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11 戸惑いと日常のはざまで
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しおりを挟む商談の準備はバッチリ。椛乃社長と久世社長も納得する形で準備を整え、厳しいバイヤー達をどう攻略するかしっかりと作戦を立てた。
だけど――こんな時に限って、トラブルが発生する。
「久世社長申し訳ございません」
商談当日。椛乃社長の申し訳なさそうな声が社長室に落とされた。受話器を手にする椛乃社長の表情は浮かなく、声のトーンも控えめ。聞いているこっちまで悲しくなっちゃう。
椛乃社長の父親、つまり先代の友人でもあるCOCONOE化粧品の長年の取引先の会長に不幸があったと連絡があったのは、ついさっきのことだ。
商談に向けて手土産を買いに出ていて、ちょうど戻ってきたところだった私も、今その訃報を聞いたばかりだ。
一度お会いしたことがあるが、気さくで親しみやすい人だった。椛乃社長からしても小さい頃からの知り合いだっただけで、突然の訃報に少し動揺しているのが声から感じられる。
だけどここで問題なのが、椛乃社長と先代社長が参列する通夜が今日の夕方6時からで、しかも場所が九州だということだ。
商談時間は午後3時。移動時間を考えると椛乃社長は商談に出ることは出来ない。
これはかなりの大ごと。今回の商談は椛乃社長がいるからこそ、話がまとまる可能性があるのに。社長がいないと先方の目はますます厳しくなっちゃう。
本当にタイミングが悪いとしていいようがない。
だからこうやって椛乃社長は久世社長に連絡をしている。
「私が伺わなければ、誠意が疑われてしまう立場にも関わらず本当に申し訳ございません。こちらのYorui担当者に同席するよう調整しております。……黒瀬ですか? いえ、今回は私と父のみ参列予定です」
椛乃社長の声に耳を傾けていると、ふいに名前が聞こえてきた。……なに?
「かしこまりました。でしたら黒瀬のみ向かわせます。……はい、14時15分ですね。お手数おかけして申し訳ございません。よろしくお願いいたします。……はい、はい。ありがとうございます。それでは失礼いたします」
短いやり取りを経て、椛乃社長が電話を切る。ふう、と小さな溜息を落とすと「茉乃ちゃん」と名前を呼ばれる。
「私は行けないけど、今日の商談予定通り参加してもらってもいい?」
「はい、かしこまりました」
何となく話の流れでそんな気がしてた。だけどそうなっちゃうよね。Yoruiの商談だもん。COCONOE側が誰も行かないなんてことは出来ない。
「茉乃ちゃんはこの前の最終確認も参加して全部わかってるし、下手にうちのYoruiの担当者が参加するよりいいって久世社長が」
「……そうなんですね」
これは緊急事態。だけど、久世社長がそう言ったことには驚いた。あの人のことだから「わがままな秘書は不要だ」とか言いそうなのに。いや、椛乃社長の相手にそんなこと言わないか。
「話は全部久世社長が進めてくれるから、茉乃ちゃんはその場にいるだけで大丈夫。秋月さんもいるから、あんまり気負わないでね」
椛乃社長が笑顔を作る。だけど親しい人の不幸に心を痛めているのがわかる笑顔だった。
社長を笑顔にする為にも今日の商談頑張らないと。……って言っても、私は座ってるだけ。だけど、それでもちゃんと、役に立ちたい。
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