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7 支配者再び
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しおりを挟む朝から心臓の音がうるさくて仕方ない。
ちらっと、視線を落としてお気に入りの腕時計で時間を確認する。午後1時28分。さっきから2分しか変わってない。
ってことは2分経たずに時計を見てるってこと? なんか今日は時間の流れが遅い気がする。
「茉乃ちゃん?」
「――へ? ……あ、はい! なんですか?」
柔らかな声にはっとして顔を上げる。ここは社長室で目の前には椛乃社長のデスク。デスクチェアに座った椛乃社長が不思議そうに私を見上げていて、ここ数分話が全く耳に入ってなかったことを悟る。
「大丈夫?」
「すみません! ちょっと今日も寝不足で……」
「あんまり無理しないでね」
「はい……すみません」
これが普通の上司なら「ちゃんと聞きなさい!」と叱責される場面だろう。なのに椛乃社長は怒るどころか私を心配してくれて、その瞳に宿る心配の色に申し訳なさがつのる。
本当に椛乃社長は優しい。だからこの人が大好き。ずっとついていきたい。
だけど今日だけは集中出来てないことを許してもらいたい。
だって――もうすぐ久世社長がくる。
すでにLUNARIAの社員も何人か来ていて、ウチの社員達と事前ミーティングをしているみたい。あとは時間通りに久世社長と秋月さんがくれば、会議室に案内して――。そこまで考えると嫌でもあの人の顔を思い浮かべてしまう。
そのせいで、朝から今日はずっとソワソワしてる。――訂正。あの日からずっとソワソワしてる。
昨日届いた逃げるな命令のメールのせいで、余計に緊張しちゃって、午前中も仕事にあまり集中出来なかった。
「そう言えば、茉乃ちゃん今日珍しくスラックスなんだね」
「あ、はい。たまにはいいかなって!」
椛乃社長が珍しそうに私の足元を見る。同じ言葉を今日3回は聞いた気がする。
色々悩んだ結果、今日はパンツスタイルを選んだ。私にしてはかなり珍しい選択だった。
グレイッシュなセンタープレス入りのワイドスラックス。脚のラインを拾いすぎないものを選んだつもりだけど……ヒールを合わせると、いつもよりなんだか脚が長く見える。
トップスは黒のノーカラーブラウス。とろみ素材で、腕と鎖骨あたりが少し透けてる。パンツがハイウエストなのでトップスはイン。これで全体が締まって見える。
髪はゆるく巻いて、低めにまとめた。小ぶりのピアスに、低めのヒール。いつもより控えめな装いに、自分で少し驚く。
思ったより似合っているが――私らしくない。
だけど久世社長が来るとわかっていて、身構えてしまったのも事実。
スカートや前回みたいなショートパンツは簡単に触れられてしまう。だけどスラックスならそうはいかない。
あまりにも単純な理由だけど、このスタイルになったのは私なりに全部、ちゃんと理由があるの。
「茉乃ちゃんスタイルいいし、何着ても似合うから、そのスタイルも素敵」
「ありがとうございます。社長もいつもスタイル抜群で羨ましいです」
そんなやり取りでなんとか気持ちを落ち着ける。それでもまた――すぐに時間を確認してしまった。
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