄さん彼氏途切れないんだよな……。この2年間、彼氏がいなかった時期はほとんどない。キャリアウーマンで、恋愛も積極的なのは香澄さんの魅力のひとつってことみたい。
一方の私はこの2年ぐらい彼氏はいない。
前に付き合ってたのは仕事関係で出会った人だけど、相手が地方に転勤なったのをきっかけに別れた。元々向こうからの積極的なアプローチに負けて付き合うことになったのもあって気持ちがすごいあった訳ではない。だから別れ話を切り出すのは簡単だった。
丁度そのタイミングで椛乃社長に誘われて秘書になったから、それ以降は仕事一筋――ってことにはなってる。
けれど定期的に合コンも参加するし、クラブにだっていく。この見た目だもん。私はモテる。ワンナイトの経験だってある。だけど――どうしても、今は『新しい恋』って感じに気持ちがならない。
――俺が調教してやる。
「――っ!」
ゾクリとする声の記憶に、背筋が震える。
「茉乃ちゃん?」
「あ、なんでもないです! 羨ましいなあって!」
今日何度目かわからない。久世社長の顔や声を思い出すたび、じんわりと熱が這い上がってくる。
「さぁーってこれ仕上げないと!」
「社長秘書も大変だね」
頑張ります、とわざとらしく気合いを入れるように声を弾ませてパソコンと手元の資料に意識を集中させる。
お願いだから出てって。忘れたいんだから!
軽く頭を振って、集中しようとする。けど出来ない。そしてその理由はわかっている。
――明日久世社長がウチに来るなんて……。
パソコンの端に貼られた1枚の付箋が視界に入り込む度、明日の予定を思い出してしまう。
久世社長に触れられたあの日に急遽組んだ合同ミーティング。お互いの仕事を整理した結果、明日14時にLUNARIA側がウチにくることで話が纏まった。
つまり嫌でも久世社長と顔を合わせないといけない。ほんと最悪。
香澄さんにバレないように小さく息を吐く。これ以上心を乱されたくなくて、貼っていた付箋を剥がすとゴミ箱に捨ててやった。
どうせ――どうあがいてもこの予定は忘れられないんだから。
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