49 / 109
11 戸惑いと日常のはざまで
1
しおりを挟むあのキスの熱が唇から離れてくれない。
「椛乃社長、繋がりました」
「ありがとう。これもう映ってるの?」
「はい、念の為音声だけは切ってます」
社長室のデスクで椛乃社長のパソコンをオンライン会議用のソフトに繋ぐ。ミーティングが始まるまであと10分。今のうちに資料の最終チェックをしておくべきだろう。
今日は珍しくLUNARIAとのオンラインミーティング。明後日に迫ったとある商談に向けての最終確認の予定だ。
大まかなことは詰めているが、念には念を入れての最終チェック。それをしたいと申し出たのは椛乃社長の方で、LUNARIA側に都合を合わせてもらった結果、社長同士が空いていた1時間を使ってオンライン開催することになった。
用意しておいた資料をデスクに置き、カメラには映らないが何があってもいいように隣には控えている予定。恐らくLUNARIA側の秋月さんも同じ。だけど――久世社長の姿はハッキリとパソコンに映る筈だ。
……まだ唇が熱い気がする。
無意識に唇に触れる。今日は少し色の濃い赤の口紅。だけど派手すぎものではない。濃いけど落ちついている、お気に入りの口紅のひとつ。……しまった。口紅ついちゃった。
薄く指についた色を慌ててティッシュで拭いて、ゴミ箱へ。
このままだと会議中持たない。だけど今回はオンラインだし、私はカメラに映らないし。多分きっと――何も起こらない。いや、絶対に起こるわけない。
久世社長の姿を見て身構えないで済むのは今日が初めてかもしれない。いつもはいつあの冷たい目で見られるかと思うと気が気じゃないから。
椛乃社長と軽く雑談していると、予定の数分前パソコンの画面が切り替わる。画面が切り替わり、現れたのは久世社長――ではなく、穏やかな笑みを浮かべた秋月さんだった。
「九重社長、お世話になっております。お待たせしてすみません」
ぱっと画面が明るくなった気配。いつものどこか人懐っこく柔らかく甘いマスクと、落ち着くような声に椛乃社長もすぐ微笑んだ。
「お世話になっております。こちらこそお忙しい中すみません」
「申し訳ございません。少し会議が押しまして、すぐ久世も来ますのでお待ちください」
秋月さんと椛乃社長のやり取りがひと段落した後、画面越しに軽く頭を下げた秋月さんは、私にも挨拶をくれた。だけどすぐに、また椛乃社長へと声をかけた。
「九重社長、今日もお綺麗ですね」
「……相変わらず口が上手いですね。けど……ありがとうございます」
「そのピアス初めて見ました。新しいものですか?」
「え? あ、はい。今日初めてつけて……」
「お似合いです」
秋月さんって本当スマート。元モデルだけあって女性の扱いが上手なのかな?
いつも自然な流れで椛乃社長を褒めてるし、私のことも結構褒めてくれる。話してるだけで自然と自己肯定感が上がっちゃう。それが秋月さんの魅力なんだろう。
つくづく思う、久世社長とは全然違う。久世社長はあんな風に褒めてくれない――っていうかあの人が私のこと褒めたことなんて一度もない。
なのにこの前――久世社長とキスをした。あれは……夢なんかじゃない。
0
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
6年分の遠回り~いまなら好きって言えるかも~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
私の身体を揺らす彼を、下から見ていた。
まさかあの彼と、こんな関係になるなんて思いもしない。
今日は同期飲み会だった。
後輩のミスで行けたのは本当に最後。
飲み足りないという私に彼は付き合ってくれた。
彼とは入社当時、部署は違ったが同じ仕事に携わっていた。
きっとあの頃のわたしは、彼が好きだったんだと思う。
けれど仕事で負けたくないなんて私のちっぽけなプライドのせいで、その一線は越えられなかった。
でも、あれから変わった私なら……。
******
2021/05/29 公開
******
表紙 いもこは妹pixivID:11163077
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ
慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。
その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは
仕事上でしか接点のない上司だった。
思っていることを口にするのが苦手
地味で大人しい司書
木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)
×
真面目で優しい千紗子の上司
知的で容姿端麗な課長
雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29)
胸を締め付ける切ない想いを
抱えているのはいったいどちらなのか———
「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」
「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」
「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」
真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。
**********
►Attention
※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです)
※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~
蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。
嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。
だから、仲の良い同期のままでいたい。
そう思っているのに。
今までと違う甘い視線で見つめられて、
“女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。
全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。
「勘違いじゃないから」
告白したい御曹司と
告白されたくない小ボケ女子
ラブバトル開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる