わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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10 支配のキス

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「大丈夫? あ、ごめん話中だった?」
「……あ、ちょっと……」

 現れた高橋さんは久世社長と私を見て、少し気まずそうな顔を浮かべた。「お知り合い?」と顔に書いてあったので先手を打った。

「こちら取引先の方で……」
「そうなんですね。すみません、お邪魔して。――こんばんわ」

 私の簡単な紹介に高橋さんが久世社長を見上げる。丁寧な挨拶を聞いても久世社長の表情は変わらない。愛想悪いと思われても仕方ない表情で、高橋さんを一瞥する。

「……茉乃ちゃんこれ、水もらって来たから」
「あ、……ありがとうございます」

 高橋さんは本当に気が利く人みたい。手に持っていたのは水のグラス。私が飲み過ぎたって言って、店員さんに用意してもらったのだろう。こういうところ、凄く評価が高い。挨拶ひとつ返さない久世社長とは大違いだ。

「みんなにも言っておくね」
「あ、はい」

 平常心で返事が出来ず、なんとか声を絞り出す。そうすることしか出来なかった。

 高橋さんからグラスを受け取ると「失礼します」と彼は席へと戻って行く。残ったのは私と――明らかに何か言いたそうな顔で私を見下げる久世社長だけ。
 賑わう店内で私と彼の周りだけ切り取られた空間みたいに空気が冷たい。

 こんなの耐えられない……!

 沈黙の後、先に口を開いたのは久世社長だった。どうか高橋さんには触れないで――なんて願いは呆気なく打ち砕かれた。
 
「誰だ?」
「……久世社長には関係ありません」
「今のやり取りをみると友人じゃない。取引先なら九重社長もいるだろう。それにその場合はこちらにも紹介するのが普通だ。だとすれば――」
「っ……」
「合コンか?」
「な……っ、なんで!?」

 なんて鋭い推測。あっさりと合コン中だということを当てられてしまえば、体温が少し上がって頬が焼けるように熱くなる。

「まさか”他の男”と付き合うつもりか?」
「……っ、それは……!」
「答えろ」
「きゃっ……!」

 グラスから水が少し零れる。久世社長に手首を掴まれて、気がつけば壁と久世社長の間に挟まれている。そして――冷たい低音が近くなった。
 
「他の男と会ってるのか?」
「……久世社長には関係ないです……離してください……っ!」

 たまたま誰もないトイレ前の廊下。だけど賑わうほぼ満席の店内では誰が来るかもわからない。こんなところで、こんなこと――恥ずかしくて、無意識に足を閉じて身構えてしまう。

 だけどそんな自分がまるで期待してるみたいに思えて――私、そんな女じゃないのに。

「答えろ」
「……だったらなんなんですか?」

 低く、誘導されるような声。だけど悪いことをしてるわけじゃない。この人は私を都合のいい女扱いして、遊んでるだけ。だからこんな風に責められる理由なんてひとつもない。

 睨み返したつもり――だけど……その目には怯えが滲んでいそうで……悔しい。
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