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10 支配のキス
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しおりを挟む隣の高橋さんはいい人だと思う。話も面白いし、話題も膨らませてくれる。
「休みの日は俺も結構外出ることが多いかも。新しい場所行くの好きでさ、この前中目黒に出来たピザ屋も行ったよ」
「え? それって最近バズってるところです? 生地サクサクで有名な?」
「そうそう。結構並んだけど、その価値はあった。茉乃ちゃんも行ってみるべきだよ」
趣味はレストランやカフェを巡ること。本を読むことも好きで知識は豊富。だけど気取ってはない。格好もスマートに決めているが、腕時計やアクセサリーも嫌味な程着飾った感じはない。
それでも、さっきから時折高橋さんの話が耳を通り抜けちゃう。
合コンに参加することになったきっかけは香澄さんからの誘いだった。
数日前に「茉乃ちゃん合コンまた興味ある?」と誘われて、断る理由はひとつもなかった。
だって私はシングル。それでいて――今ちょっと昔関係を持った人の影がちらついている。更には、現在進行形で取引先の社長とよくわからない関係になってるし、こんな時は新しい出会いを求めてしまうのが普通だろう。
都合のいい女にはなりたくない。だったら、ちゃんとした相手を探せばいい――なんて考えは浅はかだったかもしれない。
それでも、前回の合コンでいい出会いがあった香澄さんを見てると私もそう言う人を見つけたいって、ちょっと思った。だからこうやって合コンに参加した。
実際参加して正解だったと思う。料理もお酒も美味しいし、当たりの相手。なのに……どうしても久世社長の顔がチラついて、そわそわしちゃう。
多分高橋さんが久世社長とは全然違うタイプの人だからだ。
久世社長って……合コンとか絶対こないタイプだよね。 あの見た目だし。創業5年のLUNARIA快進撃は業界でも注目されてる。その会社を立ち上げたカリスマ性とあの見た目を女性が放っておくはずない。
だけど久世社長が合コンなんて想像出来ない。誘っても絶対来ないタイプだろうし……そう言えば久世社長には女性の噂がない。あの感じだから隠してるだけかもしれないけど……って、ちょっと待って。
「……茉乃ちゃん」
「ごめんなさい。ちょっと飲み過ぎたかも。すぐ戻ってきますね」
合コンの最中、とんでもないことに気づき思わず席を立つ。高橋さんに笑顔を向けると、向かったのはトイレだったけど、その前の廊下に立てば小さな深呼吸を数回。
「彼女いるとか……ないよね?」
久世社長に4回も好きなように身体を弄ばれた。だけど――まったくもって久世社長の考えていることはわからない。だけど……私の身体をあんなにも弄んでおいて実は本命がいるとかだったら……それこそあの人と一緒じゃん。
「……どうしよ」
一度気になったら、頭から簡単には離れない。
久世社長のことを忘れたいと願っている。なのに、彼女がいたらと思うとまた胸の辺りが変な感じになる。せっかく香澄さんに誘ってもらった合コンなのに。
高橋さんだっていい感じだし、あとで連絡先交換して今度2人で会うのだってありだ。
「……久世社長のバカ。大っ嫌い」
まるで誰かを待っているかのように廊下の壁に背を預けて気持ちを落ち着ける。さっさと気持ち落ち着けて帰らないと――そう思っていた時だった。人の気配に顔を上げる――すると。
「何をしている?」
「――え……?」
低い声がそっと、賑わう店内の賑やかさを消した。
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