わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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9 このままじゃ

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 こんなの私じゃない。

 午前7時半過ぎ。いつも通り、着替えて、メイクもして、髪もセットしたあとの最終チェック。丸いフォルムがお気に入りの全身鏡の前に立ってクルっと一回転。うん、今日もバッチリ決まってる――っていつもなら思うのに。

「……やっぱり別のにしようかな……」

 鏡に映る自分が何だか変な気がする。

 今日のコーデはくすみピンクのパフスリーブのシアーブラウスに、アイボリーのツイードショートパンツを合わせている。メイクもピンク系でまとめて、髪は軽く巻いてハーフアップ。アクセサリーは首に細いゴールドのネックレスと耳には小ぶりなフープピアス。

 今まで何度も着たこのコーデ。どちらかと言えばお気に入りのスタイル。
 なのに今日は――鏡に映る自分がしっくりこない。

「顔……赤いから?」

 チークをしたせいで余計に頬が赤く染まっている気がする。どうしよう、メイクやり直そうかな。けどそこまでの時間はないかも……それに髪もハーフアップじゃなくてお団子とかの方がいいかな?
 
 どうしよう……決まんないよ。

「……最悪」

 朝の準備時間は好きな時間。可愛い服とメイクで自分を着飾っていく瞬間が大好き。なのに――ここ最近は全然ワクワクしない。

「全部久世社長のせいだ……!」

 名前を出した瞬間、また顔に熱が集まる。鏡に映った顔は肌の艶感が変わった気がする。それに――目が……ずっと熱っぽく潤んでる気がする。

 ――今日は随分脚を出してるな。触られたかったのか?
 ――随分、脱がせやすいブラウスだ。すぐ指が入る。そうして欲しかったのか?
 ――うなじを見せつけてどうするつもりだった?

 身体に刻まれた低音を思い出し、口紅を塗ったばかりの唇を軽く噛む。やだ、消えてって言ってるのに。

 ――わがまま秘書。こんなにも感じやすいとはな。

「……っ、やだって……」

 そう願っても、あの声が、あの指が、離れてくれない。
 思い出しただけで身体がゾクゾクしてくる。何を着ても、どんなに身構えても、久世社長のいい様に解釈されてしまった。上手く言葉には出来ないけど……どんなに着飾っても、結局は久世社長に“そういう目”で見られる気がしてしまう。
 朝からこんなことで時間を使いたくないのに。
 
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