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19 知らない感情
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しおりを挟むこの前久世社長とまたキスをした。
一度寝た関係だから今更キスぐらいで騒ぎたくない。――けどこの前のキスから私はちょっと変だ。
もともとこの関係が始まった時から久世社長のことばかり考えているが、これまで以上に考えている気がする。
あのキスのことをずっと考えて、唇が熱い。心臓もそわそわとくすぐったくて――。
『今の“わがまま”は悪くない』
キスする寸前のあの言葉もまた頭から離れない。あんな風に本音を引き出されて悔しかったはずなのに。あの冷徹社長が看病に来てくれたって事実が私をまだ混乱させてるのかも。
「茉乃ちゃん今日は長丁場だから体調悪くなったらすぐに言ってね」
「ありがとうございます。椛乃社長こそ、無理はしないでください」
「うん、ありがとう」
緊張はしているけど、椛乃社長は今日も優しくて素敵。体調が戻ってることは何度も伝えているのにこうやって気遣ってくれるなんてどれだけいい人なんだろう。
そんなことを考えている内に、車は目的地へと到着。佐藤さんにお礼を言って車を降りたところで一度目線を足元へ。車のフォルムに映った自分の姿をさっとチェック。――うん、今日も私は可愛い。
今日の格好は動きやすさとYoruiをイメージして胸元に黒いリボンタイがついたホワイトのブラウスに、ブラックのハイウエストショートパンツ。足元はヒールが5㎝程度の黒いショートブーツ。外はぽかぽか陽気だけどスタジオは寒いこともあるから薄手のカーディガンを羽織っている。
いつもより落ち着いた感じに見えるかもだけど、おしゃれで好きなコーデのひとつ。
髪はゆるく巻いて、片側を耳掛けスタイル。添えられているヘアクリップは――久世社長からプレゼントされたもの。
だって普通、何かを貰ったら、それを使っているところを見せるのが“礼儀”でしょ? なんて……嘘。そんなの言い訳。貰ってからずっとこのヘアクリップを使っている。
それでも実際付けているところを見て、久世社長はどんな反応をするだろう。
まだ顔も見てないあの人のことをまた考えてる。
無意識にヘアクリップに触れた指先。たったそれだけであの夜のキスが蘇っちゃう。
「茉乃ちゃんいこうか」
「はい、行きましょう」
椛乃社長に促されて笑顔を作る。ふう、と深く息を吐いたあと、背筋をピンと伸ばした。
撮影が成功しますように……!
スタジオの扉を潜る前にもう一度、声に出さないお願いをして、それから椛乃社長の後ろに続いた。
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