わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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11 戸惑いと日常のはざまで

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 あのキスの熱が唇から離れてくれない。

「椛乃社長、繋がりました」
「ありがとう。これもう映ってるの?」
「はい、念の為音声だけは切ってます」

 社長室のデスクで椛乃社長のパソコンをオンライン会議用のソフトに繋ぐ。ミーティングが始まるまであと10分。今のうちに資料の最終チェックをしておくべきだろう。
 
 今日は珍しくLUNARIAとのオンラインミーティング。明後日に迫ったとある商談に向けての最終確認の予定だ。

 大まかなことは詰めているが、念には念を入れての最終チェック。それをしたいと申し出たのは椛乃社長の方で、LUNARIA側に都合を合わせてもらった結果、社長同士が空いていた1時間を使ってオンライン開催することになった。

 用意しておいた資料をデスクに置き、カメラには映らないが何があってもいいように隣には控えている予定。恐らくLUNARIA側の秋月さんも同じ。だけど――久世社長の姿はハッキリとパソコンに映る筈だ。

 ……まだ唇が熱い気がする。

 無意識に唇に触れる。今日は少し色の濃い赤の口紅。だけど派手すぎものではない。濃いけど落ちついている、お気に入りの口紅のひとつ。……しまった。口紅ついちゃった。

 薄く指についた色を慌ててティッシュで拭いて、ゴミ箱へ。

 このままだと会議中持たない。だけど今回はオンラインだし、私はカメラに映らないし。多分きっと――何も起こらない。いや、絶対に起こるわけない。

 久世社長の姿を見て身構えないで済むのは今日が初めてかもしれない。いつもはいつあの冷たい目で見られるかと思うと気が気じゃないから。

 椛乃社長と軽く雑談していると、予定の数分前パソコンの画面が切り替わる。画面が切り替わり、現れたのは久世社長――ではなく、穏やかな笑みを浮かべた秋月さんだった。

「九重社長、お世話になっております。お待たせしてすみません」

 ぱっと画面が明るくなった気配。いつものどこか人懐っこく柔らかく甘いマスクと、落ち着くような声に椛乃社長もすぐ微笑んだ。

「お世話になっております。こちらこそお忙しい中すみません」
「申し訳ございません。少し会議が押しまして、すぐ久世も来ますのでお待ちください」

 秋月さんと椛乃社長のやり取りがひと段落した後、画面越しに軽く頭を下げた秋月さんは、私にも挨拶をくれた。だけどすぐに、また椛乃社長へと声をかけた。
 
「九重社長、今日もお綺麗ですね」
「……相変わらず口が上手いですね。けど……ありがとうございます」
「そのピアス初めて見ました。新しいものですか?」
「え? あ、はい。今日初めてつけて……」
「お似合いです」

 秋月さんって本当スマート。元モデルだけあって女性の扱いが上手なのかな? 

 いつも自然な流れで椛乃社長を褒めてるし、私のことも結構褒めてくれる。話してるだけで自然と自己肯定感が上がっちゃう。それが秋月さんの魅力なんだろう。

 つくづく思う、久世社長とは全然違う。久世社長はあんな風に褒めてくれない――っていうかあの人が私のこと褒めたことなんて一度もない。

 なのにこの前――久世社長とキスをした。あれは……夢なんかじゃない。

 
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