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11 戸惑いと日常のはざまで
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しおりを挟む数分遅れで始まったオンラインミーティングは順調に進んだ。
「では数字の部分については私が説明します。九重社長は商品説明をお願いします」
「いいですね。数字に関する久世社長の説得力には私もいつも頼りにさせていただいてます」
「いえ、九重社長の丁寧な説明こそ、必要不可欠です」
社長同士がやり取りを重ねる中、私もメモを取りながら資料をチェックする。
明後日の商談上手くいくといいな。まあ、椛乃社長がいれば大丈夫か。
今回の商談相手は老舗百貨店。現在開発中のYoruiの秋冬ラインの取り扱いについての商談だ。
老舗だけあって慎重さと格式の高さがあり、とりわけ新ブランドの取り扱いについては厳しい。バイヤー達の目もかなり厳しいと業界では評判。
社長たちが直々に出向き直接交渉を行うのはそのせいだ。
だけど数年前よりCOCONOEの一部ブランドは取り扱ってもらっている。その立役者となったのが、まだ社長就任もしてなかった椛乃社長みたい。広報の傍ら、先代の仕事の一部を請け負っていた時、この案件を担当した。
先方のバイヤー陣は椛乃社長をかなり気に入っていて、本人もそれをわかっている。だからこそ今回の商談は「私がいかないとダメ」と何度も自分に言い聞かせていた。
久世社長も先方の厳しい目を知っている分、こうやって念入りにミーティングを重ねている。
……だめだ。どうしても見ちゃう。
ちらりとパソコンの画面を覗き込めば、久世社長の整った顔が映っている。いつもと変わりない姿。だけどなんとなく、画面越しだとその良さが半減してる気がする。
それでも、形のいい唇に何度も見てしまう。あの唇とキスしたって、考えるたびに身体が疼いて、あの日を思い出す。
散々身体を触られて、今さらキスぐらいなんてことないはず。なのに――ずっとドキドキしてる。こんなのまるで初めてのキスをした学生みたい。
「黒瀬さんから何か気になることある?」
「え? あ、えっと……」
考えこんでいると急に話を振られハッとする。慌てて資料を捲って予めの懸念点を探した。どこだっけ? ――あったこれだ。
「3ページ目の数字ですが、これがまだ確定じゃない推測の数字です。先方は数字に関してかなり厳しいので、ここはかなり指摘を受けるかと……」
「問題ない。現在進行している数字をリアルタイムで反映することは不可能だ。この推測にどう近づけるか、採算はあるのか、その部分はきちんと説明することで納得していただく」
椛乃社長に伝えたつもりが、返事は、パソコンの向こう側から久世社長の声だった。
「か、かしこまりました」
「他にはあるか?」
「いえ、ありません」
ありがとうございます、とお礼をひとつ。それからすぐにまた資料に目を落とした。
さすがの久世社長も今回の商談に関して少し懸念があるのか空気がちょっとだけピりついている気がする。
けど無理もない。バイヤー達に気に入られている椛乃社長と違って、久世社長のLUNARIA社は創業5年のまだまだ若い会社。
その成長ぶりは評価されている。だけどコラボブランドとはいえ、Yoruiの商品を取り扱うことにはかなり厳しい目を向けられるはず。
――無事にまとまりますように。
そんなことを思ってしまうのは椛乃社長の為だ。決して久世社長の為ではない。
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