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6 逃げられない記憶
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しおりを挟む集中出来てたのか、出来てなかったのかわからない。だけどなんとか書類業務は終了。よかった、なんとか終わって。
ほっとしながら時間を確認するとまもなく5時。うん、いい時間だ。
今日の最後の仕事は椛乃社長の会食への同席。運転手が車をエントランスに回る時間までに片付けて、社長を迎えにいって、エントランスに降りたら丁度いい時間。
午後同じく書類業務をこなしていた香澄さんも今夜は会食でさっき出て行った。行先は麻布のフレンチだって。
いいなあフレンチ羨ましい。
私と椛乃社長が今日行く日本食レストランも健康的で美味しいからいいけど。最近先方の希望が和食が多いんだよね。フレンチとかイタリアンとかがいいな――なんていち秘書のわがままが通るなら、そうしてもらいたい。――まあ無理だろうけど。思うだけなら自由だもん。
「あ、忘れない内に――」
立ち上がって、秘書室入り口近くのスケジュールをボードに歩み寄る。
ずらりと秘書の名前が並ぶボードの一番下の列が私の場所。”社長”、”会食同行”、それから”直帰”のマグネットを3つ並べる。
これで私は社長の会食同行から直帰する、とみんなが分かる。香澄さんの欄も同じマグネットが並んでいた。
これでよし。簡単にメイクを直す時間も何とか確保できそう。バッグの中から化粧ポーチを取り出して――っと思った時、まだ電源を落としてないパソコンが新しいメールを受信した。
よりによって今? タイミング悪すぎ……と心の中で毒づきながらも座り直して、メールBOXをクリックする。――だけどすぐにそれを後悔した。
画面に表示された差出人を見て、思考が止まる。
「……なんで……?」
小さく零れた声が震える。一気に頬に熱が集まって、頭の中にまたポンッと久世社長の顔を浮かび上がる。
差出人:LUNARIA 久世惟真
件名:わがまま秘書
わかっていると思うが、理由をつけて明日逃げようとするな。
これは命令だ。
なに……このメール。
声に出して読めるわけがない。一気に心臓の辺りが熱くなって、リズムが早くなって、自分の身体を抱き締めたい感覚に襲われる。
こんなのズルい。
忘れたいのに。こんなメール。ずるすぎる。
明日のミーティング場所はウチだからあれこれ理由を作ったらあの人に会うのを避けられるかもと考えてた。その私の考えを――あの人は読んでる。まるで浅はかとでも言いたいかのように。
「っ、なんなのあの人……」
あんなこと二度とない。なのに――どうしても考えちゃう。
――お前のようなわがままな秘書は――俺が調教してやる。
あの言葉の意味を、私の身体は――もう、知ってしまっているのかもしれない。
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