わがまま秘書は冷徹社長の独占愛に溺れていく

椿綾あこ

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11 戸惑いと日常のはざまで

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 あれは1週間前、先輩の香澄さんの誘いで行った合コンでの出来事だった。
 たまたま友人と同じ店に食事に来ていた久世社長とバッタリあって――。

 「……っ」

 思い出しただけで唇がじんわりと熱くなる。自然な流れで資料を見るふりをして、椛乃社長から顔を隠した。そうしないと「大丈夫?」って心配されそう。

 ――お前はもう俺のものだ。

 キスされる寸前、見つめられながら紡がれた言葉もまた頭から離れてくれない。
 ……あれは一体どういう意味?

 私は誰もものでもない。私が生意気で、挑発に乗った久世社長が一方的に手を出しているだけ。あの大きな手のひらと太い指でいいように私を弄んでるだけ――ただ、それだけ。

 なのにあんな独占宣言をされてびっくりしない人なんていない。
 まるで私が久世社長のものみたい。

 私はあくまで取引先の社長秘書。付き合ってる訳でもないし、第一……久世社長は私のこと嫌いな筈。生意気とか、わがままっていつも私を馬鹿にする。

 私だって……久世社長のことは好きじゃない。
 威圧的だし、瞳は冷たいし……。

 だけど指先ひとつとその声で私を翻弄する。それだけで混乱していたのに、今度はキスだ。

 しかも――キスを拒めなかった。

 冷たいはずの久世社長の唇は、思ったよりも温かくて。ただのキスなのに、胸の奥がじんわり痺れた。――それが余計に、怖かった。
 
 キスのあと、すぐに解放されて合コンには一応戻った。だけど集中なんて出来るわけがなかった。
 合コン相手の中でずっと話していて、好感度も高かった高橋さんと連絡先は交換したけど、特に連絡を取っているわけでもない。

 なんで、あんなキスを。……どうして、キスなんてされたんだろう。
 何の為に? あの人は私をどうしたいの?

 考えれば考えるほど、あの甘いキスを思い出して、久世社長のことを考えちゃう。だから今日も……例え画面越しでも久世社長の顔を見たら――。

「お待たせしてすいません。始めましょう」
「――っ!」

 秋月さんと椛乃社長の軽いやり取りの最中、低くて支配的な声が社長室に響く。それだけでドキリと心臓が音を立てて、息をするのを忘れてしまう。

「久世社長、お世話になっております。お忙しい中お時間をいただきありがとうございます」
「黒瀬秘書もそちらに?」
「はい、控えてます。黒瀬さん」

 椛乃社長に促されて、おずおずと一度画面に映る。画面の向こうにいる久世社長は今日は黒のスーツ。いつも通りビシッと決めていて――かっこいいのは認めざるを得ない。

「お世話になっております。よろしくお願いいたします」
「ああ」

 軽い会釈と共に挨拶をしてすぐに画面から消える。まともに様子を見ることが出来なかったのもまた、キスを思い出してしまったからだ。
 
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